消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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伯爵領レーゼベルグと魔獣の森

黒装束の男


 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 あの後、レオン団長を起こしたら珍しくすごく寝ぼけていた。寝ぼけ眼でふにゃりと笑うレオン団長が抱きついてくる。

「好きだ。俺が守るから」

 やっと離れた瞬間に、完全に目を覚まして「ごめん!普段は、熟睡しないから寝ぼけた!」なんて言って焦っているレオン団長が可愛かった。

(熟睡しないのは問題だわ。また子守唄を歌ってあげよう)

 レーゼベルグに着いたら、こんな風に穏やかな時間を過ごすことはできないのだろうか。戦いの予感がすぐ近くに迫っているような気がする。

 そんなことを思いながらも、相変わらず飛竜に守られる快適な旅。

 レオン団長は、反省したのか一緒の天幕で寝ようと言わなくなった。何人かの騎士たちが交代で番をしながら夜を過ごす。

 それから数日は何事もなく過ぎていった。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 まるで、暗い影を踏んだかのような微かな違和感を感じて振り返る。

「…………?」

 あと少しで次の街に着くという時に、リリアは誰かとすれ違った。たしかに記憶にあるのに、思い出せないような焦燥感とともに。

 レオン団長が抜剣してすれ違った誰かに斬りかかるのと、リリアが焦燥感を感じたのはほぼ同時のことだった。

 ――――ギィンッ

 剣と剣が凌ぎ合う音に、騎士団員たちが緊張とともに剣に手をかける。

「元気になってくれてうれしいよ。これでまた戦えるな」
「貴様、こんなところまで……誰の差し金だ」

 誰だかわからなかったことが不思議なくらいに、朧げだった輪郭が急激にはっきりしてくる。

(黒装束の傭兵の男……!)

 急に焦燥感の正体がハッキリしていく。霧が晴れていくような感覚とともにレオン団長を瀕死に追い込んだ男が目の前に現れた。

「一人ではないのか。幻覚魔法をかけようとしたな」
「お前にはやはり効かないか。まあ、そこの聖女様も違和感を感じるだけ筋がいい」

 騎士団員たちが慌てた様子で近寄ろうとする。

「手を出すな」

 それを制したレオン団長が、剣を黒装束の傭兵に向ける。

 リリアは、レオン団長の足手纏いにならないよう、後ろにジリジリと下がっていく。その瞬間、甘い香りが鼻腔を満たす。

「――――っ」

 リリアも黄金の光とともに身体強化を発動し抜剣する。しかし、切りかかったはずが、霞を切ったかのように手応えがない。

 その瞬間から痺れるような感覚とともに、リリアの体から自由が奪われる。

「また会えたわネ。落とし子サン?」

 それでもなんとか振り返ると、夢の中にいた妖艶な美女がこちらに微笑んでいる。

 レオン団長が、悲痛な表情で手を伸ばしたのは幻だったのだろうか。

 その表情が、あの日笑った木下くんの笑顔に塗り替えられていく。

「泣かないで」

 なぜかそう言った木下くんが、困ったように笑っていた。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

「七瀬は、それで良いの?」
「え?」

 今日もなぜか木下くんは、困ったように笑っていた。
 でも、七瀬はその笑顔を見ると安心する。七瀬の大好きな笑顔。

「俺は七瀬と同じ大学に通いたい。でも、七瀬はそれで良いの?」
「木下くん?」

 木下くんと七瀬は、小さい頃からずっと一緒にいた。

 七瀬もスポーツ万能で、勉強もいつも上位な木下くんがとてもモテることなんてわかっている。

 違う大学に行って離れたら、木下くんは私なんて……。

「七瀬、選んで。後悔のないように」

 もう一度、木下くんは私に聞いた。

「私、看護師になりたい」

 木下くんの選んだ大学は、看護部がない。それでも一緒にいたかった。

「俺は、大学が違っても他の時間はずっとそばに居たいけど、七瀬は違うのかな?」
「え?」
「夢を掴んで七瀬?近くでその姿を見させて」

 いつも木下くんは七瀬の欲しい言葉をくれる。

「ちゃんと、俺の腕の中に帰ってくると約束して」
「木下くん……」
「俺は、レオンだ。それに君は俺の大切な……」

 差し伸べられた手を掴もうと、手を伸ばしたとき、レオン団長はやっぱり困ったように微笑んだ。
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