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第1章
013
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「起きたか!」
壊れるんじゃないかと思われるぐらいの勢いで、木製の扉が開いた。
入って来たのは、見たことのない青年だった。
鮮やかな朱色の髪が目に痛い。漆黒を基調としたその服装は、どことなく学生服を連想させる。首元には明らかに使用者を選ぶだろうゴールドネックレス。その襟元に、二振りの剣が刻印されたエンブレムがあるのを、クロノは目敏く確認していた。
「愛しの彼女と決死の逃走劇! なかなか思い切ったことをやるな!」
耳障りなほどの喧しい声にクロノは表情を曇らせる。
――頭痛くなってきた。
だが青年は、少年の反応など意に介せずマシンガンのように言葉を続ける。
「安心しろ! お前たちが首を刎ねられまいと逃げ出すアリスなら、オレは七人の小人のように魔の手から守ってやるぞ、七人もいないけどな!」
「…………」
「だから雨の日は好きなんだ! 雪の日に野ネズミが親指姫に会ったように、誰かに助けを求めるずぶ濡れの野良犬と出会うからな!」
その様子を見るに、単に語りたいだけのようで、クロノは遠慮なく無視を決め込んだ。
この赤毛が何者なのかは不明だが、エンブレムを身に付けていることから使い手であることはわかった。そして、ここが、この青年が所属する組織であることは間違いないだろう。彼の襟元の刻印は、この天井に描かれているものと同じだ。起きたか、との一声と共に入って来たと言うことは、自分を監視していたのかもしれない。一体、何のために。
ふいに、扉に誰かの気配を感じ、クロノはそちらへと視線を向けた。
そこに立っていたのは、オフィスレディを思わせる栗毛の女性。
「起きたみたいね」
「おかげ様で」
にこりと愛想笑いを浮かべる女性に、少年は同じ笑顔を返す。
置かれている状況は、意識を失う前と何ら変わらない。
違いを上げるとすれば、自分たちがいる場所、そして、不安げな少女の代わりに独裁トークを繰り広げる赤毛がいることだろう。
彼女――赤星はやはり淡々と言葉を続ける。
「貴方は今、過労と疲労で体を壊した、との理由で結社グラールから脱退命令が下されたことになっているわ、……表向きはね」
使い物にならなくなったから切り捨てたと公表した、の解釈で良いのだろうか。
不可解な宣告はクロノに何の感情も抱かせなかった。思うことがないわけではないが、僅かに表情を暗ませただけで、それ以上の反応も言葉もなかった。
こうなることは予想していたが、それを結社内で公にする意味がわからない。
「と、言うことで。晴れてフリーになった貴方に、この結社へのお誘いがあるんだけど、どうかしら?」
だが、続けられた突然の勧誘は、少年の思考を止めるのに十分な効果をもたらした。
クロノは狐につままれたような顔で赤星を見やる。
グラールから追放されたのだ。今後のことを考えても、争奪戦の渦中にいたいのなら、どこか拠点となる場所を新たに探さなくてはいけない身の上としては、この誘いはまさに願ってもない提案ではあるのは確かだ。
けど、とクロノは内心眉根を寄せていた。
――あまりにも都合が良すぎる。
まるで「戻るついで」の仕事から命懸けの大脱走までが、誰かが考えたシナリオ通りで、掌の上で踊らされているのではないかと思える程、とんとん拍子すぎるのだ。……だが、ここで選択をひとつでも間違えれば「裏切り者を捕獲した」とグラールへ通報される可能性は高いのも事実だ。追放された身分である以上、それだけは避けなくてはいけない。それに、ミントの安否も気になるところで。十中八九、身柄は拘束されているはずだ。下手な行動は出来ない。
――いまいち信用出来ないけど、……まあ、それはグラールにしたって同じことだし。
「別に構いませんけど」
