106 / 109
聖騎士と悪役令嬢の再会
しおりを挟む私は、最後まで世界を救うために尽くすと決めている。
壊れかけていた心は、あの人の幻を見た日から目的を思い出している。
黒いドレスは、たとえ失っても私の心はあなたの元にあるという証。
まだ、私は頑張れる。
優しい声をしたあの人のいた世界を守りたいから。
「ふう……。それにしても、いくら呪いを取り込んでも世界樹の呪いは消えないのね」
フローラと対立したのは、悪役令嬢としての役割を全うするため。あの人が居なくなってしまった15歳のあの日から、私の心は凍り付いてしまったから。
それでも、ディオ様は絶望と呪いで壊れかけた私に会いに来てくれた。
壊れかけていた心が見せた、幻だったのかもしれないけれど、それでもあなたに救われた。
だからまだ、私は諦めない。私はあなたがいたこの世界を守って見せる。
「あの時、せめて気持ちを伝えれば良かった……」
ディオ様が18歳の誕生日を迎える前日。ドラゴン討伐から帰ってきたディオ様は、私に会いに来てくれた。あの時に、聖女候補の私には、呪いの蔦がディオ様の命を奪おうとしているのがはっきりと見えてしまった。
助けたいとすべての力を使ったのに、ディオ様を助けることはできなかった。
『約束……覚えていますか?幸せになって』
ディオ様が最後に残した言葉は、私を案じるものだった。
(ごめんなさい、その約束は果たせません。ディオ様のいない世界にたぶん幸せはないから)
私は、ここが乙女ゲーム『春君』の世界だと知っている。
ゲームには出てこないディオ様。今になって思えば、王太子ルートで少しだけ語られる王家の呪いに蝕まれたという呪われた騎士はディオ様だったのだと思う。
孤独も、悪役令嬢に生まれてしまった不安も、幼い頃に出会ったディオ様だけが癒してくれた。自分が悪役令嬢だと知ったその直前に出会ったディオ様。
乙女ゲームとは関係のないディオ様と一緒にいる時だけは、私が悪役令嬢ではなくてただのリアナでいることを実感できた。私が私でいられた。
いつしか、あなたと一緒にいる時間だけが、私のすべてになった。
(私が悪役令嬢にならない未来があるのかもしれない)
そんな未来を夢見た私は、ヒロインのフローラが学園に入る前に探し出して話しかける。
フローラはゲームのヒロインにふさわしくて、優しくてとても純粋な少女だった。私たちはすぐに打ち解けて、友達と呼べる存在になった。
それなのに、ディオ様すら乙女ゲームのシナリオの一部だった。
王家の呪いを肩代わりした騎士……あなただけは『春君』の世界には関係がないと思っていたのに。
「ディオ様……ひどいですよ。もっと早く教えてくれたらどんな手を使っても、私が聖女になってあなたの代わりになったのに」
18歳の誕生日を一緒に祝おうと言った時に、寂しそうに笑ったディオ様……あの時に、もっと真剣にあなたの思いを聞いていればよかった。
誕生日の前日にドラゴンを倒してきたディオ様は私に会いに来てくれた。そこで初めて、信じられないくらい根深い呪いにディオ様が蝕まれていることに気が付いた。
私のすべての力を使って、身代わりになろうとしたけれど、それも叶わなかった。
ああ、どうしてこんなにも時間があったのに、私はまだ聖女になっていないんだろう。
「ディオ様……」
あの日、最後にディオ様が残した言葉だけを胸に生きてきた。ディオ様がいた世界を守ることが私の幸せだと信じていたから。
それでも、ディオ様の弟のトア様が魔王になって、ライアス様の妃になったフローラが涙を流して私を救いたかったと言ってきて、お兄様が私を救おうと破滅フラグに足を踏み入れる。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
また、世界樹の呪いの蔦を前に絶望から壊れかける私。それでも、あなたのいた世界を守りたいという気持ちだけが私を支える。
その時、七色の光と漆黒の闇が私の周囲を包み込んだ。
「そんな顔をしないで……愛しい人」
光と闇の渦がおさまっても、何が起こったのか分からずに呆然としている私の耳に、忘れることなんてできない優しい声がした。
そんなはずないのに。
この声が聞こえるはずなんてない。私の心はとうとう壊れてしまったのだろうか。
それでも、顔をあげた私に、あの時よりも少し大人びたディオ様が笑いかけていた。
「ディオ様……」
「一人にしてごめん……夢で見たリアナの泣き顔だけがずっと忘れられなかった。もう、俺が来たからには絶対守ってあげるから」
「――――どうして……」
「愛しいリアナ。……幼いあの日、生きている限りあなたを守ると誓ったから、約束を守るために、ここに来たんだよ」
生きて……いた?でも、たしかに私はディオ様を助けられなくて目の前であなたは。
うう、それにしても白い聖騎士専用の騎士服カッコいい。なんで、ディオ様がメイン攻略キャラじゃないのか理解に苦しむわ。ああ、なぜ今この世界にスチルがないの。この麗しさ、目に焼き付けなくては。
「スチル……」
思わず両手で口を覆いつぶやいてしまった私を見て、ディオ様が苦笑した。そんな姿すら神々しい。
「ふふ。リアナはやっぱりリアナだよね?」
ディオ様が、微笑んでそんなことを言った。私が私なんて当たり前なのに?
その瞬間、ディオ様に抱きしめられた。信じられない、夢だからっていくらなんでも都合が良すぎるのではないだろうか。
「この力の全ては、リアナが泣かない未来のために使うって決めているから。期間限定じゃない永遠の聖騎士の誓いを受け取ってくれないかな」
どうして生きているんですか。
それに信じられないくらい強くなっていませんか?
ところで、聖騎士の誓いって?
その言葉を告げようとしたのに、私の唇はディオ様に塞がれてしまって、その言葉を伝えることは出来なかった。
キラキラと輝く魔力が降り注いで、一ヶ月で効果が切れたりしない本物の聖騎士の最上位魔法に囚われたことを知らないまま。
(なぜか、私の中の黒い蔦が半分になった気がする)
やっぱり都合の良い夢かと目を閉じて、私はその口づけを受け入れた。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!
未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます!
会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。
一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、
ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。
このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…?
人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、
魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。
聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、
魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。
魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、
冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく…
聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です!
完結まで書き終わってます。
※他のサイトにも連載してます
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる