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捨てられた王子

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昔々。

城の片隅の離宮に、俺はお母さまと暮らしていた。

母はタイガー公爵の令嬢なのに、ここでは側妃として冷遇されている。

そんな母の子の俺も、いない者として扱われていた。

俺は王子として公表されていない。

母と侍女のバーバラと、その息子のステンシル。

それだけが世界のすべて。


「そろそろいいだろう。アレももう三つ。私の宮に来なさい。」

金髪の偉そうな人が離宮にきた。

黒い髪は弧を描き、緑色のぱっちりした瞳の華やかで美しい俺の母の腰に触れる。

母は、ピクリと跳ねた。


「………ですが、私はただの側妃。正妃様に叱られてしまいますので。」

「………ちちうえ?」

これが私の父かと見つめると、憎むような眼差しに恐怖を感じた。


「アレックスを守りたくば、逆らうな。」


「………はい。」


その晩、母は私にタイガー公爵家の紋章が入ったペンダントを渡した。

「アレク、私の大切なアレク。私にもよく分かりませんが、あれは貴方の父ではありません。何があるか分からない。だけど、けして命を諦めてはなりません。」

あなたを何としても守るから……。


そう言って抱きしめた母は泣いていて、そして母は離宮に帰ってこなくなった。



母は元々、父上の正妃だった。
それが、父上の双子の弟が病死し、何故か双子の弟の妃が父の正妃に、母は側妃になった。
時期的には叔父の子のはずが、父は不義を行っていたというのか、正妃の子を第一王子としている。
そんなことをしておきながら、母だけを求める行動が理解出来ない。


母がいなくなり、その翌朝。
俺は麻袋にいれられて北の山に捨てられた。

魔獣がはびこる中を、息を潜めて。
枝を武器に、罠を仕掛けながら生き抜いた。

そして何とか街路に出て、公爵家のペンダントを頼りにお祖父さまを呼んだ。

お祖父さまは俺を抱きしめ、養子にして受け入れてくれた。
母はバーバラとともに、既に亡くなっていた。

何者かに殺されたらしい。

ステンシルも悲しいはずなのに、寄り添ってくれた。



王家は、俺が殺したはずの王子だとわかっているだろう。

だが、三歳であの森を生き延び、武勇でたたえられるようになった俺を、今更始末出来ない。
だから、この北の地に追いやったのだ。


今なら分かる。


あの違和感。



おそらく父は、病で死んだ双子の弟ということになって、葬られている。

今の陛下は本当は弟だ。

兄を殺し、だがお母さまは欲しかったんだろう。



今更、王位は欲しくない。

だがいつか……………



父や母、バーバラの無念を晴らせたら。
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