それに、何よりもクロノが一番気になっていたのは、目の前の女性の存在だった。
通信部の一般人とは言え、結社に所属する人間に変わりはない。
反逆者に厳しいグラールに所属している、事実上の裏切り者だ。
職務放棄は減俸か殉職で手っ取り早く済まされるが、反逆行為の場合は見せしめも兼ねて公開処刑される。職務放棄と命令違反をやらかしただけのクロノですら、追われる身となり追放される程の潔癖さだ。反逆行為など優先的に処罰されるべき立場だろうに、白昼堂々裏切りと呼べる行為が出来るのはどう考えても不可解だった。結社が赤星の動向に気付いていないだけなのか、あえて泳がせているのか。その真意はわからない。
それとも、厳しいのは使い手に対してだけで、一般人には優しいのかもしれない。
クロノにそれを確かめる術がない以上、真相は闇の中だ。
「良かったわ。それじゃあ、後でエンブレムとかを支給するわね」
相も変わらず赤星は当然のように淡々と説明を始める。
「ここは術師結社カリバーン。現在は、そこの赤毛、エイレンを中心に活動しているわ。……まあ、世間では都市伝説扱いの認知度だから、前と比べて肩身は狭くなるでしょうね」
術師結社カリバーン。
青年の襟元や天井に示されている通り、二振りの剣がこの組織を表す紋様である。
かつては、三大トップと称される『聖』の文字を持つ魔道具を象徴としているだけあり、争奪戦の有力候補として数えられていた。社会に及ぼす影響も考えず他結社と盛大に衝突を繰り返す程血の気の多い組織だったらしいが、現在はその成りを潜めており、表立った活動もここ数年は確認されていない。結社本部もそこに所属する使い手たちも、本当に存在しているのか実態が掴めないのだ、都市伝説扱いと言うのもあながち間違いではないだろう。
クロノが知っているのも、その結社名だけだ。
「だから、グラールに追われているお前たちも、ここにいれば安全だってわけだ!」
いつの間に会話に参加していたのか、エイレンが豪快に笑った。
そして、クロノの手を繋いでいる手錠を長椅子から外し始める。ガチャガチャと音を立てながらも、それに負けないくらいの声量で「枯れ葉に落ち葉を混ぜるように」とか「森に木を植えるように」とか「アヒルの子供の中に白鳥の子供を入れるように」とか何とか呟いているが、全然意味がわからないのでクロノは当たり前のように無視する。
ややあって、手錠が長椅子から離れた。
自由になった手を動かして、クロノは固まった筋肉をほぐした。本音としては手錠を長椅子からではなく、手から外してほしかったのだが、自由になった以上文句を言うつもりはなかった。まだ完全に信用されてないのか、と内心苦笑いを浮かべる。
「早速で悪いんだが、クロノ、ひとつ頼まれてくれないか?」
今までの軽いノリから一変して赤毛の口調は、ひどく真剣なものだ。
こうやって改めて見ると、その真面目な雰囲気や落ち着いた口調も相まってか、確かにこの男が一結社のトップであるのも頷ける。例え言動や容姿が超個性的であったとしても、纏う空気や生まれ持ったオーラがそう見えさせるのだろうか。
クロノが何か答えるよりも先にエイレンは言葉を続ける。
「今から、ある人物の助太刀か、もしくは救出に向かってほしい」
「……」
「それで、だ。選ぶとしたら、赤頭巾と人魚姫、どっちの王子様になりたい?」
クロノは冷めた目でエイレンを見やった。
赤毛の言葉の意味が理解出来ない。それでも少年が口を挟まないのは、彼の心境に潜む警戒心がそうさせたのか、それとも話を聞かない相手に余計な問答をしたくないからなのか。
だが、考えられる可能性など限られている。
――暗号か。
自らが黒羽と名付けられたように、与えられた選択肢の単語もまた暗号だと、とクロノは結論付ける。だが、童話の名を付けられることにどんな意味があるのだろうか。
