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ああ、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
目の前の状況に、わたしは絶望し腰を抜かす。
前方には踏みつぶされ、動かぬ屍となった剣士と盾使いの仲間達。
さらに後ろを振り向くと、壁にめり込み息絶えた仲間の魔法使いの姿が見える。
最後はお前だ。
そう言うように、山のように大きい魔物はわたしとの距離をジリジリと縮めた。
魔物の全長は20メートルを超え、サイのような姿をしている。
全身には鱗のような大きな岩に覆われ、その岩はあらゆる攻撃を弾き飛ばす程に硬い。
さらには鼻の部分に突起した黒鉄に輝く角は、鋼鉄よりも固いらしく触れるものをバターのように切り裂くらしい。
こいつの名前はアースドラゴン。
たった1体で、大きな町を壊滅させる災厄と称される凶悪な魔物だ。
冒険者になんてならなければよかった。
何の力もない普通の貴族令嬢として、実家にしがみついていればよかった。
ジリジリと迫りくるアースドラゴンを瞳に捉え、後悔だけが頭によぎる。
迫りくる死にガチガチと歯がなり、目からは取り止めのない涙があふれ出す。
さらにはジワーと生暖かいものが溢れ、わたしのローブを濡らした。
わたしの名前は、メイ=マルチーズ。12歳。
キラキラに輝く金色の髪と、エメラルドのような緑の瞳をしている。
そして隣国の名門貴族、マルチーズ侯爵家の次女だ。
マルチーズ家は聖女の家系。
昔、勇者と共に魔王を倒しこの世界を救った、聖女の系譜を継ぐものだ。
聖女とは光魔法を極めし乙女の称号。
その力は闇を打ち払い、どんな怪我や病も一瞬で癒すことができる。
そしてマルチーズ家は、その後何代にもわたり聖女を輩出してきた。
もちろんわたしの祖母、お母様、そして2つ上の姉のエイプリルも聖女として活躍している。
わたしも幼少期から聖女になることを夢見て、日夜修行に励んできた。
実はわたしは期待されていた。
聖女であるお母様、そしてエイプリルお姉さまをも凌ぐ魔力を持っていたのだ。
だが残念ことにわたしには光魔法の適正がなかった。
回復魔法を使用することはできる。
だがその力は弱く、今でも擦り傷を癒し、止血する応急処置がやっとの力だ。
もちろんだが聖女としての力にはほど遠い。
その為、聖女になどなれる筈もなく、先月聖女認定の試験に落ちてしまったのだ。
歴代のマルチーズ家の歴史で、聖女になれないのは前代未聞。
わたしは両親達に疎まれた。
今まで優しかった両親はまるでわたしが居ないように扱い、優しかったお姉さまも踵を返しわたしを突き放した。さらに従者達は、そんなわたしを見限った。
そしてマルチーズ家にわたしの居場所はなくなったのだ。
そんな状況に耐えられなかった。
だからわたしは先月家を飛び出し、冒険者になったのだ。
冒険者とは未開の地を開拓したり、魔物から人々を守る傭兵のような存在だ。
また鉱物や植物を採取したり、家事を手伝ったりとなんでも屋的な側面も有する。
冒険者として自由に暮らしたい、そう思いわたしは冒険者となったのだ。
冒険者はその強さや実績によりランク付けされている。
ランクはF、E、D、C、B、A、Sの7段階。
先月冒険者になったばかりのわたしは、魔法が使えることを考慮され下から1つ上のEランクとしてスタートした。
だが冒険者で魔法を使える者は少なく、特に回復魔法を使える冒険者は貴重な存在だ。
その為、わたしは低ランクながら多くのパーティーから勧誘を受けた。
そして勧誘を受けたパーティーの中で、【星空の集い】を選び所属した。
星空の集いは、わたしを入れて4人組の冒険者パーティー。
選んだ理由は、誘われたパーティーの中で最もランクが高く全員がBランク、さらに構成員が全員女性で安心できると思ったからだ。
実際リーダーのライラさん、そして仲間の二人はやさしかった。
冒険者の先輩としていろいろ教えてくれ、たくさんの知識を学んだ。
仲間達に追いつくために頑張ろう、その時のわたしは強い決意に満ちていた。
だがわたしの考えは甘かった。
いや甘すぎた。
自由はいいことだと思っていた、だが自由ということはその分危険が伴うということ。
そしてその代償として、自分の命を差し出さなくてはいけないということ。
わたしはそのことを全く考えていなかったのだ。
ドシンドシン。
アースドラゴンが止めを刺すべく、わたしとの距離を詰める。
その大きな足音は、まるで地獄へ誘うカウントダウンのように非常にゆっくりと感じた。
ドクンドクン、奴が近づくにつれその恐怖に心臓は大きく跳ねる。
そしてついに奴がわたし目掛けて踏みつぶそうと、足を踏み出したとき、今までの記憶が高速で頭の中を駆け巡った。
マルチーズ家の楽しかった日々。
ちょっと厳しいお父様とやさしいお母様、そしてお姉さまに囲まれ、幸せの日々を送っていた。
避暑地への家族旅行、クリスマスや誕生日パーティーどれもかけがえのない思い出だ。
そして剣道に明け暮れた少女時代・・・。
「ん?剣道?」
突然、体験したことのない記憶にわたしは困惑を浮かべる。
なんだこの記憶は?そんな記憶はなかったはずだ。
そもそも剣道とはなんだ?剣術の何かなのか?
いや・・・違う。そうだそれは前世、わたしがまだ【剣崎ヒカリ】だった時の記憶だ。
前世では、こことは違う世界、日本という国でわたしは剣道というスポーツに明け暮れていた。
わたしの実家は戦国時代から続く侍の家系で、その奥義は剣崎流と呼ばれ恐れられていた。
そしてわたしはその後継者としてその奥義の全てを叩きこまれ、天才剣道少女と呼ばれるまでに至ったのだ。
あらゆる大会を総なめにし、大人の達人にだって引けを取らない。
将来は警察官になり、あらゆる凶悪犯罪を剣士として取り締まるのが夢だった。
しかしわたしは高校2年生でその命はついえた。
原因はガン。1年間の闘病生活は体を動かせない地獄の日々であったことを覚えている。
元気な体を返してほしい、また剣を振りたい。
それがわたしの最後の願いだった。
せっかく元気な体を手に入れたのだ、ここで死ぬわけにはいかない。
死ぬ覚悟をしていた心が、前世の記憶を取り戻したことで生きる意欲に満ちる。
先程まで恐怖で動かなかった体に、力が戻った。
慌てて真横に飛ぶ。
同時にアースドラゴンがわたしが居た場所を踏み抜いた。
巨体による踏み付けは、地面を大きく削り取る。
その衝撃に跳ね飛ばされ、わたしはゴロゴロと地面を転がった。
だが受け身は前世で護身用として習っていた。
ゴロゴロと転がったわたしは、受け身をとりすぐに立ち上がる。
幸いにも大きなケガはない。
そして起き上がるとすぐに、近くに落ちてあった剣を拾いあげる。
これは仲間でリーダーであったライラさんが使っていた剣だ。
アースドラゴンはこれで止めを刺し終わりたかったのであろう。
わたしが躱したことに激怒して、大きな雄たけびをあげる。
その雄たけびは、まるで地獄から響くように低く、思わず耳を塞ぎたくなるような大きな大きな騒音であった。
それから相手は4本の足でぐっと踏み込むと、体長の3分の1を占めているスパイクのようにトゲトゲがついた尻尾を、わたし目掛けて振り回した。
強大な質量に任せた単純な攻撃、だがまともに受ければ一撃であの世行きの凶悪な攻撃だ。
そして壁にめり込む仲間の魔法使いはこれで殺されたのだ・・・。
前回は幸いにも腰が抜けて躱すことができたものの、尻尾を振り回す速度が速すぎて、目視すら困難だった。
だが今回の攻撃は見えていた。
前世で死ぬほど剣を振り、多くの武人と戦ってきたのだ。
相手が尻尾を振る速度は剣道の剣よりも遥かに遅い。
その為、躱すことは簡単だ。
だがわたしは攻撃を受け流すことを選択する。
今、相手はわたしを格下と侮り大ぶりな攻撃をしかけてきている。
その隙をつき、一矢報いるためだ。
わたしは大きく息を吐き、魔法を唱える。
「ビルドアップ」
これは身体強化の魔法。
かける魔力量により、身体能力を何倍にも高める魔法だ。
なお属性はなく、魔法を使える者なら誰でも使用することができる。
だが身体能力を高めたところで、それを使いこなす運動神経や動体視力がなければ使いこなすことは困難だ。
今までのわたしは覚えていたものの、この魔法を使いこなすことはできなかった。
だけど前世の記憶を取り戻した今ならできる。
だがこの華奢な体では、1.5倍が限界であろう。
それ以上は耐えられない。
そう判断すると自身の体全体に魔力を纏い、限界まで能力を引き上げる。
するとキラキラとしたオーラのような光が、わたしの体を取り囲んだ。
そしてぐっと地面を踏み込むと、迫りくる尻尾の動きに合わせて剣先を押し当てる。
「剣崎流、守りの型 玄武」
玄武は相手の攻撃を防ぐのではなく受け流す。
相手の攻撃の流れに沿って剣先を当て、その攻撃の方向を変化させるのだ。
決まれば、思わぬ攻撃の方向に翻弄され相手の体制を大きく崩す。
こんな大きな相手にこの技を打つのは初めてだ。
だが原理は一緒。
攻撃の方向がある限り、相手が巨体であろうとなかろうと受け流すことが可能なのだ。
わたしは押し当てた剣先をそっと尻尾に沿わせる。
そしてまるでフライパンでホットケーキをひっくり返すように、相手の攻撃方向を真逆の反対方向に反らした。
迫りくる尻尾は突然動きを変えて、明後日の方向に飛ぶ。
踏ん張っていたアースドラゴンであったが突然の起動変更に体制を崩し、ひっくり返って地面に倒れこんだ。
そしてカメが甲羅を背につけてもがくように、アースドラゴンは背中に生えた岩が地面に突き刺さり、バタバタと足をばたつかせた。
チャンスだ、さらにわたしは追撃を試みる。
だが相手の表皮は固く、仲間達の攻撃や魔法はアースドラゴンに傷一つつけられなかった。
ではどこを狙うのか?
それは目玉だ。
そう判断したわたしは、魔力を手に持つ剣に込める。
すると剣は、銀色の激しい光を纏い輝いた。
そしてその剣を持ち、やり投げのような格好で振りかぶると、アースドラゴンの右の目玉に向けて投擲した。
光を纏う剣は、まるで流星のように真っすぐにアースドラゴンへと飛ぶ。
その速度は速く一本のレーザー光線のように、一瞬で相手へと到達した。
そして吸い込まれるように、目玉に突き刺さった。
ギャアアアアアア
剣は目玉を刺し、相手の眼球を潰す。
20メートルはあろう巨体がバタバタともがき暴れだした。
その揺れはまるで大震災、震度7と同等の揺れだ。
その激しい揺れにわたしは立ってられず、思わず座り込んだ。
ガラガラガラガラ
実はここはダンジョンと呼ばれる大きな洞窟の中であった。
その為、地面はそこまで固くなく地盤が脆い。
ガラガラと地面にひびが入り、この部屋全体に大きな亀裂が走った。
「え?ちょっと」
嫌な予感がしてわたしは顔を青ざめる。
だが反応が遅かった。
ついに地盤は破壊され、亀裂からガラガラと崩れ去った。
「キャー」
そしてわたしは、アースドラゴンと共に奈落の底へと落ちていくのであった。
目の前の状況に、わたしは絶望し腰を抜かす。
前方には踏みつぶされ、動かぬ屍となった剣士と盾使いの仲間達。
さらに後ろを振り向くと、壁にめり込み息絶えた仲間の魔法使いの姿が見える。
最後はお前だ。
そう言うように、山のように大きい魔物はわたしとの距離をジリジリと縮めた。
魔物の全長は20メートルを超え、サイのような姿をしている。
全身には鱗のような大きな岩に覆われ、その岩はあらゆる攻撃を弾き飛ばす程に硬い。
さらには鼻の部分に突起した黒鉄に輝く角は、鋼鉄よりも固いらしく触れるものをバターのように切り裂くらしい。
こいつの名前はアースドラゴン。
たった1体で、大きな町を壊滅させる災厄と称される凶悪な魔物だ。
冒険者になんてならなければよかった。
何の力もない普通の貴族令嬢として、実家にしがみついていればよかった。
ジリジリと迫りくるアースドラゴンを瞳に捉え、後悔だけが頭によぎる。
迫りくる死にガチガチと歯がなり、目からは取り止めのない涙があふれ出す。
さらにはジワーと生暖かいものが溢れ、わたしのローブを濡らした。
わたしの名前は、メイ=マルチーズ。12歳。
キラキラに輝く金色の髪と、エメラルドのような緑の瞳をしている。
そして隣国の名門貴族、マルチーズ侯爵家の次女だ。
マルチーズ家は聖女の家系。
昔、勇者と共に魔王を倒しこの世界を救った、聖女の系譜を継ぐものだ。
聖女とは光魔法を極めし乙女の称号。
その力は闇を打ち払い、どんな怪我や病も一瞬で癒すことができる。
そしてマルチーズ家は、その後何代にもわたり聖女を輩出してきた。
もちろんわたしの祖母、お母様、そして2つ上の姉のエイプリルも聖女として活躍している。
わたしも幼少期から聖女になることを夢見て、日夜修行に励んできた。
実はわたしは期待されていた。
聖女であるお母様、そしてエイプリルお姉さまをも凌ぐ魔力を持っていたのだ。
だが残念ことにわたしには光魔法の適正がなかった。
回復魔法を使用することはできる。
だがその力は弱く、今でも擦り傷を癒し、止血する応急処置がやっとの力だ。
もちろんだが聖女としての力にはほど遠い。
その為、聖女になどなれる筈もなく、先月聖女認定の試験に落ちてしまったのだ。
歴代のマルチーズ家の歴史で、聖女になれないのは前代未聞。
わたしは両親達に疎まれた。
今まで優しかった両親はまるでわたしが居ないように扱い、優しかったお姉さまも踵を返しわたしを突き放した。さらに従者達は、そんなわたしを見限った。
そしてマルチーズ家にわたしの居場所はなくなったのだ。
そんな状況に耐えられなかった。
だからわたしは先月家を飛び出し、冒険者になったのだ。
冒険者とは未開の地を開拓したり、魔物から人々を守る傭兵のような存在だ。
また鉱物や植物を採取したり、家事を手伝ったりとなんでも屋的な側面も有する。
冒険者として自由に暮らしたい、そう思いわたしは冒険者となったのだ。
冒険者はその強さや実績によりランク付けされている。
ランクはF、E、D、C、B、A、Sの7段階。
先月冒険者になったばかりのわたしは、魔法が使えることを考慮され下から1つ上のEランクとしてスタートした。
だが冒険者で魔法を使える者は少なく、特に回復魔法を使える冒険者は貴重な存在だ。
その為、わたしは低ランクながら多くのパーティーから勧誘を受けた。
そして勧誘を受けたパーティーの中で、【星空の集い】を選び所属した。
星空の集いは、わたしを入れて4人組の冒険者パーティー。
