パパ溺愛幼女奮闘計画

片原痛子

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16話.かっこ悪いは可愛い

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「あぁ、ここだ」

たどり着いたのは街の中にある、シンプルな外観の喫茶店だった。
中は賑わっている、というわけではないが人がいないわけではない落ち着いた雰囲気の店だ。

「なんかコーヒーと……煙たい匂いがする」

「あぁ、タバコかな。公爵様は吸わないのか」

喫茶店を見回すと、席に座る男性たちが手に持つ筒状の物から煙が立ち上っていた。男たちはそれを時たま口に運び、煙を吐く。
タバコ……五百年前にはなかったものだ。

「嫌ならテラス席に座ろうか」

「別に大丈夫」

サトゥルノが引いてくれた椅子に座り私はメニューに目を通す。メニューにはサンドイッチやピザなど軽食が多く、私の好きな甘いものはあまりなさそうだ。
しかし彼は私の考えを呼んだようにデザートページを指さす。

「ここは果物を包んだクレープが美味しいんだよ」

「そうなんですか、じゃあ私はそれで。飲み物はホットミルク」

「ん。すみません、フルーツクレープとホットミルク、サンドイッチとコーヒーお願いします」

「かしこまりました」

注文品が届くまでの間、私たちは会話もなく静かに待った。正確にはサトゥルノが何か話しかけていいたけど全然興味がなかったので適当に相槌を打っていたら何も話さなくなった。

「お待たせしました」

運ばれてきたクレープにはクリームなどはないシンプルなもので、砂糖とシナモンがたっぷりかけてあって美味しそうだ。

「ん……、美味しい」

生地はパリパリというよりはもちもちした食感で食べ応えがあり、中にはクリームと一緒にイチゴとベリーが入っていて甘味と酸味が混ざり合い舌を満たす。
美味しい甘味を食べられるのは、人間になった数少ない利点だ。

「口にあったようで安心したよ。サファイア嬢は甘いものが好きなんだな」

「そうね。人生の数少ない喜びだわ」

「大袈裟だな」

私がクレープを食べるのを見ていたサトゥルノは手を拭いて届いたサンドイッチに手をつける。
パンに野菜とオリーブに生ハムが挟まった食べ応えのありそうなものだが……

「いただきます」

彼が口にした瞬間、長いサンドイッチの三割が消えた。

「え」

「?」

あまりの豪快な食べっぷりに思わず声が出てしまった。サトゥルノは声をあげた私に不思議そうに首を傾げているが、もぐもぐとリスのように頬張りながら食べているのは大変愉快な姿だった。

「あ、貴方、そんなに口いっぱいに詰め込まなくても……あははは!」

「……ング。みっともないところを見せて申し訳ない。昔からつい大口で食べてしまって、未だに親にも怒られるんだ」

私の笑い声にサトゥルノは慌ててサンドイッチを飲み込んで、もごもごと言い訳を始めた。その口の端にはしっかりとサンドイッチのかけらがくっついていて、私はまた笑ってしまう。

「ははは、口にパン屑ついてるわよ」

「ぐぬっ……あんまり笑わないでくれ、本当に恥ずかしい」

「こんなに笑うのは久しぶり。本当に面白い」

「初めて笑ってくれたのが自分の醜態って複雑だな……」

赤くなりながらハンカチで口を拭うサトゥルノは、何だか年相応な少年に見えて……その、ちょっと可愛いと思ってしまった。
何せいつもクールなお父様を見ているし、今日はずっと年上の婚約者として振る舞うサトゥルノを見上げていたから、余計にそう思ってしまうのだろう。

「カッコつけてるより、そっちのほうがいいわよ」

「そんなこと言うのは君くらいだよ」

サトゥルノは拗ねたような、呆れたように笑った。


私たちは喫茶店を出た後、目的地のないまま街の中を歩いた。

「記念に何か贈りたいんだが、何か欲しいものはないか?」

「特には」

もともと物欲がないのもあるが。公爵家の令嬢として欲しいものはだいたい手に入るし、わざわざ他人に買ってもらいたいものはない。それが会ったばかりの婚約者ならなおさら。

「何か好きな物は?」

「好きな物……水?」

水の精霊であっただけあって、私は水が好きだ。
見るのも飲むのも泳ぐのも楽しい。

しかし、この回答はサトゥルノ的には不正解だったらしい。

「婚約者に水を贈るってのは聞いたことがないな……」

「じゃあ湖とか?」

「土地か~~~。池くらいなら作ってあげられると思うんだが、湖はちょっと予算不足だな」

池なら作れるんだ……。
わざわざ池を作るという発想がなかったので、プレゼント候補として盲点だった。

「池……いいじゃない。今度うちの家令に作れないか聞いてみるわ」

「よし、それじゃあそれは今度贈るとして、今は何を贈ろうか」

そう言いながらサトゥルはおもちゃ屋へと入っていく。

「それでなんでおもちゃ屋に入るの」

「いや、たまたま目についたから……他意はないよ」

なんだか子供扱いされているような気がして、私はサトゥルノを睨んだ。
その視線にサトゥルノは乾いた笑みを浮かべながら逃げるように棚の商品を手に取り、「これとか面白そうだな」とあからさまに話題を変えようとする。

初めて見るおもちゃ屋さんは、ぬいぐるみや人形、積み木やパズルなど見慣れない物ばかりで、私は物珍しさからつい視線をあちこちに向けてしまう。

「なにか興味がある物はあるかい」

「物珍しいとは思うけれど欲しいかと言われたらいらないわね」

私の発言に店主が視界の隅で目を吊り上げた気がする。
けれど私はおもちゃ遊びをするような精神年齢ではないのだ。

「あ、これはどうだ?」

そう言ってサトゥルノが見せたのは装飾の少ない、宝石箱というにはシンプルな木箱だった。

「?アクセサリーケース?」

「いや、これはオルゴールだよ」

「オルゴール?」

知らない単語に首を傾げる私にサトゥルノが木箱の横についている金属を回して見せると、箱から音が鳴り始める。

「箱から音が鳴ってる!」

私はサトゥルノから箱を受け取り蓋を開ける。中は金属の円盤が入っているだけで、どうやって音が鳴っているのかはさっぱり理解できない。
長く生きてきたが、人間が生み出していく新しい物には毎回驚かされる。

「気に入ったみたいだな。じゃあこれにしよう」

サトゥルノがそういってオルゴールを買ってくれたが、その間私は回る円盤をずっと見ていた。

いや、正直に言うと私は帰りの馬車の中でも家に帰ってからも、ずっと箱を抱えていた。
夢中になり過ぎてサトゥルノと何と言って別れたのかも覚えていない。

『綺麗な音ですね』

「そうね」

明かりを消した部屋の中で、高い鐘のような音が響く。
なんの曲かは分からないけれど月の音が聞こえるとしたら、きっとこんな音だろうなと思いながら、私は気づいたら眠っていた。










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