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第2章
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遥か遠くに去って行ったカリバーンと、手ぶらのまま背を向けて帰って行くガエブルグ。
ここ第二演習場で、奇しくも顔を合わせることとなってしまった紋章術の三大結社の面々を思い出し、イルエは酷く楽しそうな笑みを浮かべた。
そして、特定の誰にか向けたわけでもなく、ただ言葉を口から滑らせる。
「これだから、紋章術師は楽しいんだよ」
イルエは、元仲間である使い手の金髪少年に投げつけた物を拾い始めた。
それは、強い衝撃に耐え切れず割れた試験管の破片。
中に並々と入っていたはずの液体は、その跡形すら見つからなかった。
「……イルエ。何であんな奴にそれを使ったの?」
ふて腐れたような声でカルナが問い掛ける。
そんな少女の言葉に、イルエは小さく笑った。
「彼、黒羽くんの通常時レベルは並の使い手程度だけど、逆境時レベルはとんでもないって話だからね。下手に刺激して火事場のバカ力を出されたら、面倒だったからね」
「意味わかんない」
「ピンチになると実力を発揮するタイプなんだよ。だから、先手を打たせてもらったわけ」
イルエは全ての破片を拾い終えたのか、立ち上がった。
そして、拾ったものを丁寧にアタッシュケースにしまう。
「尚更意味わかんない。あんなの、すぐに効果切れるじゃん」
「そうとも限らないよ」
にこりと微笑を浮かべたイルエは、それ以上何も言わなかった。
あの時のクロノが見せた反応を思えば、想像以上に効果があったことは予想出来る。
そして何より彼は通常の使い手と違い、積極的に紋章術を使いたがらないのだ。元々紋章術と相性が悪いのか、それとも何か別の理由でもあるのか。どちらにせよ、どのくらいの期間かはわからないが、紋章術が使えなくなったことは事実なので、クロノにとっては今以上に悪い状態になったことに変わりはない。
咄嗟の思い付きでおこした行動だったが、ナイスな判断だったと言える。
「はい、これ」
イルエは、取引が始まってから終始無言の人物へと、アタッシュケースを渡す。
目深く被られたフードがひとつ頷き、両手でそれを受け取った。
取引が終わったと言うのに一言も喋らないローブの人へ、カルナはジト目を向けるが、二人の会話の邪魔はしない。
「あと、ひとつ頼まれてほしいんだ。黒羽くんがあの時使った力の特定をよろしく」
ケータイの電波越しという不利過ぎる条件下でありながらもあれ程の絶大な破壊力が出せる紋章術など、イルエには心当たりがなかった。
強いて言うなら、ガエブルグが欲求する例の少女の力と酷似していると言ったところか。
黒羽――クロノに、そんな人脈はあっただろうかと、イルエは首をかしげる。
グラールで初めて顔合わせをした後、彼の周辺や人間関係は洗いざらい調べてある。彼が唯一今でも関係を続けているのは、現在進行形でリアフェールに所属している幼馴染みだけ。おそらく、あの時少年が電話したのはその幼馴染みで間違いないだろうが、記憶違いでなければ彼が扱う紋章術は雪だったはずだ。
――リアフェール、ねえ。
術師結社リアフェールと言えば、セラたちグラールの精鋭部隊を返り討ちにしたことはまだ記憶に新しい。実際にセラを殺したのはエイレンだとイルエは聞いていたが、それでも、カリバーンが到着するまで持ち堪えられるほどの戦力があるわけだ。イルエには知らされていないだけで、リアフェールに何か隠し玉があったとしてもおかしくない。
――まあ、調べてもらえばわかることか。
グラールの隠密部隊トップを連れて来て正解だった、と内心ほくそ笑む。
そうして、次の作戦を考えながら、イルエもまた演習場を立ち去る。
カルナとローブの人物も、彼の背中を追い掛けてこの場から離れた。
ここ第二演習場で、奇しくも顔を合わせることとなってしまった紋章術の三大結社の面々を思い出し、イルエは酷く楽しそうな笑みを浮かべた。
そして、特定の誰にか向けたわけでもなく、ただ言葉を口から滑らせる。
「これだから、紋章術師は楽しいんだよ」
イルエは、元仲間である使い手の金髪少年に投げつけた物を拾い始めた。
それは、強い衝撃に耐え切れず割れた試験管の破片。
中に並々と入っていたはずの液体は、その跡形すら見つからなかった。
「……イルエ。何であんな奴にそれを使ったの?」
ふて腐れたような声でカルナが問い掛ける。
そんな少女の言葉に、イルエは小さく笑った。
「彼、黒羽くんの通常時レベルは並の使い手程度だけど、逆境時レベルはとんでもないって話だからね。下手に刺激して火事場のバカ力を出されたら、面倒だったからね」
「意味わかんない」
「ピンチになると実力を発揮するタイプなんだよ。だから、先手を打たせてもらったわけ」
イルエは全ての破片を拾い終えたのか、立ち上がった。
そして、拾ったものを丁寧にアタッシュケースにしまう。
「尚更意味わかんない。あんなの、すぐに効果切れるじゃん」
「そうとも限らないよ」
にこりと微笑を浮かべたイルエは、それ以上何も言わなかった。
あの時のクロノが見せた反応を思えば、想像以上に効果があったことは予想出来る。
そして何より彼は通常の使い手と違い、積極的に紋章術を使いたがらないのだ。元々紋章術と相性が悪いのか、それとも何か別の理由でもあるのか。どちらにせよ、どのくらいの期間かはわからないが、紋章術が使えなくなったことは事実なので、クロノにとっては今以上に悪い状態になったことに変わりはない。
咄嗟の思い付きでおこした行動だったが、ナイスな判断だったと言える。
「はい、これ」
イルエは、取引が始まってから終始無言の人物へと、アタッシュケースを渡す。
目深く被られたフードがひとつ頷き、両手でそれを受け取った。
取引が終わったと言うのに一言も喋らないローブの人へ、カルナはジト目を向けるが、二人の会話の邪魔はしない。
「あと、ひとつ頼まれてほしいんだ。黒羽くんがあの時使った力の特定をよろしく」
ケータイの電波越しという不利過ぎる条件下でありながらもあれ程の絶大な破壊力が出せる紋章術など、イルエには心当たりがなかった。
強いて言うなら、ガエブルグが欲求する例の少女の力と酷似していると言ったところか。
黒羽――クロノに、そんな人脈はあっただろうかと、イルエは首をかしげる。
グラールで初めて顔合わせをした後、彼の周辺や人間関係は洗いざらい調べてある。彼が唯一今でも関係を続けているのは、現在進行形でリアフェールに所属している幼馴染みだけ。おそらく、あの時少年が電話したのはその幼馴染みで間違いないだろうが、記憶違いでなければ彼が扱う紋章術は雪だったはずだ。
――リアフェール、ねえ。
術師結社リアフェールと言えば、セラたちグラールの精鋭部隊を返り討ちにしたことはまだ記憶に新しい。実際にセラを殺したのはエイレンだとイルエは聞いていたが、それでも、カリバーンが到着するまで持ち堪えられるほどの戦力があるわけだ。イルエには知らされていないだけで、リアフェールに何か隠し玉があったとしてもおかしくない。
――まあ、調べてもらえばわかることか。
グラールの隠密部隊トップを連れて来て正解だった、と内心ほくそ笑む。
そうして、次の作戦を考えながら、イルエもまた演習場を立ち去る。
カルナとローブの人物も、彼の背中を追い掛けてこの場から離れた。
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