パパ溺愛幼女奮闘計画

片原痛子

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13話.婚約破棄してくれませんか?

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「3日後、お前の婚約者が来るから用意するように」

朝食の席でまたも突然告げられた。しかもその内容に、私は持っていたフォークを取り落とした。

「え……なん……え?」

困惑する私を他所にお父様は話が終わったと言わんばかりにコーヒーを片手に新聞を読み始めてしまう。閲読するお父様を邪魔することは出来ないため私はそれ以上詳細を聞くことが出来ず一人呆然とすることしかできない。

「お嬢様、こちらが婚約者殿の詳細になります」

「コーラル……ありがとう……」

私は家令のコーラルに渡された資料に目を通す。

婚約者の名前は“アルベロ・サトゥルノ”。
サトゥルノ公爵家の次男で私より十歳年上の十五歳。つい三か月前に婚約者に浮気された上に婚約破棄され現在婚約者も恋人もなし。
魔法の才能がないため普通の学院に通っているが、学芸にも武道にも優れ、教師からの信頼も厚く、女生徒からの人気もある。

「胡散臭い……」

そんな人間が本当にいるのか。この手の人間はだいたい外面がいいだけで、性格は歪んでいて裏では他人を蹴落としたり精神的に追い詰めたり非道なことをしているものだ。
婚約破棄の件だって、彼に何かしらの問題があるのではないだろうか。例えば婚約者を無視したり、会うたびに自慢話をしたり、贈り物のセンスが悪いとか。
添えてある姿絵を見る限りは金髪碧眼の爽やかそうな印象で、可もなく不可もない容姿ではあるが、お父様に比べればかなり平凡だ。

こんな男が私の婚約者だなんて許せない。しかし、過失もなくお父様が選んで決めた婚約者に私がケチを付けるわけにもいかない。
そうなると残る手は一つ、相手から婚約を断ってもらうしかない。

私は心にそう決めて来る決戦日に備えるために取り掛かった。


そして顔合わせ当日。

「こんにちは、アルベロ・サトゥルノです」

屋敷に姿絵通りの私の婚約者がやって来た。
正直、ちょっとはかっこよく描いてあるだろうとは思っていたので驚いた。むしろ姿絵より大きくて体つきもよく凛々しくなっている。

「ようこそサトゥルノ公子、来ていただいて感謝します。こちらが娘のサファイアです」

「こんにちは。私がサトゥルノ公子の婚約者のサファイア・テゾーロです」

私は微笑みながらサトゥルノにカーテシーを披露する。本当は脛でも蹴りつけてやりたいところだけれども、お父様の手前そんな無作法は出来ない。

「(今すぐ彼に水を浴びせて帰らせられないかしら)」

『そんなことしたらお父様にバレて怒られちゃいますよ』

「(そうよね……)」

私は念話で精霊と冗談を言いながら私たちは談話室に入る。

「では、私は仕事があるので二人で交流を深めておいてくれ」

「「え」」

パタン

そして私とサトゥルノはいきなり二人きりにされてしまった。

「……」

「えーと……ドウゾオスワリクダサイ」

「あ、失礼します」

「……」

「……」

交流を深めろと言われたけれど、お互いが望んだ婚約じゃない全くの初対面なのに一体何を話せば良いというのか。
気まずいまま時間だけが流れていく。

「……テゾーロ嬢はなにして遊ぶのが好きなんだい?」

先に沈黙を破ったのはサトゥルノだった。彼は私を子供だと思っているのか(確かに肉体年齢はそうだが)、少し気やすい話し方だ。私の目的は彼に嫌われて婚約破棄されることなので、さっそく私は足を組み尊大な態度で答えることにした。

「遊ばないけど」

「え?」

「別に遊ばない。いつも勉強してる」

「そ、そうか。令嬢は勉強熱心なんだな」

私の返事にサトゥルノは顔を引き攣らせた。よしよし、いい反応だ。

「別に。これくらい普通じゃない?」

「……もしかして、公爵様は勉強に力を入れていたりするのか?それとも家庭教師が厳しいとか?」

「はぁ?何でそんな話になるの?お父様は普通だし家庭教師もいないわよ」

お父様が悪いように言われた気がして私はムキになって言い返す。

「そっか。本当に頑張り屋なだけなんだな。今は何の勉強してるんだ?」

「今はバイト式3桁の掛け算の練習とクタナ語を勉強してる」

「え……?テゾーロ嬢はまだ五歳って聞いてたんだけど、随分難しい勉強してるんだな」

「これくらい当然よ。私はいずれテゾーロ公爵家を継ぐのだから」

「そうか。じゃあ婚約者になる俺も頑張らないとな」

サトゥルノはそう言って爽やかに笑う。普通の女性がみたらあっさりたらし込まれてしまいそうな笑みだけれど、私は騙される気はない。
さっさとボロを出してしまえ!

