貧乏伯爵の三男（勇者？）は潜伏魔王に嫁ぐ

いなくていい子のロック

ルシフル（アンリ）とジルが結ばれた日。

クンツァイトは気晴らしに空中散歩をしていた。
そこで、人気が少ない山の中を一人で歩いている少年を見かけた。


「どうしよう……暗くなっちゃった…。どっちへ行けば街につくんだろう。」


「どうしたんですか？」

「うわぁぁ！でたっ！おばけっ！まものっ！」


「すみません、人間です。ニンゲン。迷子？街まででいいの？送ろうか？」

「は、はいっ！お願いします！」




街が見えるところまで送って行って。
彼はぺこりと頭を下げて帰っていった。

背中に弓を背負い、狩りの獲物を籠一杯に抱えた少年。

よく見たら、ジルのクラスメイトの男の子。



なぜだか気になって、後をつけてみた。





僕はロック＝ストーン。

男爵家の長男。

男爵家はお金がなくて、十分な数の使用人が雇えない。

だから僕はこの家のことを何でもやっている。

お母様が亡くなって、後妻とその連れ子がやってきた。
そして、お父様も働きすぎて亡くなった。

お母様と義妹のサンディは家の中のことを何もできない上に、湯水のようにお金を使う。

僕がしっかりしなきゃ。

領地は害獣が出るから、僕が駆除する。

害獣だけど、きちんと処理して料理したらおいしいから、うちのご飯の肉は全部僕が狩ってきたお肉。

お肉をさばいて出てきた魔石や冒険者ギルドに売れるものは、ギルドに販売。

僕はちゃんとギルド会員だ。

「まったくお兄様は愚図ね！いなくてもいいんじゃな～い！」

「ほんと気が利かない子！夕飯時間にはきちんとご飯を用意しなさいよ！フルコースじゃなきゃ許さないんだから！」

「ママあ、私、新しいドレスと宝石がほしい～！」

「いいわよぉ！」

「きゃー！やったぁ！」

「サンディは可愛いから、絶対に高位貴族がお嫁に欲しいって言ってくるわよ！」

「そうかしらぁ！」


（……そんなわけないでしょう？）

朝は誰よりも早く起きて家事をする。
朝ごはんを作りながら自分はキッチンでつまんで、二人が起きて朝食を食べている間に部屋の掃除とベッドメイキング。

通いで頼んでいる２人の侍女は、二人の身支度の手伝いと昼食の準備を任せ、僕は蔦魔法で隠した離れで制服に着替えて学園に行く。

離れを隠して、そこに制服を隠しているのは、僕が学園に通っていることを２人が知ったら、絶対に邪魔をするからだ。

そして、学園の宿題と領地経営の仕事のうち外に出してもできるものは休み時間に済ませてしまう。


帰ったら狩をして、冒険者ギルドからお金をもらって、夕ご飯を作って、領地経営の仕事を完結させて。


それから深夜に僕はそっと屋敷を出る。





星空。

暗くてよく見えなかったけど、親切で素敵な人だったな。

僕の目は特殊な目で、遠くは良く見えて狩は１００発１００中だけど、近くになるとよく見えないんだ。


「今日もよろしくお願いします。」

「お客さん、来てるわよ。」

「はい。」


シャワーを浴びて準備をして、服を着替える。

魔法で髪の色と瞳の色を変えてしまう。

「モノスキーさま。今日もぼくをかわいがってください…。」


家のことも家の仕事のことも学校も。
どれかを捨てられたら楽になるかもしれない。

だけど、僕にはそれが出来なかった。

片手間の領地経営では、貧しい男爵領の抜本的改革などできない。
お金もないし。僕には知識もノウハウもない。

睡眠だって食事だってとらなければならない。

少ない時間で、稼げる仕事なんて、僕には他に考えられなかった。


クラスメイトが知ったら軽蔑するだろう。






なんでこんなに胸が苦しいんだろう。

かわいそうなのは彼だけではない。
よくある話。

うちだって貧しかった。

だがこれはあまりにもひどい。