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伯爵領レーゼベルグと魔獣の森
SS 七夕に幼なじみは出会う
目が覚めると、なぜか鏡の前にいた。
その鏡に映るのは、金の髪の毛と青い瞳のまるで人形のように可愛らしい少女。
彼女の名前を知っている。彼女はリリア。
「どういうこと……。リリアはまた何か精神に異常をきたすような魔法を使ったの?」
今の状況で浮かぶのは、あまりよろしくないことばかりだった。
リリアが唯一使える攻撃魔法は、リリアの精神を一部の記憶とともに眠らせてしまう。または、幻影使いのヒナギクのような精神に影響する攻撃を受けてしまったか。
「どちらにしても、レオンさんと合流するのがいいかしら」
七瀬は、いつもの癖で髪の毛をクルリとまとめると、部屋を飛び出そうとした。
その瞬間、勢いよく扉が開く。
「……レオンさん?」
目の前にいたのは、ピーコックブルーの瞳。リリアを毎日溺愛しているレオン団長だった。
「……七瀬」
「そう、目が覚めたら私になっていたの。――――レオンさん?」
泣きそうに顔をゆがめたレオン団長が、七瀬を抱きしめる。なんだか様子がおかしい。
「こんな風に、七瀬を抱きしめることができるなんて思わなかった」
「え……?」
「ごめん、驚かせて……。でも、何が起こったのかは分からないけど、今だけ」
「――――木下くん?」
名前を呼ぶと、少しだけ抱きしめていた腕の力が緩んだ。
目の前にいる人は、たしかに困ったように笑っていたけれど、いつもの不敵な、人を射抜いてしまうような鋭い瞳をしていない。
その瞳からは、七瀬に対する愛しさだけが優しくあふれ出していた。
「なんだかんだいって、こうやって会うのは初めてだね?」
「そうだな……夢の中で会っていたような気がするけど」
「リリアもレオンさんもどうしちゃったんだろうね」
「ああ、俺たちで何とかしないといけないのかな」
二人は顔を見合わせる。たしかに、二人の体は転生チートといってもいいだろう性能だ。けれど、ただの日本人な二人が、この性能を使いこなせるとも思えなかった。
……いや、剣道でもスポーツでも万能な目の前にいる幼なじみなら、たぶん何とかしてくれる。七瀬にとって木下くんへの信頼は、それくらい振り切れている。
「そんな期待を込めた目で見るのやめてくれよ。もちろん、何があっても七瀬の事を守るけど、俺はそんなに期待されるほどのことはできないと思うよ」
絶対の自信を見せてくれるレオン団長に比べて、七瀬の幼なじみは少しだけ慎重派だ。でも、二人で過ごしていた毎日の中で、七瀬を守ってくれなかったことなど一度もなかった。
「……七瀬のその笑顔。ここは、平和な日本と違うんだから俺のことそんな風に信じてちゃだめだから」
「そうだね……。とりあえず、あの人のところに行く?」
「ああ、相談するならあの人が一番だと俺も思うよ」
二人は、一番の常識人だと認識している人間のもとに向かった。
「――――それで、俺のところに来たと」
腕を組んで、いつも消えることのない眉間の皺を深くしてルード副団長がうなる。
「冗談言っているわけではないみたいだな」
「そんなこと言っても仕方がないわ。リリアとレオンさんは眠ってしまっているみたいだから」
「残念だが、そう言ったことへの対処は俺の専門外だ。ただ、なにか不思議な魔力が二人を包んでいるのはわかる。……これは、闇魔法と光魔法が複雑に絡みついているみたいだな。まるで、天の川みたいだ」
天の川が、この世界にも存在することに少し驚くが、天の川という言葉に少しだけ七瀬は引っ掛かりを覚えた。
「……今日って何日だったかしら」
「七月七日だな」
その言葉に、思い当たることは一つだけ。今日は七夕だ。
それに、ルード副団長は闇魔法と光魔法が複雑に絡みついていると言った。
七瀬とレオン団長は顔を見合わせる。
「たしかに、七夕の夜に強く七瀬に会いたいと願った」
「私も……木下くんに会いたいと」
ルード副団長が深いため息をついて、眉間を指で押さえた。
「結局、自分たちの仕業ということか?じゃあ、一日好きに過ごしてみたらいい。今日は、臨時休暇を申請しておく。明日になっても戻らなければ、本格的に検討が必要だが」
なんだかんだ言って、自分たちの事を信じてくれたばかりか、いつも最適解を探してくれる。ルード副団長、頼りになってしかもいい人!七瀬は感動する。
「ルードさん……いつも思っていたけど、流石です。いつもありがとうございます」
「うっ、その顔でそういうこと言うのやめてほしいな」
ルード副団長の執務室から出た2人は、自然と手をつないでいた。
たぶん、この不思議な魔法も今日一日で解けるに違いない。
だから今は、今だけは。
「私、レオンさんとリリアのデート、羨ましかったんだ」
「そっか……。俺もだよ七瀬?」
「異世界の本屋さんに行きたい」
「本は高級品だけど、今日だけはレオンがいつもリリアのためにため込んでいる資金、使わせてもらおうか」
幼なじみは、いつかのいたずらを企んでいた幼い頃の表情で笑いあう。
リリアとレオンはそれくらいの事を二人がしたって、絶対に気にしない。むしろ喜んでくれるに違いない。
二人は手をつないで、仲良く街に出かけ、大量の本を購入した。
そして、その日一日、いつもそうしていたように二人でそれぞれ本を読んで、当たり前の日常を満喫した。
✳︎ ✳︎ ✳︎
翌朝。レオン団長とリリアはなぜか本が散らばった室内で目を覚ました。
昨日一緒に眠ってからの記憶が全くない。
「ね、レオン団長。これ、どこかで見たことがある景色だよね」
「ああ、日付もなぜか代わっているみたいだしな」
「あの二人がやったとしか思えないんだけどどう思う?」
「……それしか考えられないな」
二人は顔を合わせて笑いあう。
七夕の当日、幼なじみはつかの間の逢瀬を楽しんだのだろう。
二人は仕事開始までのつかの間、互いの背中を寄せ合ってやはりお互いの趣味にピッタリな本を読みふけった。
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