選んだ理由は、誘われたパーティーの中で最もランクが高く全員がBランク、さらに構成員が全員女性で安心できると思ったからだ。
実際リーダーのライラさん、そして仲間の二人はやさしかった。
冒険者の先輩としていろいろ教えてくれ、たくさんの知識を学んだ。
仲間達に追いつくために頑張ろう、その時のわたしは強い決意に満ちていた。
だがわたしの考えは甘かった。
いや甘すぎた。
自由はいいことだと思っていた、だが自由ということはその分危険が伴うということ。
そしてその代償として、自分の命を差し出さなくてはいけないということ。
わたしはそのことを全く考えていなかったのだ。
ドシンドシン。
アースドラゴンが止めを刺すべく、わたしとの距離を詰める。
その大きな足音は、まるで地獄へ誘うカウントダウンのように非常にゆっくりと感じた。
ドクンドクン、奴が近づくにつれその恐怖に心臓は大きく跳ねる。
そしてついに奴がわたし目掛けて踏みつぶそうと、足を踏み出したとき、今までの記憶が高速で頭の中を駆け巡った。
マルチーズ家の楽しかった日々。
ちょっと厳しいお父様とやさしいお母様、そしてお姉さまに囲まれ、幸せの日々を送っていた。
避暑地への家族旅行、クリスマスや誕生日パーティーどれもかけがえのない思い出だ。
そして剣道に明け暮れた少女時代・・・。
「ん?剣道?」
突然、体験したことのない記憶にわたしは困惑を浮かべる。
なんだこの記憶は?そんな記憶はなかったはずだ。
そもそも剣道とはなんだ?剣術の何かなのか?
いや・・・違う。そうだそれは前世、わたしがまだ【剣崎ヒカリ】だった時の記憶だ。
前世では、こことは違う世界、日本という国でわたしは剣道というスポーツに明け暮れていた。
わたしの実家は戦国時代から続く侍の家系で、その奥義は剣崎流と呼ばれ恐れられていた。
そしてわたしはその後継者としてその奥義の全てを叩きこまれ、天才剣道少女と呼ばれるまでに至ったのだ。
あらゆる大会を総なめにし、大人の達人にだって引けを取らない。
将来は警察官になり、あらゆる凶悪犯罪を剣士として取り締まるのが夢だった。
しかしわたしは高校2年生でその命はついえた。
原因はガン。1年間の闘病生活は体を動かせない地獄の日々であったことを覚えている。
元気な体を返してほしい、また剣を振りたい。
それがわたしの最後の願いだった。
せっかく元気な体を手に入れたのだ、ここで死ぬわけにはいかない。
死ぬ覚悟をしていた心が、前世の記憶を取り戻したことで生きる意欲に満ちる。
先程まで恐怖で動かなかった体に、力が戻った。
慌てて真横に飛ぶ。
同時にアースドラゴンがわたしが居た場所を踏み抜いた。
巨体による踏み付けは、地面を大きく削り取る。
その衝撃に跳ね飛ばされ、わたしはゴロゴロと地面を転がった。
だが受け身は前世で護身用として習っていた。
ゴロゴロと転がったわたしは、受け身をとりすぐに立ち上がる。
幸いにも大きなケガはない。
そして起き上がるとすぐに、近くに落ちてあった剣を拾いあげる。
これは仲間でリーダーであったライラさんが使っていた剣だ。
アースドラゴンはこれで止めを刺し終わりたかったのであろう。
わたしが躱したことに激怒して、大きな雄たけびをあげる。
その雄たけびは、まるで地獄から響くように低く、思わず耳を塞ぎたくなるような大きな大きな騒音であった。
それから相手は4本の足でぐっと踏み込むと、体長の3分の1を占めているスパイクのようにトゲトゲがついた尻尾を、わたし目掛けて振り回した。
強大な質量に任せた単純な攻撃、だがまともに受ければ一撃であの世行きの凶悪な攻撃だ。
そして壁にめり込む仲間の魔法使いはこれで殺されたのだ・・・。
