消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

文字の大きさ
90 / 96
伯爵領レーゼベルグと魔獣の森

義母と娘


 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 リリアは、騎士団女子寮の自室の机に座りため息をついた。

 机の上には、招待客へ送る手紙が山ほど積み重なっている。通常、手紙は両家の母親が手伝って書いてくれるのだが、リリアの母は庶民であり、そういった手紙の作法には疎い。

 せめて最低限リリアが恥をかかないようにと結婚式でのマナーの習得に力を入れてくれている両親に、これ以上の負担を強いるわけにもいかなかった。

 マナーについては努力家の父と母のことだ。侯爵家からも優秀な講師が派遣されている。特に心配はないと思うが。

 レオン団長は、忙しく領地と王都を往復する日々を送っている。本当であれば領地である程度の地盤を固めるためにとどまった方が良いのだが「リリアに会えないなんて死んでも嫌だ」と言って、遠い道のりを帰って来るのだった。

 往復に付き合ってくれているロンにも申し訳ないが「魔獣の森を放っておくと、また騒ぐやつらがいるからな。リリアのそばにもいたいから、ついでにレオンを乗せてやるだけだ」と言っていた。本当に時々惚れそうなほど男前の竜だ。

「さ、続きを書かないと間に合わないよね」

 リリアが、手紙と向き合いペンを握った時に少し慌てた雰囲気でドアが叩かれた。

「リリア!大変よ?!」
「どうしたの?」
「お客さんなの!とにかく来て!」

 いつもおっとりと構えていることが多いパールが、こんなに慌てるなんて珍しい。

 リリアが階下に降りると、そこには黒髪に黒い目をした優しい雰囲気の女性が立っていた。

 初めて会うのに、すぐにわかってしまう。切れ長でまつ毛の長い瞳、少し薄い唇、黒い髪……。

(本当に、お母様似だったのね。レオン団長は)

 いかつい雰囲気の閣下とは、瞳の色だけが似ているレオン団長。
 しかし、目の前にいる女性は優しい雰囲気ではあるが、本当にレオン団長に似ていた。

(それに、聖女の力を失ったって聞いていたのにこれは……)

「はじめまして、あなたがリリアさんなのね」
「はじめまして。リリアです。お母様……とお呼びすることをお許しいただけますか?」
「うれしいわ」

 そう言って微笑んだレオン団長の母親。まるで一面に美しい花が咲いたように錯覚しそうだった。

(レオン団長は、横に並ぶのが辛いほど美形だけど、お母様のこれは……。女神、女神なの?!閣下が溺愛するのもわかる気がするわ)

 陛下はリリアとの約束を守ってくれたようだ。

「あの、閣下やレオン団長とはお会いになりました?」
「まだなの。一番にここに来てしまったから。でも大丈夫、きっとすぐに来るわあの人。それよりも、招待状に苦戦しているのではないかしら?」
「え?すぐに来る……?」

 その直後、後ろで扉がすごい勢いで開いた。

「リーナ!!」

 唖然としているパールとリリアには目もくれず、将軍閣下がリーナお母様に抱き着いた。

「会いたかった。リーナ、まるで時が止まっていたかのように君は相変わらず美しいな」
「閣下……」
「――――リーナ。もう、エディとは呼んでもらえないのか?」
「エディ……私も、会いたかったです」

 甘い!義理の両親二人の空気が甘すぎる!

 そして、閣下の台詞が持つ雰囲気はあまりにレオン団長のそれと酷似していた。これを、周りに振りまいていたのかと今更ながら気づいてしまったリリアは赤面する。

 今度から、人前ではレオン団長の空気にのまれないように自粛しよう。

 リリアはそう心に誓った。
感想 8

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

全力でお手伝いするので、筆頭聖女の役目と婚約者様をセットで引継ぎお願いします!

水無月あん
恋愛
6歳から筆頭聖女として働いてきたルシェルも今や16歳。このままいけば、大聖女様のあとを継ぐことになる。が、それだけは阻止したい。だって、自由にお菓子が食べられないから! ということで、筆頭聖女の役目と婚約者をまるっとお譲りいたします。6歳から神殿で、世間から隔離され、大事に育てられたため、世間知らずで天然のヒロイン。ちなみに、聖女の力はバケモノ級。まわりの溺愛から逃れ、自由になれるのか…。 ゆるっとした設定のお話ですので、お気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

巻き込まれではなかった、その先で…

みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。 懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………?? ❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。 ❋主人公以外の他視点のお話もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。 ❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

花言葉は「私のものになって」

岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。) そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。 その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。 美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。 青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。