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第2章
086、交錯する想い
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「さぁ、観念しな」
カラスマスクで微かにくぐもった声を響かせ、少女は瞳をぎらつかせる。
剣を支えに膝をついた格好で、少年は目の前に立つ人物を睨んだ。
「くっそ……」
半分崩れた建物を背に、オフホワイトのローブとビビッドレッドのミニスカートという対照的な鮮やかさが寂れた空間を色づける。
「誰だかしんねーけど、この屋敷にいたのが運の尽きだったな」
ニヤリと笑った目の前の少女が足を上げた瞬間、それを待っていたかのように少年は剣を持つ手を振り上げた。
「うわあぁぁっ!」
叫び声と共に、少年が愛剣の切っ先を床に叩き付ける。
それと同時に、何の変哲もない普通の剣から魔力が溢れた。
「な、ん……っ!」
その声を最後に、少年少女の姿は突然の砂嵐に掻き消えた。
それからだいぶ経ち。
金髪の少年が出口であるはずのドアを乱暴に開けた。
「う、わ……っ」
本来の機能が失われてしまったのではないかと思うぐらい崩壊した屋敷。
まだ僅かに感じる魔力が、ここで戦闘があったことを物語っている。
そう言えばと、何かある度遺言用にと再三薦められていた通信機の存在を今更ながらに思い出し、クロノはずっとポケットに入れたまま放置していたそれのスイッチを入れる。
「もしもし?」
『……やぁ。何の反応もなかったから捨てられたかと思ったよ』
聞こえてきた声は、思っていたよりも元気そうだった。
崩れた瓦礫の下敷きにはなっていないらしい。
『敵の襲撃に遭ったのと、彼の拘束が解けたのはこっちのミスだ、申し訳ない。……ビビアンから、後は君たちに任せて離脱しろ、って命令が来たから僕は退散させてもらう』
ナビィの方も相当切羽詰まっているらしい。
お得意の嫌味は最初だけで、すっかり真面目な通信担当の対応だ。
まあ、全員出払っている間に屋敷が崩れるほどの襲撃に遭ったのだから、そんな余裕はないのだろう。逆にあっても困るのだけれど。
「『赤頭巾』は無事なのか?」
『無事だよ。襲撃者と交戦中みたいで、辺りに彼の魔力を感じるよ』
「『茨姫』は? こっちも反応があったって話だけど」
『……さあ。もう反応がないから、離脱した可能性が高いね』
一体『茨姫』は何のためにここにいたのだろうか。
カリバーン襲撃を目の当たりにして、どさくさに紛れて逃げ出したのが妥当なところか。
『じゃあ、死なないように頑張ってね』
話は終わった、と言わんばかりに通信が切れた。
おそらく本体の電源を落とされたらしく、遺言用通信機はガラクタと化した。
戦闘になれば使うこともないので、クロノは再びポケットに戻す。
とりあえず今は『赤頭巾』だ。
襲撃者と交戦中、と言うことは、一人で戦っているのだろうか。目が覚めたら突然敵の使い手がいて訳もわからないまま応戦した、と言ったところか。
折角捕まえた『赤頭巾』を、懐柔されるならまだしも、横取りされたり殺されたりしてはたまったものではない。
「ミラノ、どっちだ?」
シグドが問いかけたのは、クロノの通信が終わったのを確認してからだった。
どうやら、ミラノはその問いを待っていたらしく、聞かれたと同時に瓦礫の向こうを指さしては足取り軽く駆け出した。
それを見て、どちらともなく彼女の背中を追うクロノとシグド。
走り出した三人を見て、てミントも慌てて後に続いた。
「あの、クロノさん」
「どうした?」
掛けられた声に、クロノは走るペースを少女に合わせながら答える。
彼女はどこか不安げな表情をしていた。
「何か、聞こえませんか? 金属が擦れるような耳障りな音が……」
少女の言う音はクロノには聞こえない。
しかし。『赤頭巾』と耳障りな音。どうも嫌な組み合わせだ。
一刻も早く忘れようとしている、二度目の肋骨骨折という不名誉かつ腹立たしい業績を残すことになった仕事を、嫌でも思い出してしまう。
もし、この瓦礫を抜けた先に砂漠でもあったら、なんて最悪な想定をしたクロノの頬を、やけに乾いた風が触れる。
「げ」
屋敷の中心部。
文字通り開け放たれた空間一面に広がる、砂、砂、砂。
予想通りの砂漠が広がっている場所の真ん中に、戦う二つの人影を見つけた。
片方は少年で、岩を盾のようにして身を守っており、その対面では岩盾を壊そうと何度も殴り蹴りの攻撃を繰り返す少女。
