【完結】G材倉庫ジャック事件!

冴木 悠宇

文字の大きさ
31 / 37

第二十七章 老害の挽歌

しおりを挟む
 
 ヒロユキがG材倉庫から遁走とんそうした翌日……。
 絵衣子さんと女神様、ついでに魔女はお休みの日で、なんとG材倉庫事務所は僕とハツオだけ。
 うわぁ、なんともやりにくい雰囲気だよ。
 ヒロユキが勝手に出て行ったとはいえ、このたびの話をしないわけにもいかない。知らない顔していても良かったんだけどね。
 さて、どう切り出そうかなと、まずは熟考じゅっこうする。

『ヒロユキは逃げましたけど、あなたも後を追いますか?』

 いやいや待て待て、いきなり攻撃力最大でぶん殴るみたいじゃないか。

『ヒロユキから、第二倉庫へ行くように言われたんじゃないですか?』

 いや待てって。どう言い出そうかなと、女神様のように「きゅ?」と小首をかしげて考える。
 考えててもしょうがないや。もう感情的にも心情的にも相容あいいれないんだから。
 分かってるんだよ。ハツオは魔女が気に入っていてね、一緒に仕事がしたかったんだ。魔女をG材倉庫のリーダーにしたいと考えた、だからハツオは僕が邪魔になったんだ。

「……それで、どうするんです?」

 僕はそれでも丁寧に、そう問い掛けた。

「どうするとは……」

 ちょ、説明がいるの?この期に及んで? しかたないなぁ。

「昨日、こんなことになりましたけど。どうされるのかなと思いまして」

「ふん、会社からの指示がないのに、勝手に動けるわけがないだろう!」

 うわ怒り出したよ、めんどくさいな。
 なんかぷるぷるしてるし、どこか調子悪いのかね。
 しかし『勝手に動けるわけがない』って、あんたの相棒のヒロユキは勝手に出て行ったけど?それはいいの?
 もう何を考えているのか分からない。

「僕がリーダーとして、この倉庫を預からせてもらいます、それでよろしいですか?」

 これはもう、ハツオの息の根を止めるような言葉だ。
 僕がようように声を絞り出すと、ハツオはなおも、ぷるぷるしながら。
 すごく不機嫌そうな顔をした。

「お前なんか要らん、他の担務についてどこかに行ってくれ」

 まだ毒を吐きかけるのか。
 ああ、やっぱりだめだ。この人とは同じ彼方かなたを見ていられないんだ。
 分かってはいたけど、そこで線引きが出来た気がしたよ。
 ヒロユキの実績なんて、悪い噂しか聞いたことがないけど。ハツオは会社への貢献度も高かった。大きな失態もあったようだけど。
 そこに目をつぶっても、こんな高齢でも会社はパート契約を続けていた。
 実は、僕も尊敬していたんだよ。でも今のハツオはとても小さな存在に思えたんだ。
 それにね、ハツオに対する人事課の評価が、僕の耳に入っていた。

『ハツオ? ああ、仕事しないしない、しゃべってるばかりだからな』

 人事課長が顔をしかめながら、そういうくらいだから。

 うん。魔女に魅了されたかな、魔法は強力なんだね……。
 結局、ハツオは会社からパート契約をしてもらえなくて。
 しつこく恨み節を唸っていたけど、あきらめて退職していったんだ。

☆★☆

 お仕事が終わって帰宅しても、主婦には家事があるのです。ほんとうに、お疲れ様です。
 洗い物を済ませた絵衣子は、肩をぽんぽんしながら廊下を歩く。
 そろそろ、ゆるちゃんを寝かせる時間だ。近頃は自分と融合していないと、女神はぐーんと年齢が下がってしまう。
 どうしてか分からないけど。

「ゆるちゃんどこ? そろそろ寝よう?」

 絵衣子は家の中を、あっちこっちと探して回る。

「もう、どこ行っちゃったのかなぁ?」

 そこで絵衣子は「あふ……」と、あくびをひとつ。G材倉庫、職場がおかしなことになっているせいか、疲れ気味なのだ。

「う~ん、ゆるちゃんと合体していないと、どうにも体が重いな」

 ちょっと合体って、ロボかあんたは。

 女神が現界に顕現けんげんするための依り代である絵衣子は、ゆるちゃんから天界の護りを授かっているのかもしれない。

「ゆーるちゃん、どこ? どこかなぁ?」

 ゆるゆるゆるちゃん、どーこかな? なんて変な歌を歌う絵衣子は、ふと足を止めた。

「え?なんだろう」

 急に胸がざわざわとする。押し寄せてくる不安に、絵衣子は両腕で自分の体を抱きしめた。
 しばらくそうして体をさすっていた絵衣子は、壁に寄りかかるようにして階段を一段一段ゆっくりと降りていく。
 次第に何かの予感が、絵衣子の脳裏に囁きかける。
 辿り着いたのはリビングだ。ごくりと唾をのんだ絵衣子は、震える手で扉の取っ手を掴み、そして開いた。

「ゆるちゃん、なの?」

 リビングを支配する暗闇へ、絵衣子が声をかけた時。
 突然、暗闇を退ける光が弾け、絵衣子は思わず両手をかざす。なにかの異変が起こっている、意を決した絵衣子は、自分を取り込みそうになる恐怖をかなぐり捨てて部屋へ踏み込んだ。

「大丈夫? ゆるちゃんっ!」

「あ、絵衣子さん……ですか?」

「ゆ、ゆるちゃん」

 絵衣子は目の前の光景に鋭く息をのんだ。
 目の前には立っているのは、可愛い女神のゆるちゃんではない。「すーぱー」でも「ゆるふわ」でも「神業お仕事系」でもない。絵衣子が知る、あの愛らしい女神の姿ではない。

 青白い光を放つ聖剣をびた、戦乙女が長い髪を揺らして静かに振り返った。

「絵衣子さん、私には見えるんです……大きな、とても大きな災禍さいかが」

 戦装束いくさしょうぞくまとう女神の頬を、一筋の涙が伝った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...