狼から助言をもらい逆にピンチになった赤頭巾は狩人によって救われるが、魔女の助けを得て幸せになれるはずだった人魚姫は最終的に姉たちの救いの手を拒んで死を選ぶ。童話の内容がこの選択肢にどこまで反映されているのかはわからないが、慎重に越したことはない。
「まあ、今ここで決めてくれとは言わんぞ」
クロノの無言をどう捉えたのだろうか。
カリバーンのトップはあっさりと少年からの返答を先送りにした。
「愛しの彼女と二人で、どうするのか、一緒に決めれば良い」
「は?」
「ビビアン。クロノをミントのところに連れてってくれ」
「ええ、わかったわ」
ビビアンと呼ばれた女性が二つ返事で頷いた。
赤星の実名はビビアンか、と場違いなことを考えながらもクロノは怪訝な顔をする。
当然のように自分たちの名前が呼ばれたことも不可解ではあるが、それよりも、自身の連れと称された少女を、調査ならともかく、危険を伴うような仕事に向かわせようとする神経が、クロノには理解出来なかった。赤星がいる以上、ミントがこちら側のことを何も知らない一般人であることは周知の事実であるはずだ。それほどまでこの結社には人員が足りないのか、それとも、あえて使うことに意味があるのか。
猜疑心を滲ませるクロノの様子を、ビビアンは微笑ましそうに眺めていた。
そして、彼女は目を逸らすように栗色の髪をなびかせて踵を返す。
「こっちよ、ついて来て」
ややあってから、クロノはその背中を素直に追った。
考えていても答えは見つからない。クロノは早々に思考を放棄した。どうせ後で聞けば良いだけの話だ。……本当に懸念すべきは、どこまで自分たちの情報が知られているかだろう。
「クロノ! お前もミントも、誰が何と言おうとカリバーンのメンバーだ! 巨大な大砲を装着した泥船に乗ったつもりで安心しろ! 百円ショップで駄菓子を買うのに千円持って行くぐらいの気持ちでいて良いぞ!」
背中に聞こえる大声。
その言葉にビビアンが肩越しにクロノの様子を窺ったが、少年が無反応を示したことを確認すると、あえて何も言わずに部屋を出て行った。
当のクロノは意味不明な宣言を聞かなかったことにして、部屋を後にした。
壊れるんじゃないかと思われるぐらいの勢いで、木製の扉が開いた。
入って来たのは、見たことのない青年だった。
鮮やかな朱色の髪が目に痛い。漆黒を基調としたその服装は、どことなく学生服を連想させる。首元には明らかに使用者を選ぶだろうゴールドネックレス。その襟元に、二振りの剣が刻印されたエンブレムがあるのを、クロノは目敏く確認していた。
「愛しの彼女と決死の逃走劇! なかなか思い切ったことをやるな!」
耳障りなほどの喧しい声にクロノは表情を曇らせる。
――頭痛くなってきた。
だが青年は、少年の反応など意に介せずマシンガンのように言葉を続ける。
「安心しろ! お前たちが首を刎ねられまいと逃げ出すアリスなら、オレは七人の小人のように魔の手から守ってやるぞ、七人もいないけどな!」
「…………」
「だから雨の日は好きなんだ! 雪の日に野ネズミが親指姫に会ったように、誰かに助けを求めるずぶ濡れの野良犬と出会うからな!」
その様子を見るに、単に語りたいだけのようで、クロノは遠慮なく無視を決め込んだ。
この赤毛が何者なのかは不明だが、エンブレムを身に付けていることから使い手であることはわかった。そして、ここが、この青年が所属する組織であることは間違いないだろう。彼の襟元の刻印は、この天井に描かれているものと同じだ。起きたか、との一声と共に入って来たと言うことは、自分を監視していたのかもしれない。一体、何のために。
ふいに、扉に誰かの気配を感じ、クロノはそちらへと視線を向けた。
そこに立っていたのは、オフィスレディを思わせる栗毛の女性。
「起きたみたいね」
「おかげ様で」
にこりと愛想笑いを浮かべる女性に、少年は同じ笑顔を返す。
置かれている状況は、意識を失う前と何ら変わらない。
違いを上げるとすれば、自分たちがいる場所、そして、不安げな少女の代わりに独裁トークを繰り広げる赤毛がいることだろう。