「それだけど、そっちから破棄してくれない?」

「え?」

「私、結婚するつもりなんてないし。でもお父様が決めた婚約を私が反故には出来ないから困ってるの」

「うーん……」

そもそもサトゥルノにとって、五歳の子供との婚約なんておままごとみたいなもので、何も旨みがないだろう。幸い彼は令嬢に人気だそうだし、それならこの婚約が確定する前にこの婚約は破棄してしまった方がいい。

素直に事情を話して交渉を図るが、サトゥルノは少し困った顔をしただけで真剣に取り合う様子はなかった。

「でもさ、まだ会ったばっかりでお互いのことも知らないだろう?せっかくの縁だしもう少し大事にしてみないかな?」

「はぁ?」

まるでわがままを言う子供をあやすような態度、私はそれが気に食わなかった。私はこれでも長くを生きた大精霊の生まれ変わり。彼の数百倍は生きた経験があるので、私にとっては彼の方が子供だ。
……と主張してみたって理解してもらえないだろうけど。

「貴方、本気?もしかして幼女趣味なの?」

「違うよ!でも一度決まったことなら真剣に向き合うべきだろ?結婚なんてまだ先の話なんだから、知り合う時間はたっぷりあるし、それまでに合わなければ婚約解消しよう」

そうは言っても私が結婚できる十五歳になるまであと十年はある。私の気持ちが変わるとは思えないので、そうなると彼は二十五歳になり結婚適齢期を過ぎることになる。
私はサトゥルノがそうなってもどうでもいいが、いざ二十五歳になったときに「責任を取れ!」と文句を言われても困る。

「それは私にとっても、貴方にとっても時間の無駄だと思うけど……」

「うちも親父が期待してるんだよ。テゾーロ公爵家は優秀だけど閉鎖的な家門で他家とはなかなか交流を持たないから、繋がりが持てるって」

「繋がりが出来てもお金は貸さないわよ。貴方は婿養子だし」

「それは期待してな……あ、いや、大丈夫だ!お金で迷惑はかけない!」

……今、期待してないって言おうとしてなかった?確かにテゾーロ公爵家は財政が荒れに荒れていたけど、ちゃんとお父様が立て直した(崩したのもお父様だけど)。
私はじっとサトゥルノの目を見るが彼はすーっと目を逸らす。

私は一度精霊に聞いてみることにした。

「(みんなはどう思う?)」

『私たちはこの人のこと嫌いじゃないですよ。見たところ土の精霊との親和性は高いですけど、魔力回路が弱いですね』

「(精霊に好かれるなら悪い人じゃないと思いだけど、どっかの馬鹿王子みたいな奴もいるからなぁ)」

私は昔の恋人を思い出して頭を抱えた。

サトゥルノとの婚約を破棄しても、お父様は新しい婚約者を用意するだろう。そうなれば今度はどんな人を宛てがわれるか分からない。流石に素行に問題がある人は選ばないだろうけど、お父様なら年齢なら気にせず選びそうだ。最悪20歳差離れた寡男とか……。
想像して背筋に寒気が走った。

なら彼を虫除けとして置いておくのも有りではないだろうか。分別はつきそうだし、私の邪魔さえしなければそれでいい。

「私の邪魔をしないなら婚約者でいてもいいわよ」

「邪魔?」

「私とお父様が幸せに暮らす邪魔。したら許さない」

「……分かったよ。君とお父様の仲の邪魔はしない。安心してくれ」

「じゃあ約束よ」

私は小指を差し出す。
それを見てサトゥルノは笑って私の小指に自分の小指を絡める。

「ああ、約束な」

「【Giuro a Madre Mare】」

私が呟くと精霊たちが輝き、光から溢れた聖なる水が私たちの小指に落ちた。

「な、何だ?光る水が……」

「精霊の前に誓いを立てました」

「へ?」

「精霊の前で誓った約束は絶対に破れないわ。だから、貴方は絶対に私の邪魔は出来ない。これで安心ね」

普通の人間は結婚以外に精霊を証人に立てた誓いをすることはないので、サトゥルノは物珍しげに濡れた小指を眺めている。

「そんな大層な……けど、代わりに君は何を守るんだ?」

「私は別に何も?交わしたのは貴方が私の邪魔しないって約束だけだから、私には何の誓約もないわ」

そこでようやく、サトゥルノは自分の交わしたものに気がついたようで、顔を引き攣らせた。

「……つまり、俺だけが一方的に約束を結ばされた訳だな?」

「そういうこと。よろしくね、婚約者様」

「………」

サトゥルノは大きなため息を吐いて、「騙された……」と呟いた。

私は尻に敷きやすそうな婚約者を手に入れて、おおよそ満足であった。
いずれ破棄するけどね!






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