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伯爵領レーゼベルグと魔獣の森
大切なものを天秤にかけるなら
「リリア、無事でよかったわ」
乱入してきて甘い空気を感じただろうに、アイリーンはそれほど気にしていないようだ。
「今回リリアを助けたのは残念すぎるが俺じゃない。アイリーンがいなければ、おそらく今頃帝国行きの船の中だ」
「まあ、最後助けたのはやっぱりレオンだけどね!」
二人に感謝しかない。きっと騎士団のみんなにも心配をかけただろう。
「アイリーン隊長、ありがとうございます」
「当たり前なんだからいいの。リリアが無事で良かったわ。邪魔したわね!」
颯爽と去っていくアイリーンは美しくカッコいい。少しだけ空気が読めないが、それすら彼女の美点なのかもしれない。
「でも、あの覆面のカナタさんに勝つには、また無理なことしたんでしょ?」
「…………そんなことない。余裕だった」
残念なことにレオン団長はリリアに嘘がつけない。たぶん、前回戦うためだけにって言ってたやつをしたとリリアは確信する。
「見せて……くれないかな」
「え?」
「その時使ったやつ、見せてくれないかな」
「――っ――――や、見せるようなものじゃ。いや、その顔反則だから!」
(顔が反則?っていうのはよくわからないけど)
何をそんなに嫌がっているのだろうか。リリアは困惑して小首を傾げる。
「やっぱり、命の……危険が?」
「そういうんじゃ、ないんだよ。攻撃全振りで防御力ほぼゼロになるけど、そういうんじゃ」
「レオン団長のこと、全部知りたいんだよ」
その瞬間、レオン団長は瞠目した。何故か耳が赤い。
「――――っ、そういうことじゃないよな?!わかってる!見せてあげるから、もう許してください限界だ!」
その瞬間、顔を両手で覆ったままのレオン団長の背中に漆黒の羽が生えた気がした。黒い魔法が腕や背中に絡みついてそう見えるのだ。
「ふあぁ?!堕天使様!」
「やっぱ、そうだよな!だから見せたくなかったのに!!」
レオン団長のピーコックブルーの瞳が、そのまま真っ直ぐにリリアを見つめる。
黒髪と黒い翼のレオン団長は、美しいピーコックブルーだけが際立っていて。
『個人的には天使様よりも堕天使様が好き!堕天使属性の騎士団長一推し!』
リリアの中の七瀬が珍しく叫んでいる。少し黙っていて欲しい。
「……でも、リリアのことこのまま誰もいないどこか遠くに連れ去ってしまおうか」
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(堕天使様からの蠱惑的なお誘いが来てしまった)
もしも、二人だけで一緒にいられたら。それは想像するだけで甘い、幸せな毎日だろう。
でも、それには。そうリリアは思う。
「それをするには、大切な人が増えすぎたね」
「それでも……リリアが望んでくれるなら、俺はいつだって」
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「リリア……」
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それでも、全てを捨ててしまったら、きっと二人とも本当には笑えないだろう。
……それなら。
「この先何があっても、私のために大切なものを捨てないで欲しい」
「ははっ。……リリアは難しいことを言うな。俺にはリリアより大事なものなんて一つもないのに」
「そのかわり、ずっと一緒にいよう」
リリアの手が、レオン団長の手をそっと握る。
どれよりも努力をしたことがすぐにわかる、戦う人間の手だ。
「くっ。リリアは男前だ。……ああでも、そんなリリアだから俺は」
リリアとレオン団長の持つ力は、二人の手に余るほど大きくて。大きすぎるせいで波乱を呼ぶのかもしれない。
それでもこの力で守れるものがあるなら。まだ、甘い甘い二人だけの怠惰な生活はお預けと二人は決めた。
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