上 下
25 / 29
第3章

舞踏会と尾ひれ 5

しおりを挟む


 * * *


 とりあえず、踊らなければ始まらないらしい。そして、王国では偉い順に踊り始めるらしい。
 第一王子殿下とその婚約者、第二王子殿下のお相手は…………お姉様?!

 北の空に煌めくオーロラのような淡い布が幾重にも重ねれたドレス。まるで、人魚姫の鱗の輝きみたいだ。
 お姉様が、ものすごく不本意な顔をしているけれど、ルクス殿下の笑顔は、蕩けそうだ。
 そして、周囲の人たちの困惑がものすごい。もう一回言おう、ものすごい。

「私、こんなところに急に現れて、周囲の好奇の視線の中踊るのは、ツラいと思っていたのですが、気が楽になりました……」
「……ああ。まさか、あの二人が踊るなんてな」

 時々、お姉様がルクス殿下の足を踏んでいるように見受けられる。わざとだ、わざとに違いない。
 そして、お姉様が踊ることを選んだのは、私のために違いない。

 次に踊り出すのは、なぜか私たちだった。
 じとっとした目で、クラウス様を見てしまったとしても、許されるのではないだろうか。

「…………クラウス殿下?」
「は、そんな大層なものじゃない。俺は」

 否定はしないということは、肯定とみなします。
 あーあ。あんなに王子様から逃れようと思って生きてきたのに、蓋を開ければ人魚姫はやはり王子様との深い因縁があるらしい。

「それに、クラウスと呼んでほしいな」
「……そのうち。……クラウス様」

 それでも、大好きな人が、自分だけを見つめてくれる時間は、輝くシャンデリアのように、眩く輝いている。

「そうか。楽しみだな」

 フワリとかけられた魔術は、私の体を羽根のように軽くして、私たちは、クルクルと回る。

 幸せな時間、夢を見ているみたいだ。
 それなのに、二本の足に違和感がある。
 それに、茶色に色を変えた髪の毛も。

「クラウス……様」
「っ、俺にもっと力があれば」

 たぶん十分すぎる、クラウス様の力。
 だから、これはたぶん必然で、逃れられない宿命なのだろう。

 第一王子殿下の笑い方、嫌い。
 私の魔法が、解かれてしまう。

 ドレスの中に隠れた尾ひれ。
 でも、もう私は、地上で立ち上がることができない。

 クラウス様と、同じ世界で過ごすことができない。

 それでも、クラウス様が準備してくれた深海のように青い、そしてパールで重く守られたドレスのおかげで、私の尾ひれは、きっと誰にも見えなかっただろう。

 お姫様のように抱き上げられる。
 泣きそうなクラウス様が、ギュッと私を抱きしめる。

「幸せな時間だった」
「ずっと、一緒にいたいです」
「会いに行くよ」

 知らなかった。
 人魚の姿では、地上で息をするのに、こんなに魔力を消費するなんて。

 あまりの息苦しさと、暑さに私の意識は、深海へと沈んでしまったのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ヤクザと犬

BL / 連載中 24h.ポイント:702pt お気に入り:387

ある日王女になって嫁いだのですが、妾らしいです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:312pt お気に入り:2,658

姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

BL / 連載中 24h.ポイント:2,279pt お気に入り:397

婚約破棄された王女は暗殺者に攫われる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:967

AMEFURASHI 召喚された異世界で俺様祭司に溺愛されています

BL / 完結 24h.ポイント:3,237pt お気に入り:162

すきだよ私の人魚姫

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:589pt お気に入り:0

【R18】お飾り皇后のやり直し初夜【完結】

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:269pt お気に入り:1,424

【完結】何度出会ってもやっぱり超絶腹黒聖職者

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:591

処理中です...