天才剣道少女は愛する姫を守る勇者になります

メイ

文字の大きさ
2 / 23

全滅

しおりを挟む
目を開けると、見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。

驚いたわたしは、慌てて上体を起こす。

するとベッドの傍の椅子に座る女性と目が合った。

栗色の短い髪をした20代前半くらいの女性、白いブラウスに黒を基調とした落ち着いた服を着ている。



わたしはこの女性を知っている。

彼女は冒険者ギルドの職員で、ソフィアさんだ。

冒険者ギルドとは、冒険者を管理している大きな組織のことだ。

世界各地に支部があり冒険者になるには、冒険者ギルドへの登録が必須となる。

ギルドでは依頼の受注と、冒険者登録と脱退を行うことができる。

また酒場や宿屋が併設されているギルドが多く、冒険者達はギルド内で集まり情報交換やパーティー募集等の交流を行う場でもあった。

さらに冒険者ギルドに登録すると冒険者証と呼ばれるカード型の身分証が発行され、どの支部でも共通のサービスが受けられるのだ。

ソフィアさんはわたしが冒険者ギルドに初めて来たときに、登録事務を担当してくれた人物だ。

そしてその後も、ギルド内でも気さくに話しかけて、新人のわたしのことを心配してくれていた。そんな彼女に対して、わたしは好意的な印象を抱いていた。



ソフィアさんはわたしが目を覚ましたことに、驚きぐわっと目を見開く。

それから涙を浮かべると、ガバッとわたしの上体を抱きすくめた。



「よかった、本当によかった。よく生きていたわね」



「痛い、痛い、ソフィアさん苦しいです」



やわらかい感触が、わたしの顔に当たる。

だが抱きすくめる力が強く、苦しくて息ができない。腕をタップして放してくれるよう必死に訴えかける。

そんなわたしに気づいたソフィアさんは、慌てて抱きすくめていたわたしの体を離した。



「ごめんなさいね、つい嬉しくて強く抱きしめてしまったわ」



せき込むわたしを見ながら、ソフィアさんは申し訳なさそうに謝罪する。



「ケホケホ。いえいえ大丈夫ですよ、ところで教えてください、わたしは今どうしてここに居るのでしょうか?」



アースドラゴンの右目を潰した。

だが奴は暴れまわり、ダンジョン内部の床が崩れてしまったのだ。

それから奴と一緒に、真っ逆さまに落ちたところまでは覚えている。

だがそれ以降の記憶は途絶えていた。



「貴女が近くの川に流れついていたのを、たまたま近くを通りかかった冒険者が助けてくれたのよ。それから三日も目を覚まさなかったから驚いたわ。それにしても貴女は、仲間たちと洞窟ダンジョンに行ったと思うんだけど、どうしてそこに倒れていたの?何かあった?」



