破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら

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悪役令嬢と聖女

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 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 幻獣は強くても、補助魔法が掛かった三人と身体強化に磨きをかけたフローラに敵はいなかった。もう、ここは最後の部屋だ。ほかの扉とは全く違う重厚な扉が目の前にある。
 何度も何度も涙をのんだミニゲーム。蔦が絡むその先にいたのは……。

(なぜだろう、誰がいたのか思い出せない)

 たしか、攻略者たちの一番弱い部分をついてくる設定だったはず。そして、ミニゲームの先には誰かがいたような気がするのに。

「――――ディオ様は、この部屋に入ったんですか」

「この部屋の扉だけは開かなかったから、まだ入っていないです」

「そうですか……」

 たしか、聖女なしにはこの部屋に入ることができなかった。そして、この部屋の奥にいるのは。
 私が扉に手をかけると、黒い扉が七色に輝いた。

「どうして……」

 その部屋の中にいた人影に、全員が息をのむ。そこにいたのは黒いドレスを身にまとった私だった。そして、草原の真っただ中で。黒いドレスを着て表情をなくした姿はその場所にはそぐわずに。

『ジャマスルノ』

 心臓に絡みついた蔦が激しく蠢く。どうして忘れていたんだろう。ラスボスになる一歩手前の悪役令嬢リアナがいたのだ。この部屋には……。
 でも、この姿は明らかにゲームの中の悪役令嬢リアナというより私、そのものに見える。

「リアナ……」

 ディオ様が、あの時のように呆然とした瞳で、黒いドレスの私を見つめている。その瞳は、今の私を見てはいない。

「ディオ様!」

 体を強張らせて、こちらを振り返るディオ様が、目を覚ましたように私の瞳を見つめる。それでも、その体は凍りついたようにすぐには動かないようだ。
 周りを見ても、全員が呆然と、黒いドレスの私を見ている。

 私は確信した。ここにいる黒リアナは私が倒さなくてはいけないのだと。

「自分のことくらい自分でなんとかしたいよね」

 今日初めて剣を抜いた。なんだか体が軽い。きっと、レベルという概念は、目に見えなくても確かにあるのだろう。

『ナゼ……』

 なぜ?そんなの決まってる。

「そんなの今度こそ大切な人を守りたいからに決まってる!」

 剣は蔦に絡まる。虚ろだった黒いドレスを着たリアナの瞳に私の姿が映った。蔦が全身に絡みついて全身が総毛立つ。まずい、取り込まれる……?!

「馬鹿か!無闇に突っ込むやつがあるか!」

 その蔦を、兄の風を纏った剣が切り裂く。兄は……動けたのか。兄の姿を見た、黒いドレスのリアナが目を見開く。その唇が僅かに震えて。

『オニイサマ……』

「ごめんな、たしかにお前も俺の妹みたいだ。でも」

『――――っ。何故、私を庇ったりしたのですか』

「ん?庇ったのは俺じゃないが、リアナが可愛いからに決まってるだろうな?」

『――お兄様の大馬鹿!鈍感!……大嫌い!』

「えぇ……?」

 光が戻った黒ドレスのリアナの瞳。それでも、その体からは無数の黒い蔦が溢れ出して。

「リアナ!」

 私の体は、再び黒い蔦に絡みとられてしまう。七色の光が世界を包み込む。声の主に力強く腕を掴まれ、引き寄せられた。

『優しい声をしたあの人。今度こそ、守るの』

 私を引き寄せたディオ様が放った一閃が、全ての蔦をかき消していく。おそらく、繰り返していた過去の幻とともに。

消えた幻を見つめながら「一人で戦うリアナを必ず助けるから」とディオ様がつぶやく。

 優しい声というのには、私も同感だ。その声はとても優しくて。そしてたしかに「助ける」と言った。

(幻……だったんだよね?確かに鈍感な兄を持つと苦労するよね?)

 何故か、兄に対しての鈍感という言葉に、私はひどく共感してしまう。間違いなく、大嫌いは裏返しだと思うけど。

 黒いドレスのリアナがいた場所から、小さな七色の魔法陣が私とフローラに吸い込まれていった。
 吸い込まれた魔法陣が、心臓に絡む蔦に吸い込まれていくのを感じた。

「あれ……なんかこれ、また呪われてたりしない?」

 ミルフェルト様の紫色の魔法陣、七色の魔法陣、そして黒い蔦。私の呪いは、ますます複雑さを増しているような気がした。
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