今更ながらダンジョンに潜る事になりまして

名嵐

文字の大きさ
8 / 42

8話

しおりを挟む
 思い出すのは高校時代の事だった。
 一番機の知れた中の知り合いとダンジョンに行っていて充実していた頃の事だ。

『いつか一緒に最深層に行こう』

 それが俺を含めた全員の気持ちだった。
 だから俺は皆と一緒に過ごせないと分かった時は悔しかった。
 自分でも分かっていたのだ。皆といればいずれ最深層とはいかないまでももっといい所まで行けるというのは。

「ははは、そう思って貰えるなんて嬉しいです。でも、それは諦めたんです……」

「そう? 見た限りでは諦めたようには見えなかったわよ」

「諦めたんですよ……、本当に。それより西郷さんは良かったんですか、俺みたいな奴とダンジョンに潜る様になって」

 誤魔化すように気になっていた事を聞いてみる。
 不思議だったんだ。西郷さんの実力を考えれば態々会社に勤めなくても契約探索者のままでやっていける実力があるから。
 そんな俺の言葉にじっとこっちを見てから西郷さんは口を開いた。

「そうね。普通に考えれば可笑しいと思うわよね」

 どこか遠くを見ているような表情を見せる西郷さんに俺は何も言えなかった。
 そして、暫くお互いに言葉を口にする事なく時間が過ぎる。

「話してなかったけど、私のいたパーティーが解散した理由は特異進化種イリーガルに負けて他のパーティーに見捨てられたからなの」

 特異進化種イリーガルに見捨てられた……。西郷さんの言葉に俺は驚く。
 ダンジョンで出るモンスターの種族は生まれ落ちた時に決まり、それは変わる事が無い。ただし、唯一つの例外を除いて。
 そう、自分より強い者を倒し、その力を吸収するという唯一つの例外さえクリア出来ればどんなモンスターも進化する。そして、その進化したモンスターこそ特異進化種イリーガルで有り、通常よりも格段に強い力と知能を得ると言われている。
 しかし、西郷さんの言った他のパーティーに見捨てられたというのがよく分からなかった。
 そんな俺の表情を読み取った西郷さんは言う。

特異進化種イリーガルに襲われた後、私たちは必死にセーフティーエリアを目指したわ。
そして、たどり着いた……」

 その時の事を思い出しているようで西郷さんの表情は険しかった。

「でも、傷を癒す道具は尽きてて譲ってもらおうと声を掛けたんだけど、全員に断られたわ。階層的にも無理が有ったんでしょうね。大半がまだまだこれから探索するようなパーティーばかりだったわ」

 確かに西郷さんたちが探索していた深さから考えると余分なポーションとかが有っても不慮の事態を警戒して他のパーティーに譲るかと言われると微妙だろうな。それも自分たちが探索前としたら特に。

「その反応に私たちは無理をしない程度に早くダンジョンから出るのを決めたの。それでその後は何とか地上に戻ってきたけど、怪我が悪化していたりしてご存知の通りにパーティーの解散が決まったの」

「そう、だったん、ですか……」

「別に恨んでいる訳じゃないのよ。でもね、あの状況であんな事になったら同じ力量を持っていようとその人たちと一緒に行動したいと思えない」

 確かに最深層を目指すならその人たちと組む方が良いんだろう。でも、西郷さんにとってはその事が引っかかって無理だった訳だ。……、その気持ちはなんとなく分かる。
 ちらつく自分の嫌な記憶と西郷さんの顔を見れば俺だってそんな人たちと組むのは嫌になっていただろうな。

「だから、俺と組むことにしたんですね」

「そうね。正直、最初に話を聞いた時は断ろうと思ったんだけど、貴方の事を聞いた時に霧江が会ってみたいって言うし、一回だけならって話で貴方と会ったの」

「俺はお目に適いましたか?」

「えぇ……。だからこそ貴方には一つだけお願いが有るの」

 こっちを見ながらニッコリと笑う西郷さん。
 正直、無理難題じゃない限りはそのお願いとやらを聞くつもりだけど、何を言われる事やら。

「お願いですか?」

「そう、仕事とか関係なく最深層を目指すって事を」

「最、深層を……」

「さっき貴方は諦めたって言ったけどどう見ても私にはそう見えない。何より私はパーティーが解散したとはいえ、今もまだ最深層を目指しているわ。だからこそ、一緒に組む事になる貴方にも最深層を目指してほしいのよ」

 その顔は真剣で本当に目指している事が分かる。
 だから、俺は悩んでしまう。
 確かに昔は勿論の事、今も機会が有ればと思って過ごしていたのは事実だった。
 でも、それはifもしもの話でこうやって目の前にそのチャンスが巡ってきてしまうとどうしても二の足を踏んでしまう。

「別に今すぐ決めろって言わないわ。でも、私は目指しているという事を頭の片隅に覚えていて欲しいの」

「わか、りまし、た」

 その眼差しに俺はそう言う事しかできなかった。でも、西郷さんはそれで納得してくれたようだった。



「最深層か……」

 前を歩く西郷さんの姿を見ながら俺はさっき言われた事を思い出していた。
 探索者になって最深層を目指すというのは今までも確かに考えた事の有る選択肢の一つで何らかの事が有る度に真剣に悩んだ事が有る。
 それでも人からそういった事を言われた事が無かっただけに今回の西郷さんの言葉には動揺を覚えた。
 襲い掛かってくる敵を全て一太刀で撃退するその姿から目指している事が嘘じゃないことが分かるだけにこの先どうするを真剣に考えなくてはいけないような気がする。
 でも、本当に俺は最深層を目指していいのだろうか。
 あの時、簡単に諦めた俺が今更そんな事をやっていいのか。
 そんな思いがあの時見たあいつらの顔と一緒に思い浮かんでしまう。

