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悪役令嬢と搦め手
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優勝候補の一角、ライアス様が棄権してしまったため、誰もがランドルフ先輩が優勝すると思っている。
「お兄様、私はお兄様の妹ですから見ていて下さい」
「まあ、事実だが……。いや!無茶するなよ?!」
焦っているところを見ると、兄は普段自分が無茶をしているという自覚はあるようだ。
それならお互い様だ。妹の無茶振りを見るといい。
ライアス様とフローラ、二人減ってしまったので、今年の総当たり戦は十人で行なう。
去年も兄が棄権したことを考えると、武闘会学年別の試合はなかなかの危険度だ。
(聖女に拘って、正攻法で行こうと思ってたけど、私は元々悪役令嬢なのよね)
悪役令嬢なら、それらしい戦いをしたっていいではないか。フローラの戦いを見てからそう思い始めた。
そもそも、乙女ゲームの中のラスボスリアナは、搦め手しか使ってこない。
優勝は私が頂く。
首席になればミルフェルト様に毎日会える権利が手に入る。
そのためには手段は選ばない。まずは一年生達の剣を空に打ち上げて失格にする。
防御力の弱いものから先に執拗に攻撃する。ラスボスリアナがよく使ってくる攻撃だ。
(ゲームではヒロインが集中的に狙われて泣いたわ)
二年生唯一となってしまったマルクくんには、接近戦では負けない。
三年生はもう、全部倒したんですか?今だけ共闘しましょう、ランドルフ先輩!微笑みかけると、ランドルフ先輩も笑みを返してくれた。
「ほら、あとは私たちだけですね?ランドルフ様」
「戦闘スタイル変えたか?ディルフィール」
さすがですね!今回は搦手で行くことにしたので、気をつけたほうがいいですよ?言いませんけど。
「さあ、戦いましょう?」
「ああ、そうだな。ディルフィールのために強くなったところを見て欲しい」
ランドルフ先輩も、ヒロインと悪役令嬢を見間違えて台詞を発してしまう病に罹ってしまったようだ。
たしかに強くなりましたよね。しかも遊び人もやめて、かつとてもいい人なので、世の女子達にとってポイント高いと思います。
でも、勝負は非情なのです。
打ち合った瞬間に、回復魔法の光を強くランドルフ先輩の目の前で弾けさせる。
どうですか?私の勝ちです!
「えぇ……見えなくても攻撃受けるんですか?!」
「フリード殿と目隠しをした状態で魔獣を倒す修行したからね」
何やってるんですか兄!そしてランドルフ先輩に何やらせてるんですか兄?!
ランドルフ先輩も兄の修行にまじめに付き合っちゃダメですよ!
本当によく今まで無事でしたね?!
妹は兄が生き延びていけるか不安になりました。
あとランドルフ先輩も。
あっ、でも命をかけた次期騎士団長と文官、二人の戦いとか……。
どうしよう猛烈に胸キュンです。今度は、一緒に行って近くで見学したいです。
それはそれとして、ランドルフ先輩覚悟!
「視力が回復するまでが勝負です!」
しかし、次の瞬間見えていないはずのランドルフ先輩の剣が私の剣を弾いた。空高くくるくると飛んでいく私の剣。剣士は剣を離したら負け、それがルールだ。
「あー、搦め手まで使ったのに……」
二年目の武闘会は、ほろ苦く終わった。やはり、搦手は勝っても負けてもスッキリしない。
努力を死ぬほどして正攻法で戦うのが青春だと、今度兄にも言っておこう。
✳︎ ✳︎ ✳︎
それにしても、不戦勝とはいえ、総合二位になってしまった。
頑張って座学で満点を取れば、二学期からは放課後、毎日ミルフェルト様に会いにいけるではないか。
頑張ろう。ライアス様には勝ち逃げされて悔しいから、首席を取ることで溜飲を下げよう。
「お疲れ様?」
「ディオ様こそお疲れ様でした」
兄は抜けてきた仕事に戻らなければと、とても残念そうに帰っていった。帰り道は、久しぶりにディオ様と一緒になった。
「でも、……卑怯にも目眩しまで使ったのに、勝てないカッコ悪い姿とか見られたくなかったです」
「目眩しで卑怯とか言っているうちは搦手は難しいんじゃないかな?」
目眩しが卑怯じゃないと言うなら、搦手とはよほど恐ろしい手段らしい。これ以上、何をしていいのか想像もつかない。
兄には、やはり正攻法がいいと言わなければ。
「守るためには手段を選べないのは事実だよ」
「そうですね。でもディオ様が手段を選べないなんてそれはきっとよっぽどの時じゃないですか?」
いつも完璧に強いディオ様が手段を選べないとしたら、それは世界中が相当なピンチなのでは?
「リアナが思っているより、俺はもう全然余裕がないんだけど……」
なぜディオ様は、いつもと同じ笑顔なのに、泣いているように見えるのだろう。
「ディオ様……」
そんな顔をしているのは、もしかしなくてもさっきの幻のせいだろうか。
あの時、黒いドレスを着たリアナを抱きしめた人影は。
「なりふり構わない手段をとって、嫌われてしまっても。それでも、リアナを失いたくない」
「……ディオ様を嫌いになるなんてあり得ません」
たぶん、今こうして誰かの幸せを素直に願えるのも。大好きな人たちとの時間を、素直に大切にできるのも。
「私が私でいられるのは、きっとディオ様のおかげなんです」
「俺が俺でいられるのも、リアナがいるからだよ」
ディオ様の悲しみを半分にできたらいいのに。
でも私にとっては、こうやって今も二人で話ができるのが夢のようで。
そのために呪いを受けることが必要なら、きっと何度でも同じ答えを選択しそうで。
それが私を大切にしてくれる、たくさんの人を悲しませてしまうのだとしても。
「幸せになりましょう、ディオ様。やっとこうして、一緒に過ごせる時間を手に入れたんですから」
「この時間は、甘い毒みたいだ……リアナ」
ディオ様の黒い瞳は、いつも毅然としているのに。今はまるで、たった一人荒野に取り残された幼子のようだ。
「大丈夫。全て上手くいきますから」
きっと一つでも選択を間違えたらたどり着けない結末を、この手に掴む。
「そのままのディオ様でいて欲しいです」
「リアナがそれを望むなら」
ディオ様は、やっぱり泣いているように私に笑いかけた。
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