消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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伯爵領レーゼベルグと魔獣の森

結婚式と幸せな幻影


 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 結婚式当日は、晴れ渡った天気だった。

 アイリーン隊長がちゃんと現れてくれてほっとした。ルード副団長も一緒だった。
 でも、一晩でさらに美しくなった気がする?

「おめでとう。そしてありがとう……リリア」

 微笑んだアイリーンは、いつも以上に美しかった。

 そして、いつものようにリリアにくっついていたロンがつぶやいた。

「ドラゴンのままじゃだめか?」

 オレンジの髪に金の瞳のロンは、今日は正装だ。

「騒ぎになっちゃうから、そのままいてくれると嬉しいわ。ご馳走沢山あるから」
「じゃあ、仕方ないな!」

 ロンはご馳走が山ほど乗ったテーブルへ走って行ってしまった。

 カナタとヒナギクも、かなり抵抗したがお揃いの盛装に身を包んでベールを持ってくれている。
 二人がこうしてついてきてくれることは、一人っ子のリリアとしては嬉しすぎる贈り物だった。

 そのまま、緊張した様子だがしっかりした足取りでマナーも完璧な父と腕を組んで神殿の赤い絨毯を進んでいく。

「リリア、想像以上にきれいだ。まだ、夢を見ているんじゃないかと思うよ」

 目の前に立って幸せそうに微笑んでいるレオン団長こそ、想像以上だとリリアは思う。
 その隣に並んだら、リリアなんて霞んでしまうだろう。

 それに、珍しく今日は困ったように笑っていない。たぶん心からの笑顔だ。

 父の腕からレオン団長の腕へ。ここに来るまで、どれだけ長い月日がたっただろうか。
 七瀬と木下くんがたぶん無意識にではあってもお互いの未来にこの時を願い始めたあの日から。

「レオン団長……」
「今日からは団長はなしだよ……ずっと、レオンと呼んでほしい」
「レオン、そうだね。仕事……以外ではね」
「うわ。仕事したくなくなるな!」

 結婚式に問題発言をするレオン団長だが、そう言いながらもレオン団長は途中で止めてあげないといけないくらいの仕事人間なので問題はないだろう。

「リリア、愛してる」
「私もレオンのこと誰よりも愛してる」

 二人はたくさんの人に祝福されて誓いのキスをした。リリアの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

「――――え?」
「七瀬?」

 目の前に、紋付袴姿の木下くんがいた。あれ?さっきまでここじゃない場所にいた気がしたのに。

「結婚式の最中になにぼーっとしてるんだよ。しかし、七瀬のその白無垢と綿帽子姿、きれいすぎて夢見てるのかと勘違いしそうだ」
「木下くん……?」
「七瀬も木下七瀬になるんだよ。いい加減、祐樹って名前で呼んでくれる?――――俺の奥さん」
「祐樹……くん?」

 二人は向かい合って微笑みあう。三々九度の盃を交わして。

「愛してる、七瀬。ずっと一緒にいよう」
「うん、ずっとこの日を夢見てた気がする。祐樹くん……愛してる」

 夢のような時間は、幻だったように徐々に輪郭をおぼろげにしていった。

「「幸せになって」」

 二人の声が、耳元で聞こえた気がした。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 病むときも、健やかなるときも、ともにいることを誓った二人の唇が離れていく。

 ――――今、白昼夢を見ていた?それとも。
 レオン団長も、呆然としているところを見ると同じものを見ていたようだ。

 振り返ると、ベールガールをしていたヒナギクがいたずらに成功したような満面の笑みをみせている。
 
(ヒナギクが見せた幻影だったのね)

「私からの贈り物だよ。二人が心の奥底で願った夢が同じだったから。結構時間かけて準備して我が主のガードをかいくぐるの大変だったんだから」

 我慢していたのに、そこからリリアは号泣してしまった。化粧がはがれてしまう。

「ああ、そうか。幸せになってもいいんだな……二人の分まで」
「そうだね。幸せにするから、幸せにしてくれる?」
「ああ、リリアが望んでくれるなら……約束するよ」

 リリアは花束を投げる。その花束はアイリーンの手に落ちていった。
 この世界にはそんな言い伝えはないけれど、リリアはその意味を知っている。

 リリアは、少しだけ微笑むと愛する人をもう一度見つめた。
 二人は腕を組んで、祝福の花が降りしきる中を歩いて行った。
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