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第2章
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カリバーン本部である、洋風屋敷。
グラール第二演習場から逃げるように帰って来た彼らは、報告を待っているであろう別行動組へ一部始終を伝えるために、再び円卓の会議室に集まった。
「…………それで」
クロノやミントから一部始終を事細かに報告させたビビアンが、呆れ半分で口を開く。
「これ、持って帰って来てどうするつもりなのよ」
目の前のスーツケースを一瞥して、元聖杯通信部トップは冷血な一言を放った。
彼等は、ちょこちょこと動き回るナツメ以外、前回と同じ場所に座っており、本人たちの中ではどうやらそこが自身の席のようになっているらしい。
ビビアンとほぼ向かいあうような位置に座っている少年少女は何も言わない。
持ち帰った張本人の真意など知らないので、答えようがないのだ。
「墓荒らしをする不届きな背徳の化身から守ったんだぞ、何で責められなきゃいけないんだ!」
褒められたとしても、怒られる理由はない。
そう言いたげにエイレンは机を叩いた。
が、ビビアンが尋ねているのはそういう意味ではない。
――つくづく役に立たないリーダーだな。
口には出さずクロノは思う。そして、惜し気もなく盛大にため息をついた。
そのため息に何を勘違いしたのか、エイレンはクロノに向けて親指を立てた。
「安心しろ、クロノ。この死体が勝手に動き回る事なんて有り得ないからな!」
その一言に全員が呆れて何も発しなかったのは言うまでもない。いわゆるナイスガイポーズというものを向けられたクロノに至っては、その朱色を視界に映してすらいなかった。
微妙な空気に包まれた会議室で、ミントが控えめに手を挙げた。
「あの」
「何かしら?」
エイレンが口を開くよりも先にビビアンが促す。
ミントは前回よりも円卓がもたらす厳粛な空気に慣れたようで、会議独特の雰囲気の中全員の注意が彼女に向けられてもたじろぐ事はなかった。
「グラールの方たちは、何ですぐに埋葬してあげなかったんでしょう?」
「利用価値があったからじゃないかしら」
「そんな……」
彼女は自分のことのように悲しげな表情を浮かべた。
その身を狙われ、ただならぬ恐怖を覚えた相手だと言うのに。敵であったセラのことで心を痛めている少女へ向けて、ビビアンは慰めるような声音で言う。
「例えばの話よ。……実際、ガエブルグとの取引で使われたから言えたことだけど、それ以外にどうするのか想像つかないもの」
それが、ミントへ向けた気休めであることを、クロノは理解していた。
紋章術の研究には使い手の協力が必要不可欠である。このご時世、生きた使い手に協力要請するよりも、死んだ使い手を好き勝手する方が手軽だし効率が良い。ましてやセラは紋章術師だ、利用価値がないわけがない。
そこに空気を読まないナツメの声が割り込む。
「案外、生き返らせるつもりだったりしてねー」
「そんなフィクションみたいな話……」
ふるふるとミントは首を横に振った。
「紋章術なんて物が存在している時点で、フィクションもノンフィクションもないだろ」
「あら、クロノくんにしてはこんなオカルトちっくな物事に肯定的ね」
「肯定的なわけじゃないですよ。……どちらかと言えば、否定する理由がないだけです」
クロノだって死んだ人間が生き返ることなど信じていない。
鍵と呼ばれる人間の回復速度が早かったとしても、それは生きてること前提の話。白雪姫しかり、死んでしまったらそれまでだ。死者がそう簡単に生き返るなどたまったものではない。
それでもクロノが否定出来ない理由は、知っているからだ。
確かに死んだはずの人間が、今でも元気に生きていることを。
「否定出来ないってことは、実際に目撃したのか身近で起きたのか、それとも信用出来る人から聞いた話ってところかしら?」
探るようにクロノへと鋭い視線を向けながら、ビビアンが思案する。
「何々。クロノ君ってば、そんな面白い話のネタ持ってるの」
ビビアンの言葉に続くようにナツメから催促が飛んでくる。
不用意な発言をしたことを後悔しながらも、答える気がないクロノは沈黙を返した。
しびれを切らしたのか、ナツメは着物の裾をひらひらとさせながらクロノとミントの間に入ってきた。そして、改めて少年に答える気がないのを確認すると、つまらなさそうにビビアンの元へと去って行く。
「それがクロノくんの周辺かはともかく、少なくとも、過去に生き返るレベルの回復をした人がいるってことは確かみたいね」
「ここにいるぞ」
「エイレン以外にも」
だん、と大きい音を立てて自己主張するエイレンを、ビビアンは間髪容れずに切り捨てる。
「そう言えばそんな話もあったな」
今更思い出したと呟くクロノは、エイレンがすでに殉職扱いされている〝龍牙〟と呼ばれる紋章術師であることを、本当にすっかり忘れていたのだ。
「その話を教えてくれたら、俺も話さないこともないけど……」
「そう。じゃあ、近日中にでも糸を抜いてくれる医者に聞いてみなさい」
語尾を濁したクロノが余程のことがない限り話すつもりがないことを悟ったのだろう、ビビアンは若干突き放すかのように答えた。
再び静寂が訪れる。
「…………あの。この人はどうするんですか?」
ぽつりとミントが呟いた。
その疑問に、ナツメは待ってましたと言わんばかりに、にぱっと笑みを浮かべる。
「じゃあ、ゲッツ君と同じ場所に埋めてもらおうよ」
ナツメの素っ頓狂な返事に、驚きを露わにしたのはクロノだけではなかった。
眉間を抑えてため息をつくビビアンと、目を丸くするミント。
エイレンが机を叩いて立ち上がる。
「せっかく助けたのに、グラールに返すつもりなのか!?」
「違うよー。知り合いから聞いたんだけどね、どうやら、グラールがセラちゃんたち使い手の死体を回収した時に、ガッツ君だけは放置されてたんだって」
「え? グラールは死体を全て回収したんじゃなかったのか?」
抗戦の後、敵味方問わず殉職者はすべて回収されたはずだ。
メディアで取り上げられていた情報を思い出し、クロノは表情をしかめる。
「違う違う。グラールが回収したのは紋章術の使い手だけで、それ以外の残された死体は、リアフェール側が回収したんだって」
ナツメの言葉が事実ならグラールは、紋章術を無理矢理定着させたガンズを紋章術の使い手と認識していなかったことになる。
リアフェールが回収したなら、ガンズの死体は埋葬されたはずだ。
ナツメはセラの死体も同じようにリアフェールに押し付ける気なのだろうか。
「それなら丁度良い! 先にリアフェールに行くか!」
「何が丁度良いんだよ」
「埋めてもらえば、誰にも死んだセラを悪用されないからな! 丁度良いじゃないか」
「だから……!」
そう言うことじゃない、と言い掛けた文句をクロノは飲み込む。
ようやく、グラールの脅威が去ったばかりである。それでも、これ以上リアフェールに厄介事を持ち込まないでくれ、という主張はクロノの個人的なものだ。
リアフェールの社長は、温厚で穏やかな人柄の持ち主だ。
敵味方関係なく付近で発見された殉職者は弔い、目の前で倒れている人がいれば誰某構わず手を差し出し、挙句、本部の一部を図書館として一般開放している。宿敵だろうと、埋葬して欲しいと言われれば、きっと二つ返事で頷くだろう。
まだ社長は入院しているのだろうか。
リアフェールにいるのがシグドたちだけならば、問答無用で追い返されるだろうが、それはそれで彼らと遭遇すればまた別の問題が発生しそうだ。
「何か不満でもあるのか? クロノ」
不思議そうにクロノを見やるエイレン。
気付けば、リーダー以外からも意外そうな視線を向けられていた。
「いや、そう言うわけじゃないけど……」
「じゃあ決定だな!」
エイレンが、スーツケースを抱えながらそう告げた。
黙ったクロノ以外誰も否定する人はおらず、一行はまとめ上げられた。
グラール第二演習場から逃げるように帰って来た彼らは、報告を待っているであろう別行動組へ一部始終を伝えるために、再び円卓の会議室に集まった。
「…………それで」
クロノやミントから一部始終を事細かに報告させたビビアンが、呆れ半分で口を開く。
「これ、持って帰って来てどうするつもりなのよ」
目の前のスーツケースを一瞥して、元聖杯通信部トップは冷血な一言を放った。
彼等は、ちょこちょこと動き回るナツメ以外、前回と同じ場所に座っており、本人たちの中ではどうやらそこが自身の席のようになっているらしい。
ビビアンとほぼ向かいあうような位置に座っている少年少女は何も言わない。
持ち帰った張本人の真意など知らないので、答えようがないのだ。
「墓荒らしをする不届きな背徳の化身から守ったんだぞ、何で責められなきゃいけないんだ!」
褒められたとしても、怒られる理由はない。
そう言いたげにエイレンは机を叩いた。
が、ビビアンが尋ねているのはそういう意味ではない。
――つくづく役に立たないリーダーだな。
口には出さずクロノは思う。そして、惜し気もなく盛大にため息をついた。
そのため息に何を勘違いしたのか、エイレンはクロノに向けて親指を立てた。
「安心しろ、クロノ。この死体が勝手に動き回る事なんて有り得ないからな!」
その一言に全員が呆れて何も発しなかったのは言うまでもない。いわゆるナイスガイポーズというものを向けられたクロノに至っては、その朱色を視界に映してすらいなかった。
微妙な空気に包まれた会議室で、ミントが控えめに手を挙げた。
「あの」
「何かしら?」
エイレンが口を開くよりも先にビビアンが促す。
ミントは前回よりも円卓がもたらす厳粛な空気に慣れたようで、会議独特の雰囲気の中全員の注意が彼女に向けられてもたじろぐ事はなかった。
「グラールの方たちは、何ですぐに埋葬してあげなかったんでしょう?」
「利用価値があったからじゃないかしら」
「そんな……」
彼女は自分のことのように悲しげな表情を浮かべた。
その身を狙われ、ただならぬ恐怖を覚えた相手だと言うのに。敵であったセラのことで心を痛めている少女へ向けて、ビビアンは慰めるような声音で言う。
「例えばの話よ。……実際、ガエブルグとの取引で使われたから言えたことだけど、それ以外にどうするのか想像つかないもの」
それが、ミントへ向けた気休めであることを、クロノは理解していた。
紋章術の研究には使い手の協力が必要不可欠である。このご時世、生きた使い手に協力要請するよりも、死んだ使い手を好き勝手する方が手軽だし効率が良い。ましてやセラは紋章術師だ、利用価値がないわけがない。
そこに空気を読まないナツメの声が割り込む。
「案外、生き返らせるつもりだったりしてねー」
「そんなフィクションみたいな話……」
ふるふるとミントは首を横に振った。
「紋章術なんて物が存在している時点で、フィクションもノンフィクションもないだろ」
「あら、クロノくんにしてはこんなオカルトちっくな物事に肯定的ね」
「肯定的なわけじゃないですよ。……どちらかと言えば、否定する理由がないだけです」
クロノだって死んだ人間が生き返ることなど信じていない。
鍵と呼ばれる人間の回復速度が早かったとしても、それは生きてること前提の話。白雪姫しかり、死んでしまったらそれまでだ。死者がそう簡単に生き返るなどたまったものではない。
それでもクロノが否定出来ない理由は、知っているからだ。
確かに死んだはずの人間が、今でも元気に生きていることを。
「否定出来ないってことは、実際に目撃したのか身近で起きたのか、それとも信用出来る人から聞いた話ってところかしら?」
探るようにクロノへと鋭い視線を向けながら、ビビアンが思案する。
「何々。クロノ君ってば、そんな面白い話のネタ持ってるの」
ビビアンの言葉に続くようにナツメから催促が飛んでくる。
不用意な発言をしたことを後悔しながらも、答える気がないクロノは沈黙を返した。
しびれを切らしたのか、ナツメは着物の裾をひらひらとさせながらクロノとミントの間に入ってきた。そして、改めて少年に答える気がないのを確認すると、つまらなさそうにビビアンの元へと去って行く。
「それがクロノくんの周辺かはともかく、少なくとも、過去に生き返るレベルの回復をした人がいるってことは確かみたいね」
「ここにいるぞ」
「エイレン以外にも」
だん、と大きい音を立てて自己主張するエイレンを、ビビアンは間髪容れずに切り捨てる。
「そう言えばそんな話もあったな」
今更思い出したと呟くクロノは、エイレンがすでに殉職扱いされている〝龍牙〟と呼ばれる紋章術師であることを、本当にすっかり忘れていたのだ。
「その話を教えてくれたら、俺も話さないこともないけど……」
「そう。じゃあ、近日中にでも糸を抜いてくれる医者に聞いてみなさい」
語尾を濁したクロノが余程のことがない限り話すつもりがないことを悟ったのだろう、ビビアンは若干突き放すかのように答えた。
再び静寂が訪れる。
「…………あの。この人はどうするんですか?」
ぽつりとミントが呟いた。
その疑問に、ナツメは待ってましたと言わんばかりに、にぱっと笑みを浮かべる。
「じゃあ、ゲッツ君と同じ場所に埋めてもらおうよ」
ナツメの素っ頓狂な返事に、驚きを露わにしたのはクロノだけではなかった。
眉間を抑えてため息をつくビビアンと、目を丸くするミント。
エイレンが机を叩いて立ち上がる。
「せっかく助けたのに、グラールに返すつもりなのか!?」
「違うよー。知り合いから聞いたんだけどね、どうやら、グラールがセラちゃんたち使い手の死体を回収した時に、ガッツ君だけは放置されてたんだって」
「え? グラールは死体を全て回収したんじゃなかったのか?」
抗戦の後、敵味方問わず殉職者はすべて回収されたはずだ。
メディアで取り上げられていた情報を思い出し、クロノは表情をしかめる。
「違う違う。グラールが回収したのは紋章術の使い手だけで、それ以外の残された死体は、リアフェール側が回収したんだって」
ナツメの言葉が事実ならグラールは、紋章術を無理矢理定着させたガンズを紋章術の使い手と認識していなかったことになる。
リアフェールが回収したなら、ガンズの死体は埋葬されたはずだ。
ナツメはセラの死体も同じようにリアフェールに押し付ける気なのだろうか。
「それなら丁度良い! 先にリアフェールに行くか!」
「何が丁度良いんだよ」
「埋めてもらえば、誰にも死んだセラを悪用されないからな! 丁度良いじゃないか」
「だから……!」
そう言うことじゃない、と言い掛けた文句をクロノは飲み込む。
ようやく、グラールの脅威が去ったばかりである。それでも、これ以上リアフェールに厄介事を持ち込まないでくれ、という主張はクロノの個人的なものだ。
リアフェールの社長は、温厚で穏やかな人柄の持ち主だ。
敵味方関係なく付近で発見された殉職者は弔い、目の前で倒れている人がいれば誰某構わず手を差し出し、挙句、本部の一部を図書館として一般開放している。宿敵だろうと、埋葬して欲しいと言われれば、きっと二つ返事で頷くだろう。
まだ社長は入院しているのだろうか。
リアフェールにいるのがシグドたちだけならば、問答無用で追い返されるだろうが、それはそれで彼らと遭遇すればまた別の問題が発生しそうだ。
「何か不満でもあるのか? クロノ」
不思議そうにクロノを見やるエイレン。
気付けば、リーダー以外からも意外そうな視線を向けられていた。
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