天才剣道少女は愛する姫を守る勇者になります

メイ

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アースドラゴン①

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どうやらわたしは、冒険者ギルドの2Fの宿屋部分で寝かされ看病されていたようだ。

ベッドから立ち上がったわたしは、ギルド職員に案内されて1Fに降りた。



1Fでは多くの冒険者達が集まり武器の手入れや連携の確認等を入念に行っていた。

数にして約80名。

依頼中の冒険者を除くと、ほぼ全ての冒険者がここに集結している格好だ。

アースドラゴンという強敵に挑む為、ギルド内は緊迫した空気に包まれていた。



そんな中で忙しそうに指示を飛ばす、ガタイのいいスキンヘッドの男性がいた。

身長は2メートル近くあり、屈強な体は鋼のように固く腕は丸太のように太い。

彼の名前は、ハルク。

元A級冒険者であり、この冒険者ギルドのマスターだ。

有名な冒険者だったようで、その強さは現役を退いていてもギルド内で一番強いらしい。

A級冒険者は数が少ない。

ここはピナトスという辺境の中規模の町だが、それでもA級冒険者は一人もいなかった。

その為、元A級という肩書は一目を置かれる凄い称号なのだ。



「ん?嬢ちゃん目が覚めたのか?助かって本当によかった」



近づいたわたしに気づいたマスターは、ニッコリと微笑む。

ガタイがよく強面なので威圧的に感じるが、実は親しみやすくていい人なのだ。

わたしも何度か言葉をかわしたことがあるが、最初は怖かったものの今では気さくに話しかけることができる。



「マスター、彼女が大事な話があるそうです」



「ん?なんだ、今忙しいんだが・・・どうしても重要な話か?」



その言葉にわたしはコクリと頷く。

それからわたしは要約してハルクさんに話した。

ダンジョン内でアースドラゴンに出会ったこと。

パーティーは全滅し、仲間全員が命を落としたこと。

そして何とか手傷を負わしたわたしを奴は狙っていることを。



その言葉を聞き、マスターはじっと黙る。

周りで話を聞いていた他の冒険者達も、ライラさん達の死に驚き唖然としていた。

騒がしかったギルド内は、一瞬にして静寂に包まれる。

そして暫くすると、ハルクさんは口を開いた。



「にわかには信じられない。いやライラ達の死は信じよう。アースドラゴンはそれだけの強敵だ。だが嬢ちゃん、どうやって手傷を負わした?嬢ちゃんは回復魔法専門の魔術師だ。しかも駆け出しのEランク。普通なら不可能な芸当だ。」



