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第4章
囚われ人魚 1
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海の底から、海面が見えないかと目を凝らす。見えない。さっきまで、明るい場所にいた気がするのに、海の底はあいかわらず暗い。
それでも、よく見えるのは、人魚の魔法なのだと、今の私にはよくわかる。
「魔法と魔術について、なぜか急にわかっちゃった。何でだろう?」
すいっと尾ひれを揺らせば、軽やかに海の中を進む。子どもの頃、泳ぎが下手だったのが嘘みたいに、今の私はプロの人魚だ。
ふと、髪の毛に違和感を感じて触れると、硬いものがついている。取り外してみれば、見たことのない髪留めだった。
銀で作られているらしい、繊細な飾りと真紅の宝石。
「キレイ……。お姉様からの誕生日プレゼントかな?」
「忘れたの」
あまりに美しいその色に、目を奪われていると、お姉様が目の前に現れた。
なぜか騎士服。そして二本の足。
「…………お姉様が、人間になっている」
「大した問題じゃないわ」
大した問題だ。それでも、すいすい泳ぐお姉様は、尾ひれがなくても速い。
「だって、人魚は魔法で泳ぐのだもの。足でもヒレでも関係ないの」
「……どうすれば、そうなれるの」
「ふふ。ある人が、自分の魔力全てをかけて、貢いでくれたの。……強制的にね」
さすがはお姉様。人魚の尾ひれを、足にしてくれる人がいるらしい。
「ところで、忘れたって、なんのこと?」
「……思い出したい?」
うーん。忘れているという、モヤモヤした気持ちすらないから、思い出せなくても……。
それなのに、胸が痛い気がする。
何でだろう。誰かを待っているような?
うん? この宝石の色が懐かしいような?
「ところで、今日は私の誕生日だから、海面に顔を出す儀式を」
「レイラの誕生日は、ずいぶん前に終わったわ」
「えっ、冗談」
お姉様は、あまり冗談なんて言わない。
えぇ……。なぜ?
「……え、どうしてそんなことに」
「一月以上経ってるの」
「えっ、ではすでに成人」
わぁ。子どもの頃から、王子様に会ってしまうのではないかと不安に思いながらも、楽しみにしていたのに。夢見ていたのに。
気がついたら、成人式が終わっていたとか、そんなレベルで悲しすぎる。
「…………それでも、成人なのだから、いつだって海面に顔を出すことができるわ」
「うーん。王子様にでも出会ってしまったら困るから」
けれど、私は知らなかった。
翌日、以前から私を目の敵にしていたイカの魔物にとうとう捕まってしまうなんて。
そして、予想外に、あんまり魔力が残っていないせいで、逃げられないなんて。
人魚姫は、王子様を忘れてしまった。
それなら、海の底で幸せになればいいものを、そうは問屋が卸さないのだ。
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