破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら

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 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 劇が始まるまでのしばらくの間、マルク姫を眺めて過ごした。見ているだけで癒される。

 深いグリーンの髪と瞳。新緑のようなグラデーションの淡いグリーンのドレス。
 緩く巻いたウィッグをつけて、ティアラ……えっ、本物!?王妃様提供ですかね?をつけている姿は、お姫様の中のお姫様だ。

 しかし、そのほのぼのとした幸せな時間は乱入してきたフローラによって終わりを迎える。

「リアナ様!ライアス様が行ってしまいました!」

「フローラ?どういうこと」

「ディオ様の遠征先に、ドラゴンが群れで現れたらしくて、王太子として指揮を取らないといけなくなったと」

 ドラゴンを秒で倒すディオ様だけでは、手を焼くほど大量のドラゴン?それなら私も行かないと!

 しかしその瞬間、手首を掴まれた。

「逃しません……」

 さっきまでキラキラ宝石のように輝いていたマルクくんの瞳が、日陰の森のように暗くなってる。

「マルクくん?聖女として参加しないと」

「リアナ様!ライアス様とディオ様がいたら過剰戦力ですよ。念のため私も合流してきますね!それから、ライアス様から王子様役頼んだぞって伝言です!」

 いや、フローラは聖女だけど、癒しとか補助というより前衛……あっ、行ってしまった。

 それよりも、王子様役頼むって言っていた?

 振り返ると、クラスの女子たちがジリジリ近づいてきていた。

「すでに髪型とメイクは問題ありませんわね」

「騎士服も、房飾りやマントを追加すれば王子様風になりますわ」

「リアナ様の隠れファンクラブとしては、この機会を逃がせませんわ」

 最後の方!何だかよく分からない単語が出てたけど。私まだやるって言ってませんよ?!

 後ろから、トンッと軽く背中を押された。

「行ってこい、リアナ。ただし本当にキスされるようなヘマをしたら、会場を破壊する」

 振り返るとそこには、とてもいい笑顔の兄がいた。
 
(こ、こんな時まで、背中を押してくれなくていいです!絶対楽しんでますねその顔!それにそんな爆破犯みたいなこと言わないで下さいよ!)

「台本……今からじゃ」

「リアナならできる」

 そんなお墨付きいらないです、兄。

 しかし受け取った台本は、二度見してしまうレベルの衝撃ものだった。

(春君のライアス様が二年生の文化祭で王子様役した時の台詞と完全に一致している?!)

 私はそっと台本を閉じた。そして、マルク姫の前に恭しく跪く。

「ああ、姫。あなたには辛い思いをさせました。これからは全てから私が守ってみせる……この手を取って頂けませんか?」

「「「たった一回読んだだけで?!」」」

 クラスメートたちの驚きの声が、教室内に響き渡る。兄だけは何かを察したのか黙ったままだ。

 ――――いいえ。だって一回どころか全て丸暗記するくらい繰り返しプレイしましたから!

 何でこんな時だけ、はっきりと記憶が甦るかな?!

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 ああ、このシーン好きだったな。

 恋人同士だった二人が、戦争により引き離される。最後の夜の逢瀬。

 そして私は、ちょっと現実逃避しています。

「姫、たとえ今、冬が訪れても、いつか春の訪れをあなたに届けると誓います」

「季節は必ず巡ります。生きてさえいれば、春は必ず来ると信じております」

 いや、なに?この目の前の姫が美しすぎるのですが。もう、このまま共に逃げてはいけないですか?

 そしてキスシーン。美しすぎる顔が、長い睫毛が近い、近すぎるっ。

「――――僕だったら、このままあなたを閉じ込めて全てから隠してしまうでしょうね」

 キスに見せるため耳元に唇を近づけたマルク姫が何だか色気満載の声で穏やかじゃないことを囁く。

 いや!王子様を閉じ込めてしまうヤンデレな姫は嫌だ!いや、この人、姫じゃなくてマルクくんだった!

 混乱していても、暗唱するほど繰り返し観た劇の台詞はちゃんと喋ることができた自分を褒めてあげたい。

 色々と大切なものを失った気はしたけれど、劇は無事大盛況で幕を閉じた。
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