王子様との婚約回避のために友達と形だけの結婚をしたつもりが溺愛されました

竜鳴躍

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この日のための準備

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ファンファーレが鳴り響き、スプリング王国陛下であるマール=フル=スプリング2世が妃のアイリ妃を伴ってビロードの真っ赤なカーテンから王座に現れる。

春色のストロベリーブロンドは、王妃や王子の持つハニーブロンドとも少し違う。


青色の瞳は春の空のような、威厳はないが穏やかで。

よく言えば皆を優しく包み込む、そんな雰囲気があった。




王族が現れた玉座は、パーティ会場からは優雅な弧を描いた大理石の階段で繋がった、2階席に相当する場所にあり、陛下はそこから参加してくれた他国の王族への礼と集まった貴族たちへ新年の祝いの言葉を述べると、よく会場を見渡した。



(あそこにいらしているのがウインター王国の…。王子が二人とも来てくれたのか。)



―――――えっ。


持っていたグラスを落とし、侍女が慌てて片づける。



「……ナード。レナードっ!」


隣にいたアイリ妃は夫のその狼狽えぶりに会場に『その人』を見つけ、口を思わず扇子で覆った。

「えっ??え?」

グレイシャス王子もレナードを見つけ、驚愕した。

どういうこと?

兄上は事故で亡くなったのではなかったのか?



しかしそれよりも。


なぜ、ナードの妻であるはずのアレックスが彼にエスコートされているのだろう。



三者三様に階段を駆け下りて、レナードとアレックスの下へ向かった。









エスコートをそっちのけで駆け下りていく彼らを見て、サザンドラ王女は扇子で表情を隠しつつも、その裏で形の良い唇を曲げた。

そして、彼女の侍女と一緒に愚か者たちを嗤った。

「さぁ、いよいよ断罪の始まり、かしらね…。ねぇオルビス。私たちの計画ももうすぐで成就するかしらね。あなたのこの黒い髪…。この髪も素敵だけれど、成就したら私の前では貴女の髪色でいてちょうだいね。」

「畏まりました。」

ふふっと笑う侍女の瞳は菫色をしている。


本人は気が付いていないが、グレイシャス王子に子種はない。

そのことでちょっと計画変更したけれど、よりやりやすくなった。



アイリ妃のせいだ。全くの自業自得。


オメガの発情を促す薬の材料にもなっているマジックベリー。
子どもを産みたい女性にもおすすめの果実だが、産む性のホルモンを増強する一方、アルファや孕ませる側、男性の機能を減退させ、摂取し続けると子種を失う――――不妊になってしまう、取り扱い注意の果実だ。

ゆえに、簡単に手に入らないよう管理されているはずが、城の庭に植えられていた。

子どもの頃、マジックベリーのジュースがレナード王子にだけサーブされていた。
母親のレイチェル妃が気づいて、レナード王子に注意したところ、王子は口にしなかったと聞いているが、グレイシャス王子のエスコートで庭を散策していた時に、『好物だ』と言って王子が実をつまむのを見て、探りを入れた。


『お母さまからは絶対に食べるなって言われているけど、別にお腹壊さないし、美味しいし。』

『そうですの?なんで美味しいって分かったんですの?』

『腹違いの兄にだけ、このジュースが出てたんだ。気になるでしょ?なんか飲まないみたいだから飲んだら美味しくて。』


本当に馬鹿な人。
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