消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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伯爵領レーゼベルグと魔獣の森

騎士団長の奥方


 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 昼過ぎまで、カナタとヒナギクの着せ替えを楽しんだころ、やっとレオン団長が現れた。

「リリアとの約束の時間に遅れるくらいなら、もう騎士団長と領主とか辞めようかな」

 なんだか、ウェディングドレス大事だけど、そこまでのことだろうか。いや、乙女の夢を分かってくれるのは嬉し過ぎるけれど?

 リリアは首を傾げてレオン団長を見つめる。

「うっ、そんな可愛い顔でそんなに見つめないで欲しい」

 レオン団長が平常運転だったので、リリアはどこかホッとした。

「レオン団長が忙しいのは、理解しているつもりです。仕事で少し待たせたからって気にすることないですよ?」
「理想的な奥さん過ぎる!……でも、俺が嫌なんだ」

 レオン団長が、理想的な旦那様過ぎる。リリアの頬が少し紅潮する。

「慣れろ……ヒナギク」
「だ、大丈夫だから。カナタ……」

 カナタとヒナギクがなぜか震えている。見やったマダムシシリーまでが、口を押さえて震えているのはなぜなのだろう。

「でも、それよりも白いドレスのリリアが見たい」

 いつもなら必ずドレスにあしらわれているピーコックブルーが全く見当たらない。リリアは、それが不安になる。

「あの、いつもの色が全く見えないんだけど」
「ああ、この白いウエディングドレスすべてを俺の色に染めてしまうから、いいんだよ」
「ひゃわ?!」

 真顔で答えたレオン団長に、なんて答えたらいいのだろう。

 正しい答えはどこかに存在するのだろうか。

「可愛いリリア。俺のために真っ白なドレスを着てくれる日が来るなんて、信じられない。今までのすべての苦しさも、孤独も埋め尽くされてしまいそうだ」

 どこまでも、愛しいものを見るようにレオン団長が見つめてくるから、リリアはもうどうしたらいいかわからなくなってしまう。

「どうして……」
「この世界には白い花嫁なんて一般的でないけど、俺たちにとっては特別だ。違うか?」

 違わないとリリアは思う。七瀬も、木下くんもこんな風に白い盛装を身にまとう瞬間を夢に見ていたから。

「……なんで、泣くんだよ。リリア」

「――――嬉しすぎるから」

 どれだけこの瞬間を待ち望んだのか、二人にはもうわからない。
 まだ、本番までは半年近くの時間があるのに。

「白いドレスを着たリリアが俺のためだけに着飾ることが、ここまで幸せだって思わなかった」
「着飾るのはいつも、あなたのためだったのに。知らなかったの?」

 口元を手で押さえて、レオン団長が瞳を見開く。

「え……なにそれ、うれしすぎるんだけど。……知らなかった」

 こんなにいつも伝えていたつもりだったのにとリリアは驚きを隠せない。伝わると思っていることが伝わっていないなんて。

「俺がずっと好きだった気持ちに、こんな風に答えをもらえる日が来るなんて思っていなかったから」

 レオン団長にはリリアの気持ちが本当に一部しか伝わっていなかったのだと反省してしまう。

「そうだったんだね。でも、こんなに好きな気持ちが伝わっていなかったなんて悲しいかも」
「……ごめん。でも、きっと俺の方がずっとずっとリリアの事が好きなんだ」

 ずっと夢見てた。こんな風にたった一人のために白い衣装を着る日。それはとても、長い長い期間を経た気がした。

「うそ。私だってすごくすごく好きなんだよ」
「……そんな幸運が、この世界に存在するなんて。信じられないほどうれしいよ」

 あと少ししたら、長いベールを身に着けてレオン団長のもとに立つリリア。
 それは、普通の恋人よりもずっと長い期間を経て叶った願いだった。
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