彼女――赤星はやはり淡々と言葉を続ける。
「貴方は今、過労と疲労で体を壊した、との理由で結社グラールから脱退命令が下されたことになっているわ、……表向きはね」
使い物にならなくなったから切り捨てたと公表した、の解釈で良いのだろうか。
不可解な宣告はクロノに何の感情も抱かせなかった。思うことがないわけではないが、僅かに表情を暗ませただけで、それ以上の反応も言葉もなかった。
こうなることは予想していたが、それを結社内で公にする意味がわからない。
「と、言うことで。晴れてフリーになった貴方に、この結社へのお誘いがあるんだけど、どうかしら?」
だが、続けられた突然の勧誘は、少年の思考を止めるのに十分な効果をもたらした。
クロノは狐につままれたような顔で赤星を見やる。
グラールから追放されたのだ。今後のことを考えても、争奪戦の渦中にいたいのなら、どこか拠点となる場所を新たに探さなくてはいけない身の上としては、この誘いはまさに願ってもない提案ではあるのは確かだ。
けど、とクロノは内心眉根を寄せていた。
――あまりにも都合が良すぎる。
まるで「戻るついで」の仕事から命懸けの大脱走までが、誰かが考えたシナリオ通りで、掌の上で踊らされているのではないかと思える程、とんとん拍子すぎるのだ。……だが、ここで選択をひとつでも間違えれば「裏切り者を捕獲した」とグラールへ通報される可能性は高いのも事実だ。追放された身分である以上、それだけは避けなくてはいけない。それに、ミントの安否も気になるところで。十中八九、身柄は拘束されているはずだ。下手な行動は出来ない。
――いまいち信用出来ないけど、……まあ、それはグラールにしたって同じことだし。
「別に構いませんけど」
それに、何よりもクロノが一番気になっていたのは、目の前の女性の存在だった。
通信部の一般人とは言え、結社に所属する人間に変わりはない。
反逆者に厳しいグラールに所属している、事実上の裏切り者だ。
職務放棄は減俸か殉職で手っ取り早く済まされるが、反逆行為の場合は見せしめも兼ねて公開処刑される。職務放棄と命令違反をやらかしただけのクロノですら、追われる身となり追放される程の潔癖さだ。反逆行為など優先的に処罰されるべき立場だろうに、白昼堂々裏切りと呼べる行為が出来るのはどう考えても不可解だった。結社が赤星の動向に気付いていないだけなのか、あえて泳がせているのか。その真意はわからない。
それとも、厳しいのは使い手に対してだけで、一般人には優しいのかもしれない。
クロノにそれを確かめる術がない以上、真相は闇の中だ。
「良かったわ。それじゃあ、後でエンブレムとかを支給するわね」
相も変わらず赤星は当然のように淡々と説明を始める。
「ここは術師結社カリバーン。現在は、そこの赤毛、エイレンを中心に活動しているわ。……まあ、世間では都市伝説扱いの認知度だから、前と比べて肩身は狭くなるでしょうね」
術師結社カリバーン。
青年の襟元や天井に示されている通り、二振りの剣がこの組織を表す紋様である。
かつては、三大トップと称される『聖』の文字を持つ魔道具を象徴としているだけあり、争奪戦の有力候補として数えられていた。社会に及ぼす影響も考えず他結社と盛大に衝突を繰り返す程血の気の多い組織だったらしいが、現在はその成りを潜めており、表立った活動もここ数年は確認されていない。結社本部もそこに所属する使い手たちも、本当に存在しているのか実態が掴めないのだ、都市伝説扱いと言うのもあながち間違いではないだろう。
クロノが知っているのも、その結社名だけだ。
「だから、グラールに追われているお前たちも、ここにいれば安全だってわけだ!」
いつの間に会話に参加していたのか、エイレンが豪快に笑った。
そして、クロノの手を繋いでいる手錠を長椅子から外し始める。ガチャガチャと音を立てながらも、それに負けないくらいの声量で「枯れ葉に落ち葉を混ぜるように」とか「森に木を植えるように」とか「アヒルの子供の中に白鳥の子供を入れるように」とか何とか呟いているが、全然意味がわからないのでクロノは当たり前のように無視する。
ややあって、手錠が長椅子から離れた。
自由になった手を動かして、クロノは固まった筋肉をほぐした。本音としては手錠を長椅子からではなく、手から外してほしかったのだが、自由になった以上文句を言うつもりはなかった。まだ完全に信用されてないのか、と内心苦笑いを浮かべる。
「早速で悪いんだが、クロノ、ひとつ頼まれてくれないか?」
今までの軽いノリから一変して赤毛の口調は、ひどく真剣なものだ。
こうやって改めて見ると、その真面目な雰囲気や落ち着いた口調も相まってか、確かにこの男が一結社のトップであるのも頷ける。例え言動や容姿が超個性的であったとしても、纏う空気や生まれ持ったオーラがそう見えさせるのだろうか。
クロノが何か答えるよりも先にエイレンは言葉を続ける。
「今から、ある人物の助太刀か、もしくは救出に向かってほしい」
「……」
「それで、だ。選ぶとしたら、赤頭巾と人魚姫、どっちの王子様になりたい?」
クロノは冷めた目でエイレンを見やった。
赤毛の言葉の意味が理解出来ない。それでも少年が口を挟まないのは、彼の心境に潜む警戒心がそうさせたのか、それとも話を聞かない相手に余計な問答をしたくないからなのか。
だが、考えられる可能性など限られている。
――暗号か。
自らが黒羽と名付けられたように、与えられた選択肢の単語もまた暗号だと、とクロノは結論付ける。だが、童話の名を付けられることにどんな意味があるのだろうか。
狼から助言をもらい逆にピンチになった赤頭巾は狩人によって救われるが、魔女の助けを得て幸せになれるはずだった人魚姫は最終的に姉たちの救いの手を拒んで死を選ぶ。童話の内容がこの選択肢にどこまで反映されているのかはわからないが、慎重に越したことはない。
「まあ、今ここで決めてくれとは言わんぞ」
クロノの無言をどう捉えたのだろうか。
カリバーンのトップはあっさりと少年からの返答を先送りにした。
「愛しの彼女と二人で、どうするのか、一緒に決めれば良い」
「は?」
「ビビアン。クロノをミントのところに連れてってくれ」
「ええ、わかったわ」
ビビアンと呼ばれた女性が二つ返事で頷いた。
赤星の実名はビビアンか、と場違いなことを考えながらもクロノは怪訝な顔をする。
当然のように自分たちの名前が呼ばれたことも不可解ではあるが、それよりも、自身の連れと称された少女を、調査ならともかく、危険を伴うような仕事に向かわせようとする神経が、クロノには理解出来なかった。赤星がいる以上、ミントがこちら側のことを何も知らない一般人であることは周知の事実であるはずだ。それほどまでこの結社には人員が足りないのか、それとも、あえて使うことに意味があるのか。
猜疑心を滲ませるクロノの様子を、ビビアンは微笑ましそうに眺めていた。
そして、彼女は目を逸らすように栗色の髪をなびかせて踵を返す。
「こっちよ、ついて来て」
ややあってから、クロノはその背中を素直に追った。
考えていても答えは見つからない。クロノは早々に思考を放棄した。どうせ後で聞けば良いだけの話だ。……本当に懸念すべきは、どこまで自分たちの情報が知られているかだろう。
「クロノ! お前もミントも、誰が何と言おうとカリバーンのメンバーだ! 巨大な大砲を装着した泥船に乗ったつもりで安心しろ! 百円ショップで駄菓子を買うのに千円持って行くぐらいの気持ちでいて良いぞ!」
背中に聞こえる大声。
その言葉にビビアンが肩越しにクロノの様子を窺ったが、少年が無反応を示したことを確認すると、あえて何も言わずに部屋を出て行った。
当のクロノは意味不明な宣言を聞かなかったことにして、部屋を後にした。
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