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10話
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「ルールに則ってやったのに、クッションぶつけられたの、やっぱ理不尽じゃないです?」
耳かきの準備をしつつ、宮古先輩への抗議を忘れない。いや、わざとでは無いとはいえお腹の方を向いたのは自分にも非があるが、ルール上問題ないなら理不尽なこと。そう、正当な意見の主張はしっかりとするべきだ。
「ルールに則って膝枕されても試合の後相手の体のことをいきなり言うのはノンデリだよねー。私もちょっと引いたもん。」
「部員じゃなければぶん殴ってた。」
「そこまで言います・・・?」
とにかく、テクニックを褒めるつもりでも体に絡めた感想を言うのは厳禁らしい。
「おし、いいぞ。」
宮古先輩の頭が膝に乗る。クールな印象があったが、近くで横顔を見るとショートの黒髪や整った顔つきがよりはっきりと目に残る。
「じゃあ、マッサージから始めますね。」
手にマッサージオイルを伸ばし、耳を温めながら伸ばしていく。
「ずいぶん余裕じゃないか、後輩。そんなゆっくり耳をマッサージしてていいのか?」
宮古先輩の挑発に乗せられてはいけない。このマッサージは穴のチェックもあるが、耳を温めるのは、後の心地よさを与えるためには必須。そしてパッと見ただけでも、宮古先輩は耳も少し小さい。耳穴が狭いことも考慮すれば念入りにやるに越したことはない。
「まあ、見ていてください。」
穴の中を見ると、飴状の耳垢が壁を覆っている。今までの乾燥耳とは違うタイプだ。耳毛も薄いので、カットの必要もない。
先輩の顔を観察しながら、赤らんだ頬で耳が温まったことを確信し、耳かきを手に取る。
「竹を使わないのか。」
「今の宮古先輩にはこっちの方がいいですから。」
手始めに手前の飴部分を掻き出していく。
「そうだよ柿人君!飴耳さんにはその耳かき!大物の飴耳垢は形崩れのリスクがあるけど、小物相手なら、じゃんじゃんとれる!それが正解!」
「外野のアドバイスはルール違反だぞ。友梨奈。」
「そうよ友梨奈ちゃん。解説するなら、正解とかは言っちゃダメ。」
気の抜ける声とやり取りに思考が乱れる。解説とアドバイスの違いがあるのか。いや、この狂ったスポーツに常識で考えても無駄だ。手元に集中する。
「んっ、やっぱプロが言うだけあって上手いな。後輩。」
「そうなんですかね?自分じゃ良くわかりませんが・・・」
ステンレス製の円盤耳かき。全方位に無差別に取る事できるうえ、通常の耳かきと違い、鋭角に引っ掛ける事ができるので、形を変えやすい飴耳によって耳かきがすかされるリスクを低減できる。
「まあ、ステンレスを使えばいいってもんじゃない。どの道具でも使いこなさないと意味がないからな・・・んんっ」
宮古先輩は意外と頑固なようだ。とってもとってもまだ残る耳垢のように。
しかし、ステンレスだけにこだわるわけではない。
「じゃあ、次はこれでいきましょう。」
綿棒。飴耳にはいきなり使うことも多いが綿棒は耳垢の形を崩してしまいやすいので、一定以上の大きさがある間は使わない。逆を言えば、形を保てないほど細かい垢にはむしろ積極的に使うべきだ。
「本当に節操がないなお前・・・」
「なんとでも言ってください。」
綿棒をイヤーリムーバーにつけて、外耳道の耳垢を一掃。更に。
「んん!?」
「ああ!?みゃーちゃんが乙女の声を!!」
新たな綿棒を手に取り、耳介のツボを押していく。元いた世界ではリラックスして熟睡するためのツボ。思いの外効果があるらしい。
「リラックスしてきましたね。大物はこれで取りますよ。」
再びステンレスの耳かき。今度は宮古先輩と同じタイプの物。マッサージツボ押しで温まり、リラックスすることでできた壁と大物の隙間に慎重に、しかし容赦なく耳かきを差し込む。
「んんん!?」
「獲った!!」
素早く掻き出し、更に持ち変える。
「後輩、なにを!?」
「仕上げです!」
梵天で一気にくすぐっていく。そしてついでに押せるツボを片っ端から押していく。やばい。クールな先輩が面白いぐらい反応してるのがたのしい。
「あああああ!!」
「そこまでするのね・・・柿人君・・・」
「クッション投げられたの、そんなに根に持ってるのかな・・・」
一通り押し終わり、耳かきを引き抜く。
「はい、おしまいです。どうですか?宮古先輩?たくさん道具使うのもありでしょ?」
「友梨奈、タイム。」
「え?あー。5分10秒だね。仕上げが滅茶苦茶長かったかなーって。思うな?でもリラックスというか、気持ちよさは明らかだから技術点は高くとれるかも。」
「え!?僕、そんなにやってました!?」
耳かきに毒されてる自覚はあるが、時間を忘れられるほどだとは思わなかった。
「お前の技術は認めるし、道具の使い分けやマッサージもよかった。けど、どうも途中で自分本位で耳かきを楽しんじまうみたいだな。技術点はそれでも高まるが必要以上に時間をかけるんじゃ、市大会にでるにはまだきつい。もっと、自分をコントロールする必要がある。」
「そうだね。みゃーちゃんが途中からおしゃべりする余裕がなくなるほど追い詰められる技術はあるけど、それで調子に乗っちゃダメだよねー・・・ヘブッ!」 クッションに友梨奈先輩の顔が埋まり、話は続く。
「なんにせよ、感情のコントロールと、ルールの正確な把握だな。幸い、大会まではまだ2ヶ月くらい時間がある。それまでには仕上がるだろ。」
2ヶ月。市大会という目標。狂ったスポーツである耳かきではあるが、中学時代に戦力外で実質帰宅部だった自分にとって、狂ったスポーツだとわかっていても、大会で上を獲ることに魅力を感じないというのは難しい相談だった。
耳かきの準備をしつつ、宮古先輩への抗議を忘れない。いや、わざとでは無いとはいえお腹の方を向いたのは自分にも非があるが、ルール上問題ないなら理不尽なこと。そう、正当な意見の主張はしっかりとするべきだ。
「ルールに則って膝枕されても試合の後相手の体のことをいきなり言うのはノンデリだよねー。私もちょっと引いたもん。」
「部員じゃなければぶん殴ってた。」
「そこまで言います・・・?」
とにかく、テクニックを褒めるつもりでも体に絡めた感想を言うのは厳禁らしい。
「おし、いいぞ。」
宮古先輩の頭が膝に乗る。クールな印象があったが、近くで横顔を見るとショートの黒髪や整った顔つきがよりはっきりと目に残る。
「じゃあ、マッサージから始めますね。」
手にマッサージオイルを伸ばし、耳を温めながら伸ばしていく。
「ずいぶん余裕じゃないか、後輩。そんなゆっくり耳をマッサージしてていいのか?」
宮古先輩の挑発に乗せられてはいけない。このマッサージは穴のチェックもあるが、耳を温めるのは、後の心地よさを与えるためには必須。そしてパッと見ただけでも、宮古先輩は耳も少し小さい。耳穴が狭いことも考慮すれば念入りにやるに越したことはない。
「まあ、見ていてください。」
穴の中を見ると、飴状の耳垢が壁を覆っている。今までの乾燥耳とは違うタイプだ。耳毛も薄いので、カットの必要もない。
先輩の顔を観察しながら、赤らんだ頬で耳が温まったことを確信し、耳かきを手に取る。
「竹を使わないのか。」
「今の宮古先輩にはこっちの方がいいですから。」
手始めに手前の飴部分を掻き出していく。
「そうだよ柿人君!飴耳さんにはその耳かき!大物の飴耳垢は形崩れのリスクがあるけど、小物相手なら、じゃんじゃんとれる!それが正解!」
「外野のアドバイスはルール違反だぞ。友梨奈。」
「そうよ友梨奈ちゃん。解説するなら、正解とかは言っちゃダメ。」
気の抜ける声とやり取りに思考が乱れる。解説とアドバイスの違いがあるのか。いや、この狂ったスポーツに常識で考えても無駄だ。手元に集中する。
「んっ、やっぱプロが言うだけあって上手いな。後輩。」
「そうなんですかね?自分じゃ良くわかりませんが・・・」
ステンレス製の円盤耳かき。全方位に無差別に取る事できるうえ、通常の耳かきと違い、鋭角に引っ掛ける事ができるので、形を変えやすい飴耳によって耳かきがすかされるリスクを低減できる。
「まあ、ステンレスを使えばいいってもんじゃない。どの道具でも使いこなさないと意味がないからな・