6 / 64
地球では
しおりを挟む
異世界では3年が経過していたが、地球では、まだ来栖が列車の事故で亡くなってから、それほど時間は経っていなかった。
「来栖もバカよね…。大人しくうちで働いていればよかったのよ!」
来栖の姉の櫻子は、綺麗に巻いた髪に黒い服を着て、瞼が腫れ、せっかくの美人が台無しになっていた。
45になる櫻子は、いわゆる美魔女で、グループで働く好青年を婿にした。
大事な大事な可愛い弟が、知らないところでブラック企業に使い潰されて、挙句の果てに列車事故。
自殺かもしれないなんて言われて、そんなわけないでしょと憤る。
過労で足がもつれて、落下してしまったのだと思う。
「来栖くんって確か、薬学部の院を出ていなかった?引く手あまたで将来有望だったはずなのに。それでどうしてて畑違いの三流商社で事務員兼開発兼営業なんて…。それに、こんなことなら…。」
夫が唇を噛む。
うちと遜色ないくらいの大企業の後継者だったのに、来栖が継がないから弟に地位を譲ってウチにわざわざ婿入りしてくれたのよ!天使!
「過去を後悔しても仕方ないわ。もう来栖はこの世にいないんですもの。使い潰されて、恋人も友人もいずに1DKのアパートに独り身で…。寂しかったでしょうね…。苦しかったでしょうね……。ウゥッ。家の力を借りずに一人でやっていきたいから手を出すなって…、頼りがないのが元気の証拠って……、意思を尊重なんて思ってる場合じゃなかったのよ、興信所くらい使ってればよかっ
「櫻子、癒太郎爺さんが呼んでるから来なさい。」
どこか意気消沈して顔色の悪い父親に呼ばれ、櫻子はようやく遺影の前を離れた。
遺影の中の弟は大学生で。
生意気そうに快活に笑っていた。
屋敷の奥の日当たりと風通しの良い部屋のベッドには、祖父の有栖が寝込んでいる。
若い頃はイケメンでバイタリティに溢れ、種田グループを世界で名だたるグループに発展させた祖父。
ただ、異世界からの転生者なのだという夢物語を語る人で、それは家族の前でだけではあったが、変わった人だという認識だった。
不思議なことに祖父の周りの人や親戚もそれが当たり前の事実のように振る舞うので、世間一般的には自分たちが変わっているのだと気づくまで、だいぶ恥はかいたかもしれない。
来栖が事故で亡くなったという一報を受けて、急に生命力が失われたように寝たきりになってしまった祖父。
祖父の側には和服美人の輝夜おばあ様が腰かけ、手を握る。
そして、母方の祖父である癒太郎さんは、大病院の院長先生で祖父の親友でもあった。
「有栖……お祖父さんはもう長くないでしょう。」
「そんな!」
「この世界の医学では原因が不明です。おそらく、向こうの世界に呼ばれている。」
「先生まで……!」
「櫻子さんのお父さんの世代からはそうではないが、有栖の両親を中心にその前後の世代までは、全員、ここではない別の共通する世界に生きた記憶がある。現代の医学では解明できない、前世からのつながりをもった家族なのだよ。私は前世ではザオラルという名前の、癒しの力を持つ神獣で、3人いる有栖の妻の一人だった。輝夜さんも妻の一人だ。もう一人の妻は君の旦那さんのお爺さんの紅緒さんだ。僕らは今世では輝夜さんだけが妻で他の2人は親友になったけれど、前世からの絆で強く結ばれている。紅緒さんが存命なら、有栖の病床に駆けつけただろう。神獣だったからか、転生しても私にはどこか超常的な能力があるみたいでね。」
「………まさか…。」
「有栖の魂があの世のはざまとを行ったり来たりしているんだ。もしかしたら来栖くんの関係で呼ばれているのかもしれない。」
「呼ばれてるって誰に…。」
「種田氷祐、種田剣…。君の曾祖父母じゃないかな。」
フラつく背中を夫が支えてくれる。
眠ったような祖父。
異世界……。転生……?
