破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら

文字の大きさ
87 / 109

呪いの蔦と闇の魔力

しおりを挟む

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 危なげなく勝ち進んだトア様は、予想通り一年生の学年優勝を果たした。

 でも、決勝戦ではひやりとさせられる場面もあった。
 確かにフローラの言う通り、全力を出していないように一瞬振るった剣に迷いが感じられた。

 ディオ様が応援席から離れてこちらに近づいてくる。
 その表情には、少しの憂いが感じられた。ディオ様が負の感情を表に出しているのは珍しい。
 私は首をかしげる。

「リアナ……弟の戦いをどう思いますか」

 ディオ様の憂いは、弟君についてだったようだ。私は、率直な意見を伝えることに決めた。

「トア様は、全力をあえて出さないようにしてるように思えました。フローラも同じ意見です」

「そうですか……。やはりリアナにはそう見えますか」

 ディオ様は微笑むが、憂いは消えていない。弟君には何か秘密があるようだ。
 ディオ様を探していたのか、弟君が私たちの方に走り寄ってくる。
 相変わらず、走っている姿さえあざといほどの可愛さ全開だ。

「リアナ様!!見ていてくれましたか?」

「トア様、とても強かったです」

 その瞬間、朗らかに笑っていた弟君の仮面が一瞬だけ外れたように感じた。たぶんこのままでは、何か良くないことが起こりそうな気がする。私は正直に答えることにした。

「――――でも、全力ではなかったですよね?」

「え……?どうして」

 なんだろう、弟君から感じる魔力はどこかミルフェルト様に似ている。
 何かが蠢くような……。

「どうして……。どこで気づいたんですか」

 その瞬間、私の心臓に絡みついていた呪いの蔦が激しく蠢きだした。

「あ……」

 ディオ様の顔が蒼白になる。弟君も驚きに目を見開いた。

 ディオ様に横抱きにされたところまでは覚えていたのに、私はそのまま意識を失ってしまった。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 気づくと生徒会室のソファーに寝かされていた。まだ窓の外は明るい。それほど時間は立っていないようだった。
 私の心臓は元通り、規則的に脈打っている。

 ベッドサイドに顔を向けると、泣きそうな顔の弟君がいた。

「あの……本戦は」

「まだ始まっていないし、心配すべきなのは自分のことだよ!何なんだよ、さっきの蔦まるで僕の……」

 私の予想はあながち外れていなかったようだ。おそらく弟君が全力を出さないのは……。

「トア様の魔力は、私の呪いと似ていますか」

「――――っ。それをどうして」

「なんとなく?でも、やっぱりそうなんですね」

 なんとなくと答えたせいか、弟君は唖然とした顔をした。直感で生きている部分が強いので、ご容赦いただければと思う。私もフローラのこと言えないようだ。

「ああ、でも……なんだかその呪い」

「え……?」

 弟君の指先から現れたのは、なんだかよく見慣れたような紫色の魔方陣。私の心臓に絡みつく蔦に吸い込まれていく。
 その瞬間、胸のつかえが取れた気がした。
 ……心臓に絡みついていた、呪いの蔦の締め付けが緩くなった?

「やっぱり、僕の魔力と同じものなのかもしれない」

 弟君が、出会って初めて本心からに見える笑顔を私に見せてくれた。

「リアナ様を助けてほしいって、兄さんにも頼まれた。僕の魔力にも意味があったんだね」

「えっ、でもあのトア様の負担になるんじゃ」

「いいよ。その代り一つ貸しにしておくから」

 そういって、弟君は去って行ってしまった。
 
 一方、私の魔力の出力は、なんだかおかしなことになっている。
 廊下を飛び出すとディオ様が、壁に寄りかかってこちらを見つめていた。

「すみません、肩代わりしきれなくて。トアが何とかしてくれて良かった」

 私が気を失いかけた時、たしかにディオ様に抱えられた。
 私と同じ負担を感じていたはずなのに。

「あの……ディオ様は大丈夫なんですか?」

「大丈夫。と言いたいところだけど、嘘を言ってもリアナにはわかってしまうよね。まあ今日は、もう戦いたくはないかな」

「――――なんで私だけ。ディオ様は」

「ある程度呪いの影響を除けば、リアナの力はこれくらいはあるんだよ。トアの魔力は特殊だ。リアナの受けている王家の呪いに親和性が高いんだろう。でも魔力の効果が及ぶのはリアナだけみたいだね」

 それじゃあ、ディオ様が聖騎士の力で肩代わりしてくれた負担はそのまま……。

「ディオ様、一緒に帰りましょう?世界樹の塔で休んで……」

 ディオ様は微笑むと、私の頬にそっと手を重ねた。

「そんなこと言わないで?まだ、三年生の試合は始まっていないんだ。俺もリアナの雄姿を見てから帰りたいな」

 ディオ様は体調の悪さなんて感じさせない。
 それはそうだ。呪いがその命を奪う前日まで、誰にも気づかせなかったのだから。

 それに比べて私は軟弱だ。

「リアナ?俺は慣れているから、そんなに気にすることない」

「そんなの……慣れていいものじゃないです」

「ふふ。それもそうだね?じゃあ、忘れられるようにリアナが美しく戦う姿を目に焼き付けさせて?」

 ディオ様が髪の毛に口づけを落とす。

 それだけ私に言って、ディオ様は窓の外に視線を向けた。
 三階にある生徒会室の窓からは闘技場が良く見える。

「ここから見てるから」

 ディオ様は、テコでも動かなそうな雰囲気だ。
 それなら私にできるのは、少しでも早く武闘会を終了させることだ。

「分かりました。瞬殺してきます」

「楽しみにしてる」

 ディオ様が、窓の外を眺める姿を目に焼き付けて、私は走り出した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~

百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!? 男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!? ※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

処理中です...