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第3章
舞踏会と尾ひれ 5
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とりあえず、踊らなければ始まらないらしい。そして、王国では偉い順に踊り始めるらしい。
第一王子殿下とその婚約者、第二王子殿下のお相手は…………お姉様?!
北の空に煌めくオーロラのような淡い布が幾重にも重ねれたドレス。まるで、人魚姫の鱗の輝きみたいだ。
お姉様が、ものすごく不本意な顔をしているけれど、ルクス殿下の笑顔は、蕩けそうだ。
そして、周囲の人たちの困惑がものすごい。もう一回言おう、ものすごい。
「私、こんなところに急に現れて、周囲の好奇の視線の中踊るのは、ツラいと思っていたのですが、気が楽になりました……」
「……ああ。まさか、あの二人が踊るなんてな」
時々、お姉様がルクス殿下の足を踏んでいるように見受けられる。わざとだ、わざとに違いない。
そして、お姉様が踊ることを選んだのは、私のために違いない。
次に踊り出すのは、なぜか私たちだった。
じとっとした目で、クラウス様を見てしまったとしても、許されるのではないだろうか。
「…………クラウス殿下?」
「は、そんな大層なものじゃない。俺は」
否定はしないということは、肯定とみなします。
あーあ。あんなに王子様から逃れようと思って生きてきたのに、蓋を開ければ人魚姫はやはり王子様との深い因縁があるらしい。
「それに、クラウスと呼んでほしいな」
「……そのうち。……クラウス様」
それでも、大好きな人が、自分だけを見つめてくれる時間は、輝くシャンデリアのように、眩く輝いている。
「そうか。楽しみだな」
フワリとかけられた魔術は、私の体を羽根のように軽くして、私たちは、クルクルと回る。
幸せな時間、夢を見ているみたいだ。
それなのに、二本の足に違和感がある。
それに、茶色に色を変えた髪の毛も。
「クラウス……様」
「っ、俺にもっと力があれば」
たぶん十分すぎる、クラウス様の力。
だから、これはたぶん必然で、逃れられない宿命なのだろう。
第一王子殿下の笑い方、嫌い。
私の魔法が、解かれてしまう。
ドレスの中に隠れた尾ひれ。
でも、もう私は、地上で立ち上がることができない。
クラウス様と、同じ世界で過ごすことができない。
それでも、クラウス様が準備してくれた深海のように青い、そしてパールで重く守られたドレスのおかげで、私の尾ひれは、きっと誰にも見えなかっただろう。
お姫様のように抱き上げられる。
泣きそうなクラウス様が、ギュッと私を抱きしめる。
「幸せな時間だった」
「ずっと、一緒にいたいです」
「会いに行くよ」
知らなかった。
人魚の姿では、地上で息をするのに、こんなに魔力を消費するなんて。
あまりの息苦しさと、暑さに私の意識は、深海へと沈んでしまったのだった。
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