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俺が奪ったら面白いだろうか

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夏目太陽がこの時代劇の主役だ。

夏目太陽、武井一朗太は武家の三男。
のらりくらりと生きているようだが、実は将軍家の若殿様の覚えがめでたく、若殿の命で人知れず武家の闇を葬っている。

俺の役は、この若殿様。


一朗太は碁が上手く、碁の相手として城に上がり、二人になると差し合いながら指令の話になる。

「一朗太、最近山の方で騒ぎがあるようだよ。山猿のボスが実りを独り占めして、他の者が困窮しているようだ。どうやらボス猿は雌も独り占めしているようでね。いつの世も泣きを見るのは下の者だよ。やるせないねぇ。」

「暴動が起きたら里まで被害が出ることも。私は暇なので、見てきましょう。」

「ああ、一朗太頼んだよ。…………くっ。」

「はい。」


「投了だ……。」


がっくりと負かされて毎回場面が切り替わる。



俺だってカッコいい戦闘シーンをやってみたい。

だけど、顔をアップされる若殿様は、いつも最初と最後だけで終わる。
若殿は安全地帯で指令を出して報告を受けるだけなのだ。


良い役は良い役だけどさ!
見せ場ないの!?


見学しているあの声優――――――冬木香月は、落ち着いた様子で見ている。

表情を変えずに。

だが、その瞳は熱を持ってアイツを見ているようだ。


あのスンとした顔を啼かせてみたらどんなふうだろうか。




「貴様は何者だッ!」

「通りすがりの、お節介、かな?――――――荊山有山、民を苦しめ集めた財貨で謀反を起こすつもりだったな。その罪、地獄で贖え。」

「くぅうぅうううううう!!!ものども、賊だ!出会え出会え!」









はぁあぁぁあぁぁぁあ!!!!!

かっこいいぃ!

太陽かっこいい!

相手の刃を最小限の動きでスッとかわして、嶺打ちのカウンター。

僕、子どもの頃しかこういうお芝居してないから、格闘シーンは未経験。

でも、僕にはこんなことできそうもない。


おそらく、太陽は本当に強いんだ。

きっと、太陽はこれまでも役がつくたびに、演技を本物にするために、役に近づく努力を怠らない。

素敵………。



「カットォオオオオオオ!!!オッケー!!!!」




「素敵でした。」


「あ、今…。香月、今笑ったよ。ありがとう。」


え……。


「僕、笑えて…。」

「ああ、暑いなぁ。鬘蒸れちゃって。」

スポッと、鬘を脱ぐ。


「夏目さん、お疲れ様でした。殺陣、いつみても凄いですね。」

確かきらきらぷりんすっていう男性アイドルグループのリーダーの、入道アポロ。
若殿衣装の彼が、太陽に並んだ。

太陽のバディ役。いいなあ…。


「あ、こちらが噂の冬木さんですか。冬木香月さん、はじめまして。冬木さんのアニメ観てますよ。演技、参考になります。俺、2.5次元とかもあるので。今度、ゆっくりお話したいです。」


それじゃ、と名刺を渡して、入道さんが退出していく。



「アイドルはいつもキラキラだなあ。」

「太陽もきらきらしてるよ。」

「そう?香月も目が潰れるくらい輝いてるけど…。」


「あー、もうイチャイチャはあとで!」

「秋口。そうだな、汗流したい。スパいこ、スパ。よかったらみんなでスパいきませんか?」


ええーっ!


「いき、たい…。」

豊兄さんを見上げる。

服の裾をつまめば、苦しそうな声がして、オッケーがでた。
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