「目玉を狙いました。油断していた奴に、魔力を込めた剣を奴の右目に突き刺したのです。おそらく今でも奴の右目は見えません」



「おい、偵察に行ってきた奴はいるか?どんな様子だった」



わたしの話を聞いたハルクさんは、周りの冒険者に言葉を飛ばす。

すると1人の冒険者が前に歩み出た。

20代後半で、頑丈そうな装束を纏った盗賊のような装いの男性だ。

きっと偵察や索敵等を主にしている冒険者なのであろう。



「確かに右目を開いておりませんでした。彼女の証言と一致します」



「これは驚いたぞ、嬢ちゃんやるじゃねえか?」



ハルクさんはそう言うと、ドンとわたしの頭に手をのせる。

それは分厚く、まるで鋼鉄のような手だ。

突然のことにわたしはビクッと体を震わせる。

するとそのままワシャワシャと、わたしの頭をなで大笑いを浮かべた。



「作戦変更だ。町の外の平原で迎え撃つ。嬢ちゃん、出れるか?」



「もちろんです」



「いいかお前達、アースドラゴンは俺達のギルド内の仲間に手を出した。奴はライラ達の仇だ、絶対に仕留めるぞ!」



「おー!!」



彼の言葉に、冒険者達は一斉に声を上げる。

ライラさんはこの冒険者ギルド内でも上位の実力者、さらに姉御肌で容姿もよくかなりの人気者だった。

彼女たちの仇を討とうと、周りの指揮は最高潮に達する。



それからわたしは達は、奴を迎え撃つためにすぐに平原へと向かった。

冒険者80名 VS アースドラゴン。

総力をかけた死闘が今、幕をあける。



◇◇◇◇

見渡す限りの平原。

ここでは見通しもよく、相手の動きを確認することができる。

面積も広いので、大多数で攻撃する場合は有利な戦場だ。



太陽は地平線に沈みゆく途中で、空は夕焼けで赤く照らされていた。



「いいか、前には俺だけが出る、絶対に奴の間合いに入るな。お前達はサポートに徹するんだ。」



陣形を整える冒険者達に、ハルクさんは指示を飛ばす。

今のハルクさんは黒い重鎧を着ており、背中にはハルバートと呼ばれる両手斧を装備している。たださえいかつい風貌が、更にいかつく見えた。



「しかし・・・」



「奴は巨体ながら、その攻撃は素早い、Bランク以下では奴の攻撃に耐えられないし、躱すことも難しい。そうだなメイ?」



その言葉にわたしはコクリと頷く。



「あの強かったライラさん達も一撃で殺されました。目視できないくらい早かったです。」



その言葉に周りの冒険者達は青ざめる。

ライラさん達はこのギルド内でも屈指の実力者だ。

周りの冒険者達のランクは殆どがC以下。

Bランクは数パーティーしかいないのだ。



「わかったか?奴の攻撃に耐えられるのは元A級の俺だけだ。なーに鍛錬だって欠かしたことはない、俺に任せな」



ドスンドスン。



すると、地平線の彼方から大きな足音が響き渡る。

ちかづいてくるのがわかる。

奴が来る。

だが今回は前に出るつもりはない。

わたしの役割は、回復魔法での後方支援だ。

それにわたしの装備や手荷物は、ダンジョン内で全てなくしてしまった。

戦う武器自体持っていないのだ。

それに元A級冒険者の戦いを見てみたかった。

前世では剣道ばかりしていた。

その為、他者の戦いを見るのは大好きだった。

それも強者の戦いならなおさらだ・・・。



するとついに奴が現れた。

地平線の彼方から、奴が姿を見せる。



「来たぞ、アースドラゴンだ!」



「なんて大きさだ。まるで小山が動いているようだ」



相手を視界にとらえ、冒険者達から緊張の声が漏れる。

そして地平線から奴が現れた。

ゴツゴツとした岩の鱗に覆われた体に、鼻から伸びる1本の大きな角。

四本足で歩く姿はまるで小山が動いているようだ。

一見、鈍足に見えるが侮ってはいけない、奴は巨体とは思えないほど俊敏なのだ。

わたし達が奴を視界にとらえた瞬間、その姿はまるで蜃気楼のように消え失せた。



「な!?」



周りの冒険者達から突然消えた巨体に動揺の声が漏れる。

いや違う、奴は高速で動いただけだ。

周りの冒険者は捉えきれないようだが、先の戦いと同様にわたしは捉えることができた。

真っすぐに一直線に、わたしを狙って・・・。

奴はわたしの姿を見た瞬間、血走った眼で睨みつけ威圧してきたのだ。



だが回避はしない。

ハルクさんが対応するのが見えたからだ。

冒険者達正確にはわたしの前にハルクさんは立ちはだかると、ハルバートを横なぎに振り切った。



ドーン。ガキーン。



まるで大砲が打たれたような爆音と共に、重い金属同士が打ち合った低い金属音が鳴り響く。



「うっ嘘だろう・・・」



「なんて力だ・・・」



目前では、彼のハルバートと奴の角が激突し、ジリジリと鍔迫り合いを行っていた。

あの巨体の突進を、ハルクさんはたった一人で受け止めたのだ。

その事実にわたしを含めた冒険者達は驚愕し、唖然と見つめる。



「今だ!魔法を放て!できない奴は弓か投擲だ」



その声を聴いた冒険者達は慌てて呪文を詠唱する。

一般的に魔法を使える者は数が少ない。

だがそれは低ランク冒険者だけに限られる。

Bランク以上はほぼ必須、Cランクでも半数以上は何かしらの魔法を使うことができるのだ。

さらに呪文を唱えられない冒険者は、用意していた弓や使い古した武器を奴に向けて投擲した。

魔法のいいところは弱い力でも多少なりとも効果があるということ。

小さな火でも熱いものは熱いのだ。

格上にも少なからず効果がある、それが魔法の利点である。

その為、格下の冒険者の魔法でも通用するのである。



だが遠距離武器については魔法よりもかなり効果が薄い。

固い岩の鱗に阻まれて、効果が薄いからだ。

だがそれでもないよりはましだし、その分奴の移動は制限される。



わたし達の作戦はこうだった。

ハルクさん1人が前衛として、奴の攻撃を受け止めて動きを止める。

そして動きを止めた隙に、残りの冒険者全員で魔法や遠距離武器で攻撃するのだ。



格上相手に効果は薄いかもしれないが、全く効果がないわけではない。

少しづつ体力を削りとり、相手を仕留める。

時間はかかるが、成功すれば各段に死者や怪我人は減る。

ハルクさんは情に厚く、ギルドメンバーを家族のように大切にしている。

だからマスターである彼は、この方法を選んだのだ。

自らの負担を顧みずに・・・。



◇◇◇◇

戦闘が始まり1時間が過ぎた。

ハルクさんは、アースドラゴンの猛攻をたった一人で防いでいた。

そしてその後ろで冒険者達は休むことなく、ひたすら魔法や武器を打ち込んでいく。

魔力を回復するアイテムは、町から大量に持ってきている。

また弓や投擲武器もかき集めた。

後ろの冒険者達は休むことなく、奴に攻撃を加え続けた。



だが後衛も完全に安全というわけではない。

ハルクさんが攻撃を食い止めているものの、その衝撃波や飛び散った石で少なからず後ろの冒険者達もダメージを受ける。

またその怪我人は意外に多く、わたしは後ろで次々とその傷を癒していった。



「ヒール」



チカチカとした白い光が患部を包み込むと、あっという間に傷を塞いだ。

だが完全には癒えていない、あくまでもわたしの魔法の力は応急処置程度。

傷口を全く消すだけの力はないのだ。

だがその力でも十分。

特にこの集団戦法では止血ができるだけでもかなり大きいのだ。

さらにわたしの魔力はかなり高い。

この1時間で数10人の傷を癒しているが、魔力はまだまだ十分にあった。



(だけど・・・)



わたしは前線で戦うハルクさんを覗き見る。

変わらず攻撃を受け止めてはいるものの、息が上がってきているのがわかる。

おそらくあと数10分くらいで体力がきれてしまいそうだ。

一方、アースドラゴンはあれだけの攻撃をうけながらも、まだまだピンピンしている。

あと何時間攻撃を加えれば倒れるのか・・・全く見当がつかない状況だ。



Aランクの魔物に対抗できるのは、Aランク以上の冒険者だけ。

だがそれは冒険者は4人以上のパーティーを組んでいることが前提だ。

その為、ハルクさんは1対1では、奴を倒すことができない。

だから後方支援として町中の冒険者達が必死に協力をしている。

だが全員の力を合わせても、おそらくAランク冒険者2人分にも満たないだろう。

何故なら、Aランク冒険者の実力は、Bランク冒険者の10倍以上の実力があると言われているからだ。

80人の冒険者が居ても、Bランク以下ではそれほど戦力にならないのだ。



さらにハルクさんも現役の冒険者ではない。

加齢により体力的な衰えを感じ、引退した身だ。

かなりの実力なのは間違いないのだが、それでも現役のAランク冒険者に劣っている。

結局、わたし達の戦力はアースドラゴンを倒すだけの戦力を満たしていない。



今のわたしは守られているだけ。

そして後方支援をするしか、役割がない。

でも、戦況はジリ貧で、おそらくこのまま続ければ敗北は確定的であろう。

ハルクさんの体力が切れてからでは遅い、今何か行動に移さねば・・・。

わたしは回復魔法で冒険者達を回復させながら、冷静に戦況を分析し、思考を巡らせる。



今のわたしは前世の記憶を取り戻し、剣道の技が使える。

だがそれが使えたところで、ハルクさんの力には到底及ばない。

玄武で尻尾の攻撃は反らせても、質量に任せた突進攻撃は反らせないのだ。

仮にわたしが、何も考えずに前線に出て加勢したところで、足手まといになるのは確定的だ。



ならどうする・・・そうだ!



わたしはハルクさんに猛攻をしかけるアースドラゴンを見る。

奴は今、左目だけで戦っている。

ならば左目をも潰してしまえば・・・相手に大きな隙を作ることができるのではないか?

今、戦況が苦しいのはハルクさんが盾役に徹しており、攻撃に移れないからだ。

もし彼が攻撃に移ることができれば、有効打を与えられるに違いない。

わたしはそう確信する。



「ごめんなさい、前に出ます。回復は後ででお願いします」



「おっおい!?」



そう結論づけると、すぐに行動した。

そしてハルクさんとアースドラゴンが戦う前線へと駆け出すのであった。
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