消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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伯爵領レーゼベルグと魔獣の森

愛しいから会いたくて


 リーナお母様は、驚くほど有能だった。多くの言語に精通し、手紙を送る相手の祖国、そしてその土地の風習に合わせて手紙を書き上げていく。

(すごい……レオン団長の有能さは両親から受け継いでいるのね)

 しかし、木下くんの記憶力や運動能力もチートのようなものだった。本人がひけらかすことがないから目立たなかっただけで、幼なじみは知っている。

 ということは、有能さは魂に刻まれているのだろうか。
 あんまりな仮説なのでリリアは、首を振るとその考えを打ち消す。

「リリアさん。そちらの差出人へは、季節の挨拶を気をつけた方が良いわ。こちらとは、気候が違う地域の方だから」
「暖かい国の方ですよね?」
「良く学んでいるわ。あとは応用ね」

 一人で書いていた時と違って、雪崩を起こしそうだった招待状の山はあっという間に小さくなっていった。

「これで全部。リリアさんは本当に有能だわ。あの子にはもったいないかもしれないわね」
「えっ、レオン団長ほど有能な人はいないと思いますよ?」
「――――そういうのではないの。レオンはたぶん貴女だけが支えでとても不安定だから。それに比べるとあなたはきっとどこででも活躍できる」

 レオン団長と同じようなことを言うリーナお母様。でも、リリアだってレオン団長がいない日々はもうきっと耐えられない。

「あの……私たち実は」
「生まれる前からお互いを知っていた……かしら」
「――――っ」
「レオンの子ども時代や今のレオンを見ていたら、それ以外に説明がつかないもの」

 聖女教育でも、落とし子については秘匿されている。それでも、母親の目から見れば子ども時代のレオン団長の様子には思うところがあったのだろう。
 父親である閣下も同じ結論に達していた。

「過去にとらわれているのではないの?」
「――――いいえ。今のレオン団長が好きです」

 ヒナギクのせいで、危険な目にあったが七瀬として木下くんに会った時の違和感。リリアが好きなのは木下くんではない、放っておくことができないレオン団長しかいない。

 それを聞いたリーナお母様は微笑んだ。

「少し心配だったの。理想と違うというのに後から気づいてしまったらと思うと。レオンは外では完璧な人間のようにふるまっているけれど、誰よりも弱いから」
「――――弱さを知っているからこそ、強いのだとも思います」
「ふふっ。本当にレオンのことを好きでいてくれるのね。ありがとう」

 そこまで言ってはみたけれど、リリアの頬はどんどん熱を持つ。
 好きだということを自覚しても、ただ素直にそれを誰かに言うのは恥ずかしい。

 そんな私を微笑ましいものでも見るように見ていたお母様が、招待状をまとめながら呟く。

「そろそろ、二人とも仕事を終える頃ね」
「えっ、まだ明るいですよ?」

 将軍閣下とレオン団長が最近とても忙しくしているのをリリアは知っている。それは、地盤を固めるためであり、きっとリリアを守るためでもあった。

「それでも、終えてくるわ。それも完璧に。あの二人の事だもの」

 リーナお母様がそういうと同時に、ドアが開かれた。

「リーナ!最速で終えてきた!もう、誰が何といっても離さないからな!」
「ふふ。でも、部屋に閉じ込めようとしたら知りませんからね?」
「うぐっ。あのことはもう、忘れてくれないか」
「――――忘れられないわ。あなたとの事は一つだって」

 またしても、甘い空間が展開されてしまう。これにはさすがのリリアも弱ってしまった。なんだか天井からゴホンとヒナギクの咳払いが聞こえたような気がする。

 侍女として傍にいてほしいと言ったのに「まだ完璧に擬態できないから」というよくわからない理由で天井に控えてしまったヒナギク。

 擬態ではなく侍女としてそばにいて欲しいのに。

 それに天井に控えるのは、カナタとヒナギクの出身地では当たり前のことなのだろうか。

 そして義理の両親が去っていくと急に部屋が静かになった。

(なんだかとてもとても、レオン団長に会いたくなってしまったわ)

 ただでさえ最近は、今まで毎日一緒にいたのが週に一度くらいしか会えないのだ。

 リリアは思わずドアを開けて駆け出していた。

 団長室まで走っていくつもりだったのに、いつも待ち合わせする大きな樹の下にレオン団長は佇んでいた。
 そして、いつものようにリリアの姿を見つけるとこちらへ駆けてくる。

 でも今日は、リリアだって全速力でレオン団長に向かって走る。
 そして、大好きなその腕へと勢いよく飛び込んだ。

「…………リリアがこんな風に飛び込んでくるなんて珍しいね。もしかして俺に会いたくなったのかな。――――なんて」
「会いたかった!」
「え?夢かこれ?あれ、それともヒナギクのいたずらか何かか?……いつの、まに」

 その腕に抱き留められて、リリアがレオン団長を見上げる。
 なぜか信じてもらえないことが、とても不満だった。

「レオン団長に会いたくて。待ちきれないから走ってきたんだよ」
「えっ?!ここは天国か?天使がいる?!」
「たまには二人だけで過ごしたい……」
「え、本気で?!それ俺が言おうとしていたことなんだけど」

 しばらく見つめあっていると、レオン団長が長い、長い溜息をついた。

「――――あまり、煽らないでくれ、これでも我慢しているのに。それとも、もう何をされてもいいって覚悟の現れかな?」
「――――いいよ」

 時間が止まってしまったのかと思うほど、二人の間に重すぎる沈黙が流れた。

(あれ……思わず言ってしまったけど、積極的すぎるのは嫌だったかしら)

 恐る恐るレオン団長の顔を見上げるリリア。

(うっ?!どうして鬼団長モードになってるの?)

「覚悟のある人間だけが、覚悟を口にしていい。違うか?」
「かっ、覚悟……あるよ?」

 レオン団長が、急に年上の男性みたいになってしまってリリアは心臓が跳ねるのを感じた。
 そんな風になってしまったリリアを、大人の男性が見つめている。

(なに?!最近なりを潜めていた鬼団長モード……ここでお目にかかれるとは)

 それでも、レオン団長になら何をされても構わない。それくらい好き。

 でも、それを言うには勇気が足りなかった。

「リリアを傷つけたくない。今のまま、抑えられない心のままリリアのことを傷つけたくないんだ」

 それでも、レオン団長はリリアの全てを奪うように口づけした。
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