そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら

文字の大きさ
12 / 42
望まれない結婚ではないのですか。旦那様?

第十二話 旦那様のいない間の妻の行動は筒抜けのようです。

しおりを挟む


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「奥様、少しの間離れます。我が主に報告することがありますので」

「そうなの? 忙しいのに、こんなことに付き合わせて悪かったわ。気をつけて行ってきて」

 そう言って泥のついてしまった顔で笑うルティアは、やっぱりミスミ騎士長のことをほんの少しも疑っていないように見受けられる。

「調理中に火傷などしないでくださいね。我が主に私が叱られます」

「……子どもじゃないんだから」

 それでも、なぜか新しい主ルティアはとても危なっかしい。守ってあげなければいけない、そしてなぜかすでにとても大きな恩義がある。そんな気持ちにさせられる。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「――――まさかそれで、一日中庭いじりをしていたのか?」

「ええ……庭師にまで教えを乞うていました。午後になってようやく、我が主の夕食を今日こそ豪勢に作る! と意気込んで屋敷に戻られましたが」

 ミスミ騎士長は、リーフェン公爵の命に従い、今日一日のルティアの行動を報告した。

 二人の間に沈黙が流れる。
 リーフェン公爵は、眉間を押さえた。

 ルティアの傍で護衛してその日の様子を報告するようにという命を受けた時は、やはり新しく来た魔眼の姫を監視するようにという意味なのかとも思った。
 しかし、こうなってくるともしかしてリーフェン公爵は、愛妻の一日を知りたいだけだったのではないかという思いが拭いきれなかった。

「商人に好きなものを頼んでもいい、どんな贅沢も許すと。……好きなように過ごすように伝えたはずだが?」

「しかしながら……最高です! 最高に幸せです! と連呼しておられました」

「……相変わらず、最高に可愛くて……バカだな」

 眉間を押さえたままの、リーフェン公爵が思わずといった感じで笑った。

 ――――誰が、こんな風にリーフェン公爵が笑うなんて想像できるだろうか。

 戦場に立てば、敵にとっては鬼神のような強さがあまりに恐ろしく、味方にとっては心強いが誰よりも厳しくて遠巻きにされている存在が。そして、貴族社会でもその地位、立場、権力も富も、名声もすべてその手に掴み、いつも仮面をかぶったような微笑みしかしないリーフェン公爵が。

 リーフェン公爵を良く思わないがゆえに、魔眼の姫を押し付けた貴族たちも、そのことでリーフェン公爵がこんな風に笑うなんて予想だにしなかったに違いない。

 笑った後に、なぜかとても切なそうに顔をゆがめたのも気になるが……。初対面のはずの二人には、なにか他人にはわからない絆、あるいは因縁のようなものがあるようだ。

「それでは、私は護衛に戻らせていただきます」

「ああ、今日は出来るだけ早く戻ると伝えておいてくれ」

「かしこまりました」

 ミスミ騎士長は、花のように笑い、蝶のように舞う、新しいもう一人の主人に思いを馳せる。時々、とても悲しそうな表情をするのは、我が主にそっくりだ。

 なぜだろう、二人には幸せになってほしい。そう思った。

「なぜだろう。初めて、我が主に出会った時に感じた、どうしても恩を返さないといけないと思う焦燥感……。奥様にも同じように感じるのは」

 目を離すと何をするかわからない、危なっかしい新しい主人を思って、ミスミ騎士長は急ぎ足に王城を離れた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

真実の愛のお相手に婚約者を譲ろうと頑張った結果、毎回のように戻ってくる件

さこの
恋愛
好きな人ができたんだ。 婚約者であるフェリクスが切々と語ってくる。 でもどうすれば振り向いてくれるか分からないんだ。なぜかいつも相談を受ける プレゼントを渡したいんだ。 それならばこちらはいかがですか?王都で流行っていますよ? 甘いものが好きらしいんだよ それならば次回のお茶会で、こちらのスイーツをお出ししましょう。

【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ

さこの
恋愛
 私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。  そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。  二十話ほどのお話です。  ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/08/08

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね

さこの
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。 私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。 全17話です。 執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ​ ̇ ) ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+* 2021/10/04

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

処理中です...