「ごめん!! 一体、そっちに行った」

「えっ、って!?」

 西郷さんの声に驚いて前を見ると確かに一体のラットが俺に向かって飛びかかってくるところだった。

「うぉっと!!」
「ヂューー」

 大きく口を開けて噛みつくつもりだったラットを避けてお返しとばかりにナイフを突き刺す。
 そのままドロップ品すぐに拾うと西郷さんの方へと顔を向ける。
 一匹抜けてきたという事はそれだけ多くに襲われているのではと思った俺だったがそれは杞憂に終わった。
 目を向けた先には最後の一匹を倒したのか、武器を振り切った西郷さんの姿が有った。

「やっぱり、凄いな……」

 西郷さんの周りでドロップ品に変わっていくラットの数と息を切らした様子の見えない西郷さんの姿にそう思ってしまう。
 どうやら西郷さんもドロップ品を拾い集めたようで申し訳なさそうにこっちを見た後に一度気合を入れてからまた歩き始めた。
 そんな姿に置いて行かれるのはマズいので俺も後を追う。何か今までとは違うような事を考えながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ✨宝箱✨で殴るダンジョン生活

双葉 鳴
ファンタジー
俺、“飯狗頼忠(めしく よりただ)”は世間一般で【大ハズレ】と呼ばれるスキル【+1】を持つ男だ。 幸運こそ100と高いが、代わりに全てのステータスが1と、何をするにもダメダメで、ダンジョンとの相性はすこぶる悪かった。 しかし世の中には天から二物も三物ももらう存在がいる。 それが幼馴染の“漆戸慎(うるしどしん)”だ。 成績優秀、スポーツ万能、そして“ダンジョンタレント”としてクラスカースト上位に君臨する俺にとって目の上のたんこぶ。 そんな幼馴染からの誘いで俺は“宝箱を開ける係”兼“荷物持ち”として誘われ、同調圧力に屈して渋々承認する事に。 他にも【ハズレ】スキルを持つ女子3人を引き連れ、俺たちは最寄りのランクEダンジョンに。 そこで目の当たりにしたのは慎による俺TUEEEEE無双。 寄生上等の養殖で女子達は一足早くレベルアップ。 しかし俺の筋力は1でカスダメも与えられず…… パーティは俺を置いてズンズンと前に進んでしまった。 そんな俺に訪れた更なる不運。 レベルが上がって得意になった女子が踏んだトラップによる幼馴染とのパーティ断絶だった。 一切悪びれずにレベル1で荷物持ちの俺に盾になれと言った女子と折り合いがつくはずもなく、俺たちは別行動をとる事に…… 一撃もらっただけで死ぬ場所で、ビクビクしながらの行軍は悪夢のようだった。そんな中響き渡る悲鳴、先程喧嘩別れした女子がモンスターに襲われていたのだ。 俺は彼女を囮に背後からモンスターに襲いかかる! 戦闘は泥沼だったがそれでも勝利を収めた。 手にしたのはレベルアップの余韻と新たなスキル。そしてアイアンボックスと呼ばれる鉄等級の宝箱を手に入れて、俺は内心興奮を抑えきれなかった。 宝箱。それはアイテムとの出会いの場所。モンスタードロップと違い装備やアイテムが低い確率で出てくるが、同時に入手アイテムのグレードが上がるたびに設置されるトラップが凶悪になる事で有名である。 極限まで追い詰められた俺は、ここで天才的な閃きを見せた。 もしかしてこのトラップ、モンスターにも向けられるんじゃね? やってみたら案の定効果を発揮し、そして嬉しい事に俺のスキルがさらに追加効果を発揮する。 女子を囮にしながらの快進撃。 ステータスが貧弱すぎるが故に自分一人じゃ何もできない俺は、宝箱から出したアイテムで女子を買収し、囮役を引き受けてもらった。 そして迎えたボス戦で、俺たちは再び苦戦を強いられる。 何度削っても回復する無尽蔵のライフ、しかし激戦を制したのは俺たちで、命からがら抜け出したダンジョンの先で待っていたのは……複数の記者のフラッシュだった。 クラスメイトとの別れ、そして耳を疑う顛末。 俺ができるのは宝箱を開けることくらい。 けどその中に、全てを解決できる『鍵』が隠されていた。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

やがて最強に至る弾丸付与術士の成り上がり

彼方
ファンタジー
 2035年の日本では、多数出現したダンジョンを探索する探索者という職業が大きな注目を集めていた。ダンジョンを探索することは大きな危険も伴うが、地球では本来手に入らない希少な資源を入手することができるため、日本を含め世界各国はダンジョン資源の獲得に力を入れていた。  そうした世界の中で平均的な探索者として活動していた加賀優斗は、親友である木場洋輔から突然パーティを追放されてしまう。優斗は絶望し失意の底に沈むが、不治の病に侵された妹を助けるために行動を開始する。  これは、実力も才能もない一人の青年が努力と工夫によって世界最強へと上り詰めるまでの物語。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

処理中です...