「来栖もバカよね…。大人しくうちで働いていればよかったのよ!」
来栖の姉の櫻子は、綺麗に巻いた髪に黒い服を着て、瞼が腫れ、せっかくの美人が台無しになっていた。
45になる櫻子は、いわゆる美魔女で、グループで働く好青年を婿にした。
大事な大事な可愛い弟が、知らないところでブラック企業に使い潰されて、挙句の果てに列車事故。
自殺かもしれないなんて言われて、そんなわけないでしょと憤る。
過労で足がもつれて、落下してしまったのだと思う。
「来栖くんって確か、薬学部の院を出ていなかった?引く手あまたで将来有望だったはずなのに。それでどうしてて畑違いの三流商社で事務員兼開発兼営業なんて…。それに、こんなことなら…。」
夫が唇を噛む。
うちと遜色ないくらいの大企業の後継者だったのに、来栖が継がないから弟に地位を譲ってウチにわざわざ婿入りしてくれたのよ!天使!
「過去を後悔しても仕方ないわ。もう来栖はこの世にいないんですもの。使い潰されて、恋人も友人もいずに1DKのアパートに独り身で…。寂しかったでしょうね…。苦しかったでしょうね……。ウゥッ。家の力を借りずに一人でやっていきたいから手を出すなって…、頼りがないのが元気の証拠って……、意思を尊重なんて思ってる場合じゃなかったのよ、興信所くらい使ってればよかっ
「櫻子、癒太郎爺さんが呼んでるから来なさい。」
どこか意気消沈して顔色の悪い父親に呼ばれ、櫻子はようやく遺影の前を離れた。
遺影の中の弟は大学生で。
生意気そうに快活に笑っていた。
屋敷の奥の日当たりと風通しの良い部屋のベッドには、祖父の有栖が寝込んでいる。
若い頃はイケメンでバイタリティに溢れ、種田グループを世界で名だたるグループに発展させた祖父。
ただ、異世界からの転生者なのだという夢物語を語る人で、それは家族の前でだけではあったが、変わった人だという認識だった。
不思議なことに祖父の周りの人や親戚もそれが当たり前の事実のように振る舞うので、世間一般的には自分たちが変わっているのだと気づくまで、だいぶ恥はかいたかもしれない。
来栖が事故で亡くなったという一報を受けて、急に生命力が失われたように寝たきりになってしまった祖父。
祖父の側には和服美人の輝夜おばあ様が腰かけ、手を握る。
そして、母方の祖父である癒太郎さんは、大病院の院長先生で祖父の親友でもあった。
「有栖……お祖父さんはもう長くないでしょう。」
「そんな!」
「この世界の医学では原因が不明です。おそらく、向こうの世界に呼ばれている。」
「先生まで……!」
「櫻子さんのお父さんの世代からはそうではないが、有栖の両親を中心にその前後の世代までは、全員、ここではない別の共通する世界に生きた記憶がある。現代の医学では解明できない、前世からのつながりをもった家族なのだよ。私は前世ではザオラルという名前の、癒しの力を持つ神獣で、3人いる有栖の妻の一人だった。輝夜さんも妻の一人だ。もう一人の妻は君の旦那さんのお爺さんの紅緒さんだ。僕らは今世では輝夜さんだけが妻で他の2人は親友になったけれど、前世からの絆で強く結ばれている。紅緒さんが存命なら、有栖の病床に駆けつけただろう。神獣だったからか、転生しても私にはどこか超常的な能力があるみたいでね。」
「………まさか…。」
「有栖の魂があの世のはざまとを行ったり来たりしているんだ。もしかしたら来栖くんの関係で呼ばれているのかもしれない。」
「呼ばれてるって誰に…。」
「種田氷祐、種田剣…。君の曾祖父母じゃないかな。」
フラつく背中を夫が支えてくれる。
眠ったような祖父。
異世界……。転生……?
88
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。
零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。
鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。
ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。
「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、
「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。
互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。
他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、
両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。
フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。
丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。
他サイトでも公開しております。
溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~
液体猫(299)
BL
毎日AM2:10分に予約投稿。
*執着脳筋ヤンデレイケメン×儚げ美人受け
【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸に、クリスがひたすら生きる物語】
大陸の全土を治めるアルバディア王国の第五皇子クリスは謂れのない罪を背負わされ、処刑されてしまう。
けれど次に目を覚ましたとき、彼は子供の姿になっていた。
これ幸いにと、クリスは過去の自分と同じ過ちを繰り返さないようにと自ら行動を起こす。巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞っていく。
かわいい末っ子が兄たちに可愛がられ、溺愛されていくほのぼの物語。やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで、新たな人生を謳歌するマイペースで、コミカル&シリアスなクリスの物語です。
主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ
⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌
⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる