Geometrially_spell_aria

吹雪舞桜

文字の大きさ
87 / 97
第2章

086、交錯する想い

しおりを挟む
「さぁ、観念しな」


カラスマスクで微かにくぐもった声を響かせ、少女は瞳をぎらつかせる。
剣を支えに膝をついた格好で、少年は目の前に立つ人物を睨んだ。


「くっそ……」


半分崩れた建物を背に、オフホワイトのローブとビビッドレッドのミニスカートという対照的な鮮やかさが寂れた空間を色づける。


「誰だかしんねーけど、この屋敷にいたのが運の尽きだったな」


ニヤリと笑った目の前の少女が足を上げた瞬間、それを待っていたかのように少年は剣を持つ手を振り上げた。


「うわあぁぁっ!」


叫び声と共に、少年が愛剣の切っ先を床に叩き付ける。
それと同時に、何の変哲もない普通の剣から魔力が溢れた。


「な、ん……っ!」


その声を最後に、少年少女の姿は突然の砂嵐に掻き消えた。







それからだいぶ経ち。
金髪の少年が出口であるはずのドアを乱暴に開けた。


「う、わ……っ」


本来の機能が失われてしまったのではないかと思うぐらい崩壊した屋敷。
まだ僅かに感じる魔力が、ここで戦闘があったことを物語っている。

そう言えばと、何かある度遺言用にと再三薦められていた通信機の存在を今更ながらに思い出し、クロノはずっとポケットに入れたまま放置していたそれのスイッチを入れる。


「もしもし?」
『……やぁ。何の反応もなかったから捨てられたかと思ったよ』


聞こえてきた声は、思っていたよりも元気そうだった。
崩れた瓦礫の下敷きにはなっていないらしい。


『敵の襲撃に遭ったのと、彼の拘束が解けたのはこっちのミスだ、申し訳ない。……ビビアンから、後は君たちに任せて離脱しろ、って命令が来たから僕は退散させてもらう』


ナビィの方も相当切羽詰まっているらしい。

お得意の嫌味は最初だけで、すっかり真面目な通信担当の対応だ。
まあ、全員出払っている間に屋敷が崩れるほどの襲撃に遭ったのだから、そんな余裕はないのだろう。逆にあっても困るのだけれど。


「『赤頭巾』は無事なのか?」
『無事だよ。襲撃者と交戦中みたいで、辺りに彼の魔力を感じるよ』
「『茨姫』は? こっちも反応があったって話だけど」
『……さあ。もう反応がないから、離脱した可能性が高いね』


一体『茨姫』は何のためにここにいたのだろうか。
カリバーン襲撃を目の当たりにして、どさくさに紛れて逃げ出したのが妥当なところか。


『じゃあ、死なないように頑張ってね』


話は終わった、と言わんばかりに通信が切れた。
おそらく本体の電源を落とされたらしく、遺言用通信機はガラクタと化した。
戦闘になれば使うこともないので、クロノは再びポケットに戻す。

とりあえず今は『赤頭巾』だ。

襲撃者と交戦中、と言うことは、一人で戦っているのだろうか。目が覚めたら突然敵の使い手がいて訳もわからないまま応戦した、と言ったところか。
折角捕まえた『赤頭巾』を、懐柔されるならまだしも、横取りされたり殺されたりしてはたまったものではない。


「ミラノ、どっちだ?」


シグドが問いかけたのは、クロノの通信が終わったのを確認してからだった。
どうやら、ミラノはその問いを待っていたらしく、聞かれたと同時に瓦礫の向こうを指さしては足取り軽く駆け出した。

それを見て、どちらともなく彼女の背中を追うクロノとシグド。
走り出した三人を見て、てミントも慌てて後に続いた。


「あの、クロノさん」
「どうした?」


掛けられた声に、クロノは走るペースを少女に合わせながら答える。
彼女はどこか不安げな表情をしていた。


「何か、聞こえませんか? 金属が擦れるような耳障りな音が……」


少女の言う音はクロノには聞こえない。
しかし。『赤頭巾』と耳障りな音。どうも嫌な組み合わせだ。
一刻も早く忘れようとしている、二度目の肋骨骨折という不名誉かつ腹立たしい業績を残すことになった仕事を、嫌でも思い出してしまう。

もし、この瓦礫を抜けた先に砂漠でもあったら、なんて最悪な想定をしたクロノの頬を、やけに乾いた風が触れる。


「げ」


屋敷の中心部。
文字通り開け放たれた空間一面に広がる、砂、砂、砂。

予想通りの砂漠が広がっている場所の真ん中に、戦う二つの人影を見つけた。

片方は少年で、岩を盾のようにして身を守っており、その対面では岩盾を壊そうと何度も殴り蹴りの攻撃を繰り返す少女。
どちらも見たことのある人物だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

処理中です...