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本編

攫われたアリス

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うぅと唸る魔獣は、なんだか辛そうで。悲しそう。

威嚇しているけど、襲ってくる気はしない。

「ヴヴヴ…」

はっきりいって、この過剰戦力はまずい…。


「メガンテ。私だよ。長いこと待たせて申し訳なかった。」


私は、クリスたちを制止する。

スッと懐から取りだしたのは、薬。

死んでしまったから、与える事ができなかった、薬。

注射を打ち込み、暫くして、魔獣の顔色が良くなっていく。

毛色が黒から虹色へ変化し、洞窟の気配が変わる。

『ありがと、おとうさん…』

「もう、暴れることはないよ。大丈夫。」

病気だったんだ。
だから暴れてた。
でも、当時の私は薬が作れなくて。

「アイス?」

クリスが緊張した顔で見ている。

「大丈夫、知識と記憶だけだ。」

「そっか。」

帰ろうとした時、ヒョコヒョコ魔獣がついてきた。

『おとうさん、おとうさんとニオイが似てる子、あぶない!』

急いで!!


私たちは真っ青になった。


ニオイが似てる子。

アリス!!



メガンテとその番の白い個体であるオーロラが、私たちを家へ送る。

「…みんな! アリスちゃんが!!」

さめざめと泣き崩れるお母様。
腕と顔に怪我をしている。

空っぽのベビーベッドと
転がっているおもちゃ。

ミカエルたちも集まっている。

アリスは攫われていた。



目の前が真っ暗になって、倒れそうになるのを、アイスが支えてくれた。

だめだ! こんなんじゃ!
すぐに見つけるんだ!
助けるんだ!!!




「ああああん。うわああん。」

「泣き止ませろ! 大体、なぜすぐ始末しなかった!」

「仕方ないだろう、グレイス侯爵。ナニーの女に酷く抵抗されたんだ!」

チッ、と舌打ちする。

グレイス侯爵は、アイスの父のクーデターを、王命でもみ消した際の法相だ。

あの血筋は悪だ。

偏った正義感に取り憑かれていた。

「あらあら、どうしましたの?」

妻のキャサリンの声がする。

キャサリンは公爵夫人と仲が良かったな。
一人でクリスマスパーティーにも行ってたし、お茶会も。

だが、まだこの子にはあったことは、確かなかったはず。

「いや、知り合いが旅行で、子を預かったのだ。」

「あらまあ、可愛らしい。では、私が面倒を見ましょう。」

「いや、それは」

「私、この子気に入りましたわ。」

面倒臭いことになった。
最悪、この綺麗なだけの石女ごと、殺す、 か。

 

このお顔立ち。
アメジストの瞳。

クリス様と公爵様の子にちがいありません!

旦那様は公爵家を悪だと言って。
きっとこの子を殺すつもりで。

「大丈夫、泣かないで。私はお母様のお友だちよ。」

必ず、私が守ります。

きっと、お母様が助けに来てくれますから。

その時まで、私が。
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