消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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伯爵領レーゼベルグと魔獣の森

紅薔薇の騎士


「リリア」

 リリアが倒れ込んでいくのをアイリーンが抱え込んだ。そのまま、騎士たちにリリアを投げる。

「受け取らなかったら承知しないから!」
「アイリーン隊長!」

 慌てた騎士たちが、団子になってリリアをキャッチした。

「ちっ。邪魔が入ったワ」
「逃がさない。私が相手になる」

 アイリーンの高い位置で結った緋色の髪がそのスピードに揺れる。

 赤薔薇の騎士。

 女騎士の最高峰に位置するアイリーンは、美しく舞うように斬撃を浴びさせていく。

 アイリーンの肩に、妖艶な美女の放った斬撃が当たる。赤い花びらのように、飛沫が舞う。それでもアイリーンは攻撃の手を緩めない。

「わ、チョット!もう。ムリ!先逃げるからネ」
「ち。お前ほんとに使えないな!」

 逃げていく妖艶な佇まいの女。それをみたアイリーンが、リリアの元に踵を返す。

「リリア!」

 リリアは気を失っているだけのようだ。

「連れて行かれなくて、よかった。本当にリリアってば危うい。ルードの気持ちが少しわかってしまったわ」

 アイリーンが肩を押さえながらホッと息をつく。

「レオン!こっちは大丈夫!ちゃんと仕留めなさい」

 レオン団長を取り巻く闇の色が、その瞬間爆発的に増える。その姿はまるで闇の翼を持つ堕天使のよう。

「前回見せられなかった、戦うためだけに使う力を見たいってことでいいかな?」
「…………」
「俺からリリアを奪おうとするなら、それ相応の覚悟をしないと」

 ふわり。敵に斬りかかるレオン団長の体がまるで宙を駆けているように見える。仲間達ですら、この状態のレオン団長を見るのは本当に久しぶりだった。

(敵じゃなくて本当に良かった)

 それは騎士団の総意だ。

「…………参った!」
「「「え?!」」」

 皆が予想外のことに唖然とする中、そう宣言した黒装束の男が、剣を投げ捨てて両手を上げる。

「ここまでされて、俺が許すとでも」
「許すさ。だって、俺が持っている情報をお前に渡すから」

 覆面を剥いだ男は、思ったよりも若い。ブロンドの髪にアメジスト色の瞳が印象的だ。

「聖女様を守りたいだろ?誰が差し金か、俺を配下にするなら答えるよ」
「お前にメリットがない」

 レオンは剣から手を離さずに、その瞳に強い光をたたえ男を見つめる。

「強いものに俺は従う。それだけだ。だから、お前より強いものがいたらそいつに従う」
「……わかった。今すぐ話せ。まあ、許すかどうかはリリアの体に異常がなければの話だが」
「――――本当に眠ってるだけさ。俺の名はカナタだ。我が主。俺の依頼主、たぶん予想ついているんだろ?」

 レオン団長の耳元で、カナタが何かを囁く。レオン団長が僅かに瞠目するのを騎士たちは見た。

「リリアの周りには、なぜこんなにも全てが集まるんだろうな」

 しかしレオン団長の呟きは、誰にも聞こえなかった。
 
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