62 / 97
第2章
061
しおりを挟む
連絡を告げる電子音に、二人は顔を見合わせた。
ややあってから、持ち主は通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『クロノ! 心配したんだぞ、今どこに――』
――ツーツー。
耳で響く喧しい声に、クロノは思わず電話を切った。
そして、投げ捨てるようにケータイを机に置いた直後。
再びケータイは着信を告げた。
クロノはため息と共に苛立たしげに再び電話に出た。
『冬の南極のように冷たく、おやつを盗み食いしたみたいに酷い態度だな、クロノ! オレはそんな冷たい子に育てた覚えはないぞ!』
「育てられた覚えもない」
電話越しに騒がしいエイレンの言い分を一掃する。
「用がないなら切る」
『まあ待て。まずは確認だが、そこにミントもいるか?』
クロノは、ちらりとミントを見てから二つ返事で頷く。
『なら話が早い。グラールとガエブルグがランデブーでもするらしいから、オレたちは覗きに行くぞ!』
「は?」
『今回ビビアンは裏方担当で、ナツメは衣装の買い出しに行ってる。だから、オレたち三人で先に稽古を始める』
「…………」
『場所はグラール第二演習場だ。今から六時間後に、そこの非常口で待ってるから遅れ――』
エイレンの言葉が終わるのを待たずにクロノは電話を切った。
そして、内容を知りたがっているだろう少女を見る。
「これから仕事だって」
面倒で仕方ないといった口調でクロノは告げる。
そして、困惑の表情を浮かべた彼女へと、クロノなりにかみ砕きまくった解釈で仕事内容を伝えようとしたと同時。
再びケータイが着信音を響かせた。
クロノは無遠慮に表情を歪ませると、静かに通話ボタンを押したと同時。
「わかったから何度もかけて来るなよ、まだ何か用か」
不機嫌を露わにした普段より低い声で冷たく言い捨てた。
そして、かしましい反撃を予知してケータイを耳元から少し話す。
だが、返ってきた反応は、クロノの予想と違うものだった。
『何度も掛けた覚えはないんだが』
聞こえたのは騒音上等なリーダーのかしましい声ではなく、低音で響く無愛想な声。
「あ、悪い。人違いしてた」
『番号確認してから出ろよ』
「それより、どうしたんだ? お前から連絡してくるなんて珍しい」
『実験関連の情報が入ったから知らせようと思ってな』
何でその情報を、と言いかけたクロノだったが、すんでのところで飲み込んだ。
あの時クロノはシグドに〝ミントのこと〟を聞いたのだ。
勘の良い彼ならクロノが求めている情報が何なのかすぐにわかるだろうし、もしかしたら、あの〝公園〟で再会した時に、ミントや人体実験の話を口にした時点でそんな予想をしていたのかもしれない。
「どこから仕入れたんだよ」
『通信担当からの連絡だ』
「そういやあの時、マイペース通信担当だけ見かけなかったけど、今どこにいるんだ?」
『さあな。俺は知らねえよ』
単に興味がないだけなのか、結社の仲間にも内密にしているのか。
どちらともとれる返事だったが、あの騒動でも帰ってこなかったことを考えると、恐らく後者だろう。あのマイペース通信担当ですら危険な仕事を任されるとは。
思っていたよりもリアフェールは人材不足を抱えているのだろうか。
「他は? 今、みんなはどうしてるんだ?」
『社長は関係者御用達の病院に入院中だ。……今は俺とミラノだけで何とかやってる』
後頭部を鈍器で殴られたような気分だった。
シグドは直接口にしなかったが、生き残ったのは四人だけだと言うことだ。結果として比較的軽傷だとは言っても、シグドたちだって満身創痍だったことに変わりはない。
聖剣の屋敷から帰る時の彼らの後姿を思い出したクロノは、咄嗟に返事が出て来なかった。
訪れた気まずい沈黙は、すぐにシグドの次の言葉で掻き消された。
『それよりも情報だ。それらしいのをまとめて送るから、アドレスを教えろ』
同時に、ケータイの向こうでガチャガチャと剣同士がぶつかる音と、何かが盛大に崩れる音が聞こえた。ややあって、一方的にシグドの声だけが聞こえる話し声も聞こえた。耳を傾けてみるも、何を話しているのかわからない。
「…………お前、今何してるんだ?」
『あ? 掃除だよ。片付けねえと何も出来ないんだよ』
恐らく、ミラノがほとんどの業務をこなしているのだろう。
シグドに任せるぐらいなら、と彼に復興作業を押し付けて黙々とデスクワークをしている金髪女性と、神妙な面持ちで壊れた本部を立て直している銀髪青年のいるリアフェールの情景がありありと想像出来た。
『お前は何してんだ?』
「今は、いつものカフェで少しな。で、これから仕事」
シグドの問い掛けに答えていたクロノは、そこでやっとミントの存在を思い出した。
ちらりと少女を見やれば、彼女は神妙な面持ちで電話が終わるのを待っていた。
「だから、しばらくは繋がらない」
『そうか。すぐにでも送るから、早めに確認しろよ』
「ああ、わかったよ」
クロノは素直に頷いて、自分のアドレスを口頭で伝える。
『じゃあ、気を付けろよ、クロノ』
言いたいことはそれだけだと言わんばかりに、シグドは返事を待たずに通話を切った。
電話が終わったのを確認してから、クロノはケータイを閉じた。
「今の電話は……?」
「シグドから。あいつからの電話で話が逸れたけど、これから行く仕事は、カリバーンとガエブルグが接触する現場に潜入。理由は知らないけど、リーダーには何か考えがあるらしい」
クロノは、シグドが人体実験の情報を教えてくれることは言わなかった。
わざわざ言う必要もないだろうと判断しての行動だったが、それもグラールで培われた警戒心であることをクロノ自身は気付いていない。
「とりあえず、さっさと合流場所に向かおう。場所は知ってる。……準備は良いか?」
「はい。頑張ります」
ややあってから、持ち主は通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『クロノ! 心配したんだぞ、今どこに――』
――ツーツー。
耳で響く喧しい声に、クロノは思わず電話を切った。
そして、投げ捨てるようにケータイを机に置いた直後。
再びケータイは着信を告げた。
クロノはため息と共に苛立たしげに再び電話に出た。
『冬の南極のように冷たく、おやつを盗み食いしたみたいに酷い態度だな、クロノ! オレはそんな冷たい子に育てた覚えはないぞ!』
「育てられた覚えもない」
電話越しに騒がしいエイレンの言い分を一掃する。
「用がないなら切る」
『まあ待て。まずは確認だが、そこにミントもいるか?』
クロノは、ちらりとミントを見てから二つ返事で頷く。
『なら話が早い。グラールとガエブルグがランデブーでもするらしいから、オレたちは覗きに行くぞ!』
「は?」
『今回ビビアンは裏方担当で、ナツメは衣装の買い出しに行ってる。だから、オレたち三人で先に稽古を始める』
「…………」
『場所はグラール第二演習場だ。今から六時間後に、そこの非常口で待ってるから遅れ――』
エイレンの言葉が終わるのを待たずにクロノは電話を切った。
そして、内容を知りたがっているだろう少女を見る。
「これから仕事だって」
面倒で仕方ないといった口調でクロノは告げる。
そして、困惑の表情を浮かべた彼女へと、クロノなりにかみ砕きまくった解釈で仕事内容を伝えようとしたと同時。
再びケータイが着信音を響かせた。
クロノは無遠慮に表情を歪ませると、静かに通話ボタンを押したと同時。
「わかったから何度もかけて来るなよ、まだ何か用か」
不機嫌を露わにした普段より低い声で冷たく言い捨てた。
そして、かしましい反撃を予知してケータイを耳元から少し話す。
だが、返ってきた反応は、クロノの予想と違うものだった。
『何度も掛けた覚えはないんだが』
聞こえたのは騒音上等なリーダーのかしましい声ではなく、低音で響く無愛想な声。
「あ、悪い。人違いしてた」
『番号確認してから出ろよ』
「それより、どうしたんだ? お前から連絡してくるなんて珍しい」
『実験関連の情報が入ったから知らせようと思ってな』