前回は幸いにも腰が抜けて躱すことができたものの、尻尾を振り回す速度が速すぎて、目視すら困難だった。
だが今回の攻撃は見えていた。
前世で死ぬほど剣を振り、多くの武人と戦ってきたのだ。
相手が尻尾を振る速度は剣道の剣よりも遥かに遅い。
その為、躱すことは簡単だ。
だがわたしは攻撃を受け流すことを選択する。
今、相手はわたしを格下と侮り大ぶりな攻撃をしかけてきている。
その隙をつき、一矢報いるためだ。
わたしは大きく息を吐き、魔法を唱える。
「ビルドアップ」
これは身体強化の魔法。
かける魔力量により、身体能力を何倍にも高める魔法だ。
なお属性はなく、魔法を使える者なら誰でも使用することができる。
だが身体能力を高めたところで、それを使いこなす運動神経や動体視力がなければ使いこなすことは困難だ。
今までのわたしは覚えていたものの、この魔法を使いこなすことはできなかった。
だけど前世の記憶を取り戻した今ならできる。
だがこの華奢な体では、1.5倍が限界であろう。
それ以上は耐えられない。
そう判断すると自身の体全体に魔力を纏い、限界まで能力を引き上げる。
するとキラキラとしたオーラのような光が、わたしの体を取り囲んだ。
そしてぐっと地面を踏み込むと、迫りくる尻尾の動きに合わせて剣先を押し当てる。
「剣崎流、守りの型 玄武」
玄武は相手の攻撃を防ぐのではなく受け流す。
相手の攻撃の流れに沿って剣先を当て、その攻撃の方向を変化させるのだ。
決まれば、思わぬ攻撃の方向に翻弄され相手の体制を大きく崩す。
こんな大きな相手にこの技を打つのは初めてだ。
だが原理は一緒。
攻撃の方向がある限り、相手が巨体であろうとなかろうと受け流すことが可能なのだ。
わたしは押し当てた剣先をそっと尻尾に沿わせる。
そしてまるでフライパンでホットケーキをひっくり返すように、相手の攻撃方向を真逆の反対方向に反らした。
迫りくる尻尾は突然動きを変えて、明後日の方向に飛ぶ。
踏ん張っていたアースドラゴンであったが突然の起動変更に体制を崩し、ひっくり返って地面に倒れこんだ。
そしてカメが甲羅を背につけてもがくように、アースドラゴンは背中に生えた岩が地面に突き刺さり、バタバタと足をばたつかせた。
チャンスだ、さらにわたしは追撃を試みる。
だが相手の表皮は固く、仲間達の攻撃や魔法はアースドラゴンに傷一つつけられなかった。
ではどこを狙うのか?
それは目玉だ。
そう判断したわたしは、魔力を手に持つ剣に込める。
すると剣は、銀色の激しい光を纏い輝いた。
そしてその剣を持ち、やり投げのような格好で振りかぶると、アースドラゴンの右の目玉に向けて投擲した。
光を纏う剣は、まるで流星のように真っすぐにアースドラゴンへと飛ぶ。
その速度は速く一本のレーザー光線のように、一瞬で相手へと到達した。
そして吸い込まれるように、目玉に突き刺さった。
ギャアアアアアア
剣は目玉を刺し、相手の眼球を潰す。
20メートルはあろう巨体がバタバタともがき暴れだした。
その揺れはまるで大震災、震度7と同等の揺れだ。
その激しい揺れにわたしは立ってられず、思わず座り込んだ。
ガラガラガラガラ
実はここはダンジョンと呼ばれる大きな洞窟の中であった。
その為、地面はそこまで固くなく地盤が脆い。
ガラガラと地面にひびが入り、この部屋全体に大きな亀裂が走った。
「え?ちょっと」
嫌な予感がしてわたしは顔を青ざめる。
だが反応が遅かった。
ついに地盤は破壊され、亀裂からガラガラと崩れ去った。
「キャー」
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