最下層暮らしの聖女ですが、狼閣下の契約妻を拝命しました。

氷雨そら

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聖女、王宮に招待される 6


 通常であれば、エスコートで降りるはずの馬車。
 ライナスは、それを無視してシルビアを横抱きにしまま、まるで体重がないかのように地面に降り立った。

 ただでさえ目立つライナスが、女性を抱き上げて馬車から降りてきたことで、周囲の注目は嫌でも集まる。

「……あの、皆さん見ておられます」
「そうだな、存分に見させておけばいい」
「えっと、歩けます」
「丸二日寝ていて今目が覚めたところだろう? 満足に歩けるはずもない」

 それを言われてしまえば、ぐぅのひとことも出ないシルビア。
 だって約束を守らなかったのは、事実なのだから。

「まあ、そうはいってもここまでだな。シルビアの目が覚めている以上、ここから先は不敬だ」

 それを聞いて、シルビアは、再びとても大変なことをしてしまったのだと、冷や汗をかいた。
 陛下からの招待に馳せ参じるのは当然だと、世間に疎いシルビアにも分かる。

「もしも、目が覚めなかったらどうなっていましたか」
「……先の流行病。シルビアが作った薬は、劇的に効いたらしい。民のために薬を作った聖女が、魔力を使い果たして倒れたという噂は、すでに流してある」
「噂……」
「あとは、俺が眠るシルビアを連れて現れ、陛下に挨拶すれば問題なかろう」

 どちらにしても、戦後処理で多忙なライナスの手を煩わせてしまったことは、間違いない。
 シルビアは、もちろん感染症で苦しむ人たちを助けたいと思ったが、それ以上に……。

「シルビア」

 落ち込みかけたとき、ライナスがシルビアの名を呼んだ。

「は、はい!」
「言いそびれてしまったな。感情に流されるなど、王族失格だ。……シルビアの薬で助かった民が多くいる」
「……そんな」
「よくやった」
「っ……!!」

 次の瞬間、一筋の涙が、シルビアの頬をこぼれ落ちた。
 そう、たとえ誰一人シルビアを認めてくれなくても構わないという事実にシルビアはようやくたどり着く。
 
 折角、美しくしてもらった化粧が落ちてしまうと、慌てて涙を止める努力をする。
 そっと、その涙をフワフワした手が拭った。

「さあ、行こうか」
「はい」

 歩き出した二人。
 それに伴い、フワリはためいたマントとドレスの裾。
 白い正装のライナスと、聖女らしい純白のドレスに身を包んだシルビアに、一瞬人々は惚けたように釘付けになった。

 聖女と王弟殿下の登場に、周囲は道を譲っていく。

「私まで道を譲っていただいてよいのでしょうか」
「通常であれば、これが聖女に対する扱いのはずだ。慣れろ」
「分かりました」

 長老様に教えられたことを思い出して、そのまままっすぐ背筋を伸ばす。
 それだけで、周囲の視線はライナスから離れ、全てシルビアに向いた。

「そうだ。それでいい」

 小さくつぶやいたライナスは、まるでシルビアを守るように引き寄せ、いつもよりずいぶんゆっくりと歩き始めたのだった。
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