消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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伯爵領レーゼベルグと魔獣の森

竜騎士団創設

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 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 リリアが領主の屋敷に着いたところ、飛竜たちは再び地に降りて羽をたたんだ。そのまま動く様子はなく、人が近づいても攻撃してこなくなったそうだ。

「飛竜たち、私が乗っても攻撃してこないの!それどころか擦り寄ってきて可愛いから魔獣の肉で餌付けしてるの!私、竜騎士になることにするわ」

 アイリーンは、また無茶なことをしたようだ。だが、レオン団長は頷くとアイリーンに命令を下す。

「では、アイリーン。竜騎士団創設はお前に任せる」
「任せられたわ」

 リリアは、信じられない気持ちでレオン団長の方を振り向く。

「大丈夫だ。アイリーンが飛竜程度に遅れをとるはずがない。であれば、やってみるべきと判断した」

 真面目な表情のレオン団長。冗談ではないようだ。

『竜騎士に俺はなる』

(んん?いま木下くんの声が脳裏に浮かんだけど?)

「あの……レオン団長?」
「昔の話は今は聞きたくない」

 そうだ、木下くんは七瀬が騎士物語の続編の竜騎士物語にハマった時にそんなことを叫んでいた。

「あの、もしやまた七瀬の余計な一言が尾を引いてるんですか?」
「余計じゃない!可愛い七瀬が『竜騎士と一緒に竜の背中に乗ってみたい』と言ったら叶えたいと思うのは当然だ。俺だってリリアに言われたら即実行だ!」

(レオン団長は、騎士団の強さをさらに高めようと言うだけでアイリーンに指令を下したわけではない気がしてきた)

 昔の話を自分からしてしまったレオン団長は、少しだけ目元を赤くしてリリアから目線を逸らした。

 それに、この世界には本当にドラゴンも飛竜もいる。やると言ったら、レオン団長ならやりかねない。

 しかも、リリアの中で七瀬が『竜騎士団最高!』とまたしても騒いでいる気がする。いや、認めよう。リリアも心が沸き立っている。

 だって、竜騎士という響き。その響きに抗い難いのは仕方ないと思う。

(ロンなら頼んだら乗せてくれそうだけど)

 それにしても、七瀬が読んでいた物語が、魔王とのラブストーリーとかでなくて本当に良かった。

 もしかしたら、『魔王様が素敵すぎる』というつぶやきにより、ここにいるのは騎士団長ではなく魔王だったかもしれない。

 実際リリアも七瀬も、聖騎士より暗黒騎士派、勇者より魔王様派なのだから。

(だからって流石にそれはない。ない……よね?)

 竜騎士団が創設される。でも、これは現状、レオン団長直属、レーゼベルグ伯爵領の私設部隊だ。

「あの、レオン団長?過剰戦力では」

 どこと戦おうと言うのか。

「……戦争は嫌いだ。だが、帝国からリリアを守るためなら俺は準備を怠ったりしない。それに、ここは魔獣があふれる最前線であることを忘れるな」

 平和に慣れてしまっていると気付かされるリリア。人の生き死にには七瀬として関わってきたが、そこには機材も人手もあった。

 リリアが5歳の時に、帝国との和平が結ばれた。リリアは戦争を知らない。その戦争に、今のリリアと同じ、わずか16歳のレオンが参加していたのに。

「そうだね。幸せな毎日に、そんなこと思いもしなかった。私も騎士団の一員なのにね」
「……リリアには、ずっとそのままでいて欲しい。その願いが叶うよう全力を尽くすんだよ」

 レオン団長は、飛竜に近づくとその頭をそっと撫でた。
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