どちらも見たことのある人物だ。
カラスマスクで微かにくぐもった声を響かせ、少女は瞳をぎらつかせる。
剣を支えに膝をついた格好で、少年は目の前に立つ人物を睨んだ。
「くっそ……」
半分崩れた建物を背に、オフホワイトのローブとビビッドレッドのミニスカートという対照的な鮮やかさが寂れた空間を色づける。
「誰だかしんねーけど、この屋敷にいたのが運の尽きだったな」
ニヤリと笑った目の前の少女が足を上げた瞬間、それを待っていたかのように少年は剣を持つ手を振り上げた。
「うわあぁぁっ!」
叫び声と共に、少年が愛剣の切っ先を床に叩き付ける。
それと同時に、何の変哲もない普通の剣から魔力が溢れた。
「な、ん……っ!」
その声を最後に、少年少女の姿は突然の砂嵐に掻き消えた。
それからだいぶ経ち。
金髪の少年が出口であるはずのドアを乱暴に開けた。
「う、わ……っ」
本来の機能が失われてしまったのではないかと思うぐらい崩壊した屋敷。
まだ僅かに感じる魔力が、ここで戦闘があったことを物語っている。
そう言えばと、何かある度遺言用にと再三薦められていた通信機の存在を今更ながらに思い出し、クロノはずっとポケットに入れたまま放置していたそれのスイッチを入れる。
「もしもし?」
『……やぁ。何の反応もなかったから捨てられたかと思ったよ』
聞こえてきた声は、思っていたよりも元気そうだった。
崩れた瓦礫の下敷きにはなっていないらしい。
『敵の襲撃に遭ったのと、彼の拘束が解けたのはこっちのミスだ、申し訳ない。……ビビアンから、後は君たちに任せて離脱しろ、って命令が来たから僕は退散させてもらう』
ナビィの方も相当切羽詰まっているらしい。
お得意の嫌味は最初だけで、すっかり真面目な通信担当の対応だ。
まあ、全員出払っている間に屋敷が崩れるほどの襲撃に遭ったのだから、そんな余裕はないのだろう。逆にあっても困るのだけれど。
「『赤頭巾』は無事なのか?」
『無事だよ。襲撃者と交戦中みたいで、辺りに彼の魔力を感じるよ』
「『茨姫』は? こっちも反応があったって話だけど」
『……さあ。もう反応がないから、離脱した可能性が高いね』
一体『茨姫』は何のためにここにいたのだろうか。
カリバーン襲撃を目の当たりにして、どさくさに紛れて逃げ出したのが妥当なところか。
『じゃあ、死なないように頑張ってね』
話は終わった、と言わんばかりに通信が切れた。
おそらく本体の電源を落とされたらしく、遺言用通信機はガラクタと化した。
戦闘になれば使うこともないので、クロノは再びポケットに戻す。
とりあえず今は『赤頭巾』だ。
襲撃者と交戦中、と言うことは、一人で戦っているのだろうか。目が覚めたら突然敵の使い手がいて訳もわからないまま応戦した、と言ったところか。
折角捕まえた『赤頭巾』を、懐柔されるならまだしも、横取りされたり殺されたりしてはたまったものではない。
「ミラノ、どっちだ?」
シグドが問いかけたのは、クロノの通信が終わったのを確認してからだった。
どうやら、ミラノはその問いを待っていたらしく、聞かれたと同時に瓦礫の向こうを指さしては足取り軽く駆け出した。
それを見て、どちらともなく彼女の背中を追うクロノとシグド。
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「あの、クロノさん」
「どうした?」
掛けられた声に、クロノは走るペースを少女に合わせながら答える。
彼女はどこか不安げな表情をしていた。
「何か、聞こえませんか? 金属が擦れるような耳障りな音が……」
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しかし。『赤頭巾』と耳障りな音。どうも嫌な組み合わせだ。
一刻も早く忘れようとしている、二度目の肋骨骨折という不名誉かつ腹立たしい業績を残すことになった仕事を、嫌でも思い出してしまう。
もし、この瓦礫を抜けた先に砂漠でもあったら、なんて最悪な想定をしたクロノの頬を、やけに乾いた風が触れる。
「げ」
屋敷の中心部。
文字通り開け放たれた空間一面に広がる、砂、砂、砂。
予想通りの砂漠が広がっている場所の真ん中に、戦う二つの人影を見つけた。
片方は少年で、岩を盾のようにして身を守っており、その対面では岩盾を壊そうと何度も殴り蹴りの攻撃を繰り返す少女。
どちらも見たことのある人物だ。
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