その言葉にわたしはコクリと頷く。

そして声を絞り出すように、事の経緯をソフィアさんに伝えた。



わたし達、星空の集いは、この町の近くの洞窟型のダンジョンに挑戦した。

ダンジョンとは珍しい素材やお宝が眠っている場所のことで、主に洞窟や塔のことを指す。

だが内部は危険で、多くの魔物が出現する。

そして内部は階層別になっており、初見だと1階攻略するのにも半日~1日はかかる。

その為、何日もダンジョンにこもることも珍しくない。

そして最下層では、主と呼ばれる強力な魔物が出現する。

主を倒すとダンジョン内を戻る必要がなく、元の入り口に戻されるという仕組みだ。

また内部で得られる素材、お宝、そして魔物は尽きることがなく、その仕組みは未だに解明されていない。





そしてわたし達が挑戦したダンジョンは、初心者用のダンジョンだ。

階層は5階層で、出てくる魔物も弱く難易度も低い。

ライラさん達は何度もここをクリアしており、その構造は熟知していた。

今回このダンジョンに潜ったのは、わたしにダンジョン内の構造と立ち回り方法を教える為である。

もちろんわたしにとっては初めてのダンジョン。

ダンジョン内の立ち回りを教えてもらい、それから主を倒して帰還する予定であった。

ここの主はハイゴブリンというゴブリンの上位種や、狼型の魔物ウルフと呼ばれる魔物が中心。

初心者でも油断せずしっかり立ち回れば、攻略できない相手ではない。

もちろんライラさん達にとっては、敵ではなかった。

だが主を倒した直後、問題が発生した。



空間がぐにゃりとゆがむと、突然アースドラゴンが現れたのだ。

アースドラゴンはドラゴンという名前がついているが、正確にはドラゴンではない。

どちらかと言えば、ワニやトカゲ等の爬虫類型の魔物らしい。

だがドラゴンという名前がついているのは伊達ではなく、その強さはAランクに相当する。

魔物のランクは冒険者ランクに比例する。

その為、Aランクであるアースドラゴンに対抗できるのは、Aランク以上の冒険者パーティーだけだ。

Aランクである以上、Bランクのライラさんと言えども、勝ち目はない。

こうしてパーティーは壊滅し、今に至るというわけだ。



初めてのパーティーであり仲間達。

彼女たちは先輩冒険者として、わたしにいろいろよくしてくれた。

星空の下のテントの中で女子会と称して、昔話や自身の境遇を語り合った日々。

ライラさん達の笑顔が忘れられない。

特に恋バナには盛り上がった。

全員がわたしより年上だったが、大人の恋の話に胸が高鳴ったものだ。

特にライラさんは元騎士で、先輩騎士との恋が印象に残っている。

今でも恋というのはまだわからないのだが、いつか恋をしたいと本気で思ったものだ。



「ライラさん・・・みんなごめんなさい、わたしに聖女の力があれば助けられたかもしれないのに・・・本当にごめんなさい」



話し終えたわたしは、ライラさん達の死を思い出す。

そしていつの間にかポロポロと涙を流し、泣き崩れていた。

わたしはなんて無力なんだろう。

マルチーズ家に生まれたというのに、聖女の力に目覚めなかった。

もしお母様やお姉さまのような力があれば、ライラさん達も死ぬことはなかったのに・・・。

自身に対する無力感、そして力があれば打開できたであろう後悔だけが、わたしの心を押しつぶす。

堪えようとしても、涙が取り止めもなくあふれた。



そんなわたしの頭を、ソフィアさんはやさしく撫でる。

それから暫くわたしは涙を流し、泣き崩れるのであった。



◇◇◇◇

どれくらい泣いていただろう。

暫く泣いていたものの、もう涙も枯れ果てたのか気持ちが落ち着く。

だが泣きすぎて目がかゆい、おそらくわたしの目は真赤で見るに堪えない姿であろう。



「大変だったわね、ライラ達は残念だけど、貴女だけでも無事に帰ってこれてよかったわ」



そう言うと、ソフィアさんはわたしにハンカチを手渡す。

わたしは笑顔を見せると、そのハンカチを受け取り残る涙を拭いた。

嬉しかった。

こうして無事に帰ってきたことを喜んでくれる人がいる。

その事実だけで胸がいっぱいだ。



だが突然、窓の外から大きな雄たけびが響き渡った。

その音を聴き、わたしの背筋はびくっと震え氷のように膠着した。

わたしはこの鳴き声を知っている、そしてその声は嫌という程に、頭の中にこびりついていた。



アースドラゴン・・・。

間違いなく奴の声で間違いない。

思えばわたしはダンジョン内の穴に落ちて、冒険者ギルドへと帰ってきた。

だが落ちたのはわたしだけではない。

アースドラゴンも一緒に落ちたのだ。

わたしだけでなく、奴もダンジョン内から出ていることになんら不思議ではなかった。



すると、バンと大きな音と共にドアが開け放たれる。

そして外から、ソフィアさんの同僚であろうギルド職員が部屋の中に徐に入ってきた。



「ソフィア先輩、大変です。アースドラゴンが現れました。しかもどういうわけか、真っすぐにこの町に向かっています。ギルドマスターより討伐隊の編成をするように指示を受けました。お願いします、どうか手伝ってください」



真っすぐにこの町に向かっている・・・。

その言葉を聞き膠着していたわたしは顔を青くする。

話を聞いていたソフィアさんも驚いた顔でわたしを見た。

嫌な予感が頭をよぎる。

奴はおそらくわたしを追っている。

奴の目をつぶした時、暴れながら奴はわたしを睨んでいた。

きっと片目を潰されたことに対して、わたしに対し大きな恨みを抱いているはずだ。



このままでは町が危ない。

すぐにこの町から離れなければ・・・。

でも町を離れてどうする?

奴はあの時油断していた、だが手傷を負った今、今度は本気で挑んでくるだろう。

それに今のわたしは病み上がりだ。

どう考えても真正面から勝てる見込みはない。



ドスンドスン



だが相手は待ってくれない、悩んでいる暇はない。

遠くから奴の足音が響き渡り、どんどん近づいてくるのが感じ取れる。

わたしは急いで頭の中を整理した。

生きたいのは事実だ。

前世の知識を思い出した今、精一杯第2の人生を歩みたいし剣を思いっきり振りたい。

そう、こんなところで死にたくないし、精一杯生きたいのだ。

だが、わたしの為に関係のない人を巻き込むことは間違っている。

彼らは何も知らないし、平和で暮らしている彼らの生活を脅かす権利はわたしにはない。



それに奴は大好きな仲間を殺した因縁の相手だ。

できることなら、ライラさん達の仇を取りたい。

もしここで背中を見せれば、わたしは今後絶対に後悔する。



そう結論づけると、わたしはベッドから立ち上がった。

3日間寝ていたからせいか、まだ頭がフラフラするし体が重い。

だが幸いにも大きなケガはなく、動くことができる。



「すいません、ギルドマスターに話があります。ギルドマスターのところに案内してください」



そしてわたしは決意を込めて、力強く言葉を発するのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

【完結】慰謝料は国家予算の半分!?真実の愛に目覚めたという殿下と婚約破棄しました〜国が危ないので返して欲しい?全額使ったので、今更遅いです

冬月光輝
恋愛
生まれつき高い魔力を持って生まれたアルゼオン侯爵家の令嬢アレインは、厳しい教育を受けてエデルタ皇国の聖女になり皇太子の婚約者となる。 しかし、皇太子は絶世の美女と名高い後輩聖女のエミールに夢中になりアレインに婚約破棄を求めた。 アレインは断固拒否するも、皇太子は「真実の愛に目覚めた。エミールが居れば何もいらない」と口にして、その証拠に国家予算の半分を慰謝料として渡すと宣言する。 後輩聖女のエミールは「気まずくなるからアレインと同じ仕事はしたくない」と皇太子に懇願したらしく、聖女を辞める退職金も含めているのだそうだ。 婚約破棄を承諾したアレインは大量の金塊や現金を規格外の収納魔法で一度に受け取った。 そして、実家に帰ってきた彼女は王族との縁談を金と引き換えに破棄したことを父親に責められて勘当されてしまう。 仕事を失って、実家を追放された彼女は国外に出ることを余儀なくされた彼女は法外な財力で借金に苦しむ獣人族の土地を買い上げて、スローライフをスタートさせた。 エデルタ皇国はいきなり国庫の蓄えが激減し、近年魔物が増えているにも関わらず強力な聖女も居なくなり、急速に衰退していく。

処理中です...