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第3章
人魚姫への招待状 3
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青い美しい一枚の羽根。
捨てる気にはなれなくて、窓辺に置いている。
クラウス様は、そのことがご不満な様子だ。
そして、私が握りしめる勢いで、持っている封筒。それは、王宮で行われる舞踏会の招待状だ。
「クラウス様」
「……レイラ、舞踏会がどんな場所かわかっているのか?」
クラウス様のお屋敷では、髪の毛の色を隠す必要もない。桜貝のようなキラキラとした髪の毛を、指先で弄ぶ。
「煌びやかな世界。水面下では、魑魅魍魎が闊歩する恐ろしい戦場」
「ちみもうりょう? まあ、恐ろしい戦場というのは、正解だ。そんな場所に」
「…………置いていっていいですよ」
一人で潜入するので。
王宮への道筋は、前回のことで完璧です。
招待状もありますし。
「……一人で潜入する気か」
そこまでわかっているなら、一緒に行けばいいと思います。だって、舞踏会の日付は今夜なのだから。
「では、せめてその髪を」
クラウス様の口づけとともに、私の髪色はなんの変哲もない茶色になった。
「……この髪色。桜貝の色。どんな意味があるんですか?」
「桜貝の色をした髪は、古来から聖女を表す。そして、泡になって消えたという伝説の人魚と同じ色だ」
「聖女?!」
ここで、予想もしなかった単語が、急に現れた。
異世界転生、聖女設定だったらしい。
「……聖女は、魔法を使う存在だ。人にはいないとされる髪色。歴代の聖女は、元人魚……なのかもしれないな」
私が、聖女なんて、力がある存在のはずない。
それなのに、クラウス様の表情は、曇ったままだ。
「……そういえば、十六年ぶりの肉の味は、どうだった?」
「それはもう、最高に美味しかったです。ドラゴンのお肉は、初めて食べましたけど」
……ん? どうして今、その話題?
「……それでは、レイラは、十六年前、どこで肉を食したんだ?」
「えっ」
そう。たしかに私は、十六年ぶりにお肉を食べたと言った。そして、私は今、十六歳。
「……無理にとは、言わないが」
「いいえ。クラウス様、信じてもらえるかわからないですが、私には前世の記憶があります」
「そうか。まあ、たまに聞く話だな」
たまに聞くんだ! それなら、さっさと話してしまってもよかったのかもしれない。
「だが……。種族は、変わらない」
「え?」
「……そして、人魚は肉を食べない」
たしかに、海にお肉はない。
え、でも私はたしかに。
「魂の形に合わせて、肉体は造られる。それが、定説だ」
「私の心は、人間です。だって」
「ははっ」
「クラウス様?」
なぜか笑ったクラウス様。
その直後、私は食べられてしまったかと思った。その口づけは、急で、少し乱暴で。
「例外なのか、それとも」
そういえば、私のお父さんは、どこにいるのだろう。私の魂が、人間のままだというのなら、どうして人魚に生まれたのだろう。
「……どちらにしても、隠し通す」
たぶん、クラウス様は捕食者で、人魚の私は被捕食者だ。捕まってしまったら、逃げられない。
補給できない私の魔力。
だんだん、減っているのを感じている。
逃げられない運命の中、物語だけは、私たちの感情なんて気にもしないで、進んでいくようだった。
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