影月の燈導‪—‬えいげつのともしるべ—‬

茶々麻呂

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序章 妖界と妖怪

第4話 賭け

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「弱点がわかったのは良いが、そう簡単にいくのか?」

 その通り。まだこちらが勘付いていることを知られてはいないだろうが、弱点が事実なら、おそらく攻撃されないために守ろうとするはず。
 ……だが、隙をつければ、可能性はある。

『自分から、動くのよ』

 祖母の言葉。
 朔は決心する。

「一か八かの勝負に出るしかない。私が隙を作る」

 ぎゅっと握った拳は、微かに震えていた。本当は怖い。でもこのままじゃ埒があかない。奴に勝てない。

「……お主に死んでもらっては儂が困る」

「……さっきから気になってたんだけど、なんで私のこと知ってるの?それに死んだら困るって……」

 松宵は無言で視線を進行方向に戻す。

「……いずれ話す。今はそれどころではなかろう」

 後ろへと視線をやる。

「いつまで逃げるつもりだ貴様らぁ!喰わせろ!!その肉をぉぉお!!!」

 そのスピードは衰えることなく、化け物は真っ直ぐ追いかけて来る。大きな口からは涎がダラダラと溢れている。
 あいつ、懲りないな。
 そんなことを思っていると、松宵は朔に言った。

「どうやって隙を作るつもりじゃ?」

 朔は耳打ちした。

「なかなか無茶なことを言う。だが他に手はないか……良かろう」

「頼むね」

 深く呼吸をし、数える。
 化け物は距離を縮め、小馬鹿にするように言う。

「遅い!!」

 化け物の口が迫り、松宵の尾が届きそうになった……その時。

「三、二、……一ッ!!」



 朔はいきなり後ろを向くと、思いっきり助走をつけて飛んだ。化け物の……頭目掛けて。

「!?なに!?」

 まさか飛んでくるとは予測できなかったのか、動揺する化け物。朔は、化け物の、頭を覆うように抱きついた。

「ふぐッ、このッ離せ小娘ぇ!!」

「嫌だね!!!」

 化け物は朔を引っ張り剥がそうとする。朔は必死に耐えるが、それも長くは持たず、引き剥がされる。

「くっこの……!!」

 やっと視界が開けたところで、化け物は目の前に居たはずの獣がいないことに気づく。

「!?奴はどこに‪—‬‪—‬」

「ここじゃ!!!」

 背後からする声。

「な」

 言い終わるより前に。



 ザシュッッ



 松宵は、鋭い爪で化け物の首を搔き切った。

 瞬間、化け物の全身の力が抜け、急ブレーキをかけたように、慣性の力に耐えられず転がる。
 朔は解放されると同時に落ち、派手に転がる。

「ぐっ……」

 ズズンッ……ガラガラ……

 化け物の巨体は、勢いを止めた。力なく、ぐったりと。
 朔の見立ては、正解だった。松宵が飛ばした首、アレが本体だったのだ。
 松宵は朔へ駆け寄った。

「おい、娘!生きておるか!?」

「……う」

 キーンと、耳鳴りがする。身体に力が入らない。腕で支えながら半身だけ起こすと、なにやら赤い液体がぼたぼたっと滴り落ちた。
 頭部からの出血。だが不思議と痛みはなかった。
 ボヤける視界に、白いフサフサとした毛が映る。松宵だ。その先に視線をやると、動きのない化け物の姿。

「やった……勝てた……?」

「ああ、よくやった」

 ゴゴゴ、と地響きがすると同時に、壁が崩れ始めた。社の一部が落ちて来たり、天井に向かって飛んでいったり。天地が曖昧になって空間がおかしくなっていた。

「境界の主が死んだ。故に、ここももう長くはもたん、脱するぞ」

 松宵はまた朔の襟元を咥えて走り出した。上から降ってくる瓦礫や地面から剥がれる瓦礫を華麗に避けながら、強い光が放たれている方向へ。
 眩しさに耐えられず、朔は目を瞑った。意識が、遠のいていった。
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