何でその情報を、と言いかけたクロノだったが、すんでのところで飲み込んだ。
あの時クロノはシグドに〝ミントのこと〟を聞いたのだ。
勘の良い彼ならクロノが求めている情報が何なのかすぐにわかるだろうし、もしかしたら、あの〝公園〟で再会した時に、ミントや人体実験の話を口にした時点でそんな予想をしていたのかもしれない。
「どこから仕入れたんだよ」
『通信担当からの連絡だ』
「そういやあの時、マイペース通信担当だけ見かけなかったけど、今どこにいるんだ?」
『さあな。俺は知らねえよ』
単に興味がないだけなのか、結社の仲間にも内密にしているのか。
どちらともとれる返事だったが、あの騒動でも帰ってこなかったことを考えると、恐らく後者だろう。あのマイペース通信担当ですら危険な仕事を任されるとは。
思っていたよりもリアフェールは人材不足を抱えているのだろうか。
「他は? 今、みんなはどうしてるんだ?」
『社長は関係者御用達の病院に入院中だ。……今は俺とミラノだけで何とかやってる』
後頭部を鈍器で殴られたような気分だった。
シグドは直接口にしなかったが、生き残ったのは四人だけだと言うことだ。結果として比較的軽傷だとは言っても、シグドたちだって満身創痍だったことに変わりはない。
聖剣の屋敷から帰る時の彼らの後姿を思い出したクロノは、咄嗟に返事が出て来なかった。
訪れた気まずい沈黙は、すぐにシグドの次の言葉で掻き消された。
『それよりも情報だ。それらしいのをまとめて送るから、アドレスを教えろ』
同時に、ケータイの向こうでガチャガチャと剣同士がぶつかる音と、何かが盛大に崩れる音が聞こえた。ややあって、一方的にシグドの声だけが聞こえる話し声も聞こえた。耳を傾けてみるも、何を話しているのかわからない。
「…………お前、今何してるんだ?」
『あ? 掃除だよ。片付けねえと何も出来ないんだよ』
恐らく、ミラノがほとんどの業務をこなしているのだろう。
シグドに任せるぐらいなら、と彼に復興作業を押し付けて黙々とデスクワークをしている金髪女性と、神妙な面持ちで壊れた本部を立て直している銀髪青年のいるリアフェールの情景がありありと想像出来た。
『お前は何してんだ?』
「今は、いつものカフェで少しな。で、これから仕事」
シグドの問い掛けに答えていたクロノは、そこでやっとミントの存在を思い出した。
ちらりと少女を見やれば、彼女は神妙な面持ちで電話が終わるのを待っていた。
「だから、しばらくは繋がらない」
『そうか。すぐにでも送るから、早めに確認しろよ』
「ああ、わかったよ」
クロノは素直に頷いて、自分のアドレスを口頭で伝える。
『じゃあ、気を付けろよ、クロノ』
言いたいことはそれだけだと言わんばかりに、シグドは返事を待たずに通話を切った。
電話が終わったのを確認してから、クロノはケータイを閉じた。
「今の電話は……?」
「シグドから。あいつからの電話で話が逸れたけど、これから行く仕事は、カリバーンとガエブルグが接触する現場に潜入。理由は知らないけど、リーダーには何か考えがあるらしい」
クロノは、シグドが人体実験の情報を教えてくれることは言わなかった。
わざわざ言う必要もないだろうと判断しての行動だったが、それもグラールで培われた警戒心であることをクロノ自身は気付いていない。
「とりあえず、さっさと合流場所に向かおう。場所は知ってる。……準備は良いか?」
「はい。頑張ります」
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。
彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。
王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは夫と婚姻してから三年という長い時間を振り返る。
その間、夫が帰宅したのは数えるほどだった。
※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる