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第2章
072、術師結社リアフェール
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冷たい風が吹いている。
街外れに構えるそれは、クラシカルホテルを思わせる社寺造りの外観をした二階建て。
先日の襲撃が嘘のように立て直されているが、対紋章術用の設備が整っていないのも見て取れる。建物だけは急いで普及させたのだろう。まだ完全復帰には時間が掛かりそうだ。
本部の裏手には小さな広場があり、その奥には、都会ではもちろん、街中でも滅多にお目に掛かれない景色が広がっている。
色とりどりの花や深い青空に包まれて静寂の中に佇む、整列した〝石碑〟たち。
おおよそ術師結社に似つかわしくない情景が、ここにはある。
カリバーン総出で訪れた術師結社リアフェール。
クロノがカリバーン所属の使い手としてここに来るのは、二度目だった。
本部の正面玄関を前にしたクロノたちは、桜色の髪をひとつに結わえた女性に迎えられた。
「いらっしゃい、カリバーンのみなさん」
彼女は穏やかな微笑みを携えている。
出鼻を挫かれたエイレンたちが、それぞれ軽い会釈を返す中。
クロノだけが、会釈にしては深く頭を下げる。
「お久しぶりです、社長」
とんでもなく誠意の込められた口調に、エイレンとビビアンとナツメが、さも珍しいものを見るような眼差しをクロノに向けてきたが、少年は当然のように無視をする。
「入院してたって聞きましたけど、お身体はもう大丈夫なんですか」
「ええ、主婦はタフなのよ」
頷いた彼女は、半身下がって建物の入り口を示す。
「立ち話もなんですから、どうぞ入ってくださいな」
「お言葉に甘えて、お邪魔させてもらうぞ」
カリバーンを代表してリーダーであるエイレンが頷いたのを見て、リアフェール社長は本部の入口扉を開ける。
エイレンを先頭にぞろぞろと建物内へ入って行く中、彼らの後ろに続いていたクロノは、玄関をくぐろうとして、ふと目があった社長の眼差しに足を止めた。
「シグドくんならお墓の方よ」
「ああ、サリアの。……俺も後で挨拶しに行くよ」
それよりも今のクロノにとっては、エイレンが余計なことをしないかの方が心配だった。
その点で考えれば、逆にシグドが席を外しているのは好都合だろう。
この場所に足を踏み入れるのは、久しぶりだった。
ついに戻って来た、リアフェール本部。
内部もまた、綺麗に片付けられ、この間の抗戦が嘘のように立て直されている。
桜色に先導されて、一行はエントランス兼応接間のスペースへと案内された。
促されるまま足の低い机を囲むソファにそれぞれ腰を掛ける。エイレンが当たり前のように一番下座の席に腰を下ろしたことに内心驚きながらもクロノは、カリバーンの面々とリアフェール社長の丁度中間の位置に座った。
「あの、クロノさん」
クロノの隣に座ったミントが、小さな声で話しかけてきた。
「ん、どうした?」
「さっき話してた、サリアさんって……?」
「シグドのたった一人の家族で、姉だよ」
目を閉じれば、今でも彼女の柔らかい微笑みが鮮明に蘇る。
彼女はクロノが出会った最初の紋章術師で、誰よりも優しくて、誰よりも強い人だった。
ふと蘇った懐かしい思い出を遮ったのは、エイレンの向かい側に座る社長の言葉。
「ごめんなさいね、こちらで。奥にもう一人お客様がいて」
「別に構わないぞ。オレたちも突然押し掛けたわけだしな」
「それで、カリバーンの方々がわざわざこちらへ何の用ですか?」
リアフェール社長の要件の催促に、待ってましたと言わんばかりに、エイレンは自身が座るソファの後ろに置いていたスーツケースを机の上に置いた。
「リアフェールの社長に、大切な頼みがあるんだ」
街外れに構えるそれは、クラシカルホテルを思わせる社寺造りの外観をした二階建て。
先日の襲撃が嘘のように立て直されているが、対紋章術用の設備が整っていないのも見て取れる。建物だけは急いで普及させたのだろう。まだ完全復帰には時間が掛かりそうだ。
本部の裏手には小さな広場があり、その奥には、都会ではもちろん、街中でも滅多にお目に掛かれない景色が広がっている。
色とりどりの花や深い青空に包まれて静寂の中に佇む、整列した〝石碑〟たち。
おおよそ術師結社に似つかわしくない情景が、ここにはある。
カリバーン総出で訪れた術師結社リアフェール。
クロノがカリバーン所属の使い手としてここに来るのは、二度目だった。
本部の正面玄関を前にしたクロノたちは、桜色の髪をひとつに結わえた女性に迎えられた。
「いらっしゃい、カリバーンのみなさん」
彼女は穏やかな微笑みを携えている。
出鼻を挫かれたエイレンたちが、それぞれ軽い会釈を返す中。
クロノだけが、会釈にしては深く頭を下げる。
「お久しぶりです、社長」
とんでもなく誠意の込められた口調に、エイレンとビビアンとナツメが、さも珍しいものを見るような眼差しをクロノに向けてきたが、少年は当然のように無視をする。
「入院してたって聞きましたけど、お身体はもう大丈夫なんですか」
「ええ、主婦はタフなのよ」
頷いた彼女は、半身下がって建物の入り口を示す。
「立ち話もなんですから、どうぞ入ってくださいな」
「お言葉に甘えて、お邪魔させてもらうぞ」
カリバーンを代表してリーダーであるエイレンが頷いたのを見て、リアフェール社長は本部の入口扉を開ける。
エイレンを先頭にぞろぞろと建物内へ入って行く中、彼らの後ろに続いていたクロノは、玄関をくぐろうとして、ふと目があった社長の眼差しに足を止めた。
「シグドくんならお墓の方よ」
「ああ、サリアの。……俺も後で挨拶しに行くよ」
それよりも今のクロノにとっては、エイレンが余計なことをしないかの方が心配だった。
その点で考えれば、逆にシグドが席を外しているのは好都合だろう。
この場所に足を踏み入れるのは、久しぶりだった。
ついに戻って来た、リアフェール本部。
内部もまた、綺麗に片付けられ、この間の抗戦が嘘のように立て直されている。
桜色に先導されて、一行はエントランス兼応接間のスペースへと案内された。
促されるまま足の低い机を囲むソファにそれぞれ腰を掛ける。エイレンが当たり前のように一番下座の席に腰を下ろしたことに内心驚きながらもクロノは、カリバーンの面々とリアフェール社長の丁度中間の位置に座った。
「あの、クロノさん」
クロノの隣に座ったミントが、小さな声で話しかけてきた。
「ん、どうした?」
「さっき話してた、サリアさんって……?」
「シグドのたった一人の家族で、姉だよ」
目を閉じれば、今でも彼女の柔らかい微笑みが鮮明に蘇る。
彼女はクロノが出会った最初の紋章術師で、誰よりも優しくて、誰よりも強い人だった。
ふと蘇った懐かしい思い出を遮ったのは、エイレンの向かい側に座る社長の言葉。
「ごめんなさいね、こちらで。奥にもう一人お客様がいて」
「別に構わないぞ。オレたちも突然押し掛けたわけだしな」
「それで、カリバーンの方々がわざわざこちらへ何の用ですか?」
リアフェール社長の要件の催促に、待ってましたと言わんばかりに、エイレンは自身が座るソファの後ろに置いていたスーツケースを机の上に置いた。
「リアフェールの社長に、大切な頼みがあるんだ」
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