5 / 20
序章 妖界と妖怪
第4話 賭け
しおりを挟む
「弱点がわかったのは良いが、そう簡単にいくのか?」
その通り。まだこちらが勘付いていることを知られてはいないだろうが、弱点が事実なら、おそらく攻撃されないために守ろうとするはず。
……だが、隙をつければ、可能性はある。
『自分から、動くのよ』
祖母の言葉。
朔は決心する。
「一か八かの勝負に出るしかない。私が隙を作る」
ぎゅっと握った拳は、微かに震えていた。本当は怖い。でもこのままじゃ埒があかない。奴に勝てない。
「……お主に死んでもらっては儂が困る」
「……さっきから気になってたんだけど、なんで私のこと知ってるの?それに死んだら困るって……」
松宵は無言で視線を進行方向に戻す。
「……いずれ話す。今はそれどころではなかろう」
後ろへと視線をやる。
「いつまで逃げるつもりだ貴様らぁ!喰わせろ!!その肉をぉぉお!!!」
そのスピードは衰えることなく、化け物は真っ直ぐ追いかけて来る。大きな口からは涎がダラダラと溢れている。
あいつ、懲りないな。
そんなことを思っていると、松宵は朔に言った。
「どうやって隙を作るつもりじゃ?」
朔は耳打ちした。
「なかなか無茶なことを言う。だが他に手はないか……良かろう」
「頼むね」
深く呼吸をし、数える。
化け物は距離を縮め、小馬鹿にするように言う。
「遅い!!」
化け物の口が迫り、松宵の尾が届きそうになった……その時。
「三、二、……一ッ!!」
朔はいきなり後ろを向くと、思いっきり助走をつけて飛んだ。化け物の……頭目掛けて。
「!?なに!?」
まさか飛んでくるとは予測できなかったのか、動揺する化け物。朔は、化け物の本体、頭を覆うように抱きついた。
「ふぐッ、このッ離せ小娘ぇ!!」
「嫌だね!!!」
化け物は朔を引っ張り剥がそうとする。朔は必死に耐えるが、それも長くは持たず、引き剥がされる。
「くっこの……!!」
やっと視界が開けたところで、化け物は目の前に居たはずの獣がいないことに気づく。
「!?奴はどこに——」
「ここじゃ!!!」
背後からする声。
「な」
言い終わるより前に。
ザシュッッ
松宵は、鋭い爪で化け物の首を搔き切った。
瞬間、化け物の全身の力が抜け、急ブレーキをかけたように、慣性の力に耐えられず転がる。
朔は解放されると同時に落ち、派手に転がる。
「ぐっ……」
ズズンッ……ガラガラ……
化け物の巨体は、勢いを止めた。力なく、ぐったりと。
朔の見立ては、正解だった。松宵が飛ばした首、アレが本体だったのだ。
松宵は朔へ駆け寄った。
「おい、娘!生きておるか!?」
「……う」
キーンと、耳鳴りがする。身体に力が入らない。腕で支えながら半身だけ起こすと、なにやら赤い液体がぼたぼたっと滴り落ちた。
頭部からの出血。だが不思議と痛みはなかった。
ボヤける視界に、白いフサフサとした毛が映る。松宵だ。その先に視線をやると、動きのない化け物の姿。
「やった……勝てた……?」
「ああ、よくやった」
ゴゴゴ、と地響きがすると同時に、壁が崩れ始めた。社の一部が落ちて来たり、天井に向かって飛んでいったり。天地が曖昧になって空間がおかしくなっていた。
「境界の主が死んだ。故に、ここももう長くはもたん、脱するぞ」
松宵はまた朔の襟元を咥えて走り出した。上から降ってくる瓦礫や地面から剥がれる瓦礫を華麗に避けながら、強い光が放たれている方向へ。
眩しさに耐えられず、朔は目を瞑った。意識が、遠のいていった。
その通り。まだこちらが勘付いていることを知られてはいないだろうが、弱点が事実なら、おそらく攻撃されないために守ろうとするはず。
……だが、隙をつければ、可能性はある。
『自分から、動くのよ』
祖母の言葉。
朔は決心する。
「一か八かの勝負に出るしかない。私が隙を作る」
ぎゅっと握った拳は、微かに震えていた。本当は怖い。でもこのままじゃ埒があかない。奴に勝てない。
「……お主に死んでもらっては儂が困る」
「……さっきから気になってたんだけど、なんで私のこと知ってるの?それに死んだら困るって……」
松宵は無言で視線を進行方向に戻す。
「……いずれ話す。今はそれどころではなかろう」
後ろへと視線をやる。
「いつまで逃げるつもりだ貴様らぁ!喰わせろ!!その肉をぉぉお!!!」
そのスピードは衰えることなく、化け物は真っ直ぐ追いかけて来る。大きな口からは涎がダラダラと溢れている。
あいつ、懲りないな。
そんなことを思っていると、松宵は朔に言った。
「どうやって隙を作るつもりじゃ?」
朔は耳打ちした。
「なかなか無茶なことを言う。だが他に手はないか……良かろう」
「頼むね」
深く呼吸をし、数える。
化け物は距離を縮め、小馬鹿にするように言う。
「遅い!!」
化け物の口が迫り、松宵の尾が届きそうになった……その時。
「三、二、……一ッ!!」
朔はいきなり後ろを向くと、思いっきり助走をつけて飛んだ。化け物の……頭目掛けて。
「!?なに!?」
まさか飛んでくるとは予測できなかったのか、動揺する化け物。朔は、化け物の本体、頭を覆うように抱きついた。
「ふぐッ、このッ離せ小娘ぇ!!」
「嫌だね!!!」
化け物は朔を引っ張り剥がそうとする。朔は必死に耐えるが、それも長くは持たず、引き剥がされる。
「くっこの……!!」
やっと視界が開けたところで、化け物は目の前に居たはずの獣がいないことに気づく。
「!?奴はどこに——」
「ここじゃ!!!」
背後からする声。
「な」
言い終わるより前に。
ザシュッッ
松宵は、鋭い爪で化け物の首を搔き切った。
瞬間、化け物の全身の力が抜け、急ブレーキをかけたように、慣性の力に耐えられず転がる。
朔は解放されると同時に落ち、派手に転がる。
「ぐっ……」
ズズンッ……ガラガラ……
化け物の巨体は、勢いを止めた。力なく、ぐったりと。
朔の見立ては、正解だった。松宵が飛ばした首、アレが本体だったのだ。
松宵は朔へ駆け寄った。
「おい、娘!生きておるか!?」
「……う」
キーンと、耳鳴りがする。身体に力が入らない。腕で支えながら半身だけ起こすと、なにやら赤い液体がぼたぼたっと滴り落ちた。
頭部からの出血。だが不思議と痛みはなかった。
ボヤける視界に、白いフサフサとした毛が映る。松宵だ。その先に視線をやると、動きのない化け物の姿。
「やった……勝てた……?」
「ああ、よくやった」
ゴゴゴ、と地響きがすると同時に、壁が崩れ始めた。社の一部が落ちて来たり、天井に向かって飛んでいったり。天地が曖昧になって空間がおかしくなっていた。
「境界の主が死んだ。故に、ここももう長くはもたん、脱するぞ」
松宵はまた朔の襟元を咥えて走り出した。上から降ってくる瓦礫や地面から剥がれる瓦礫を華麗に避けながら、強い光が放たれている方向へ。
眩しさに耐えられず、朔は目を瞑った。意識が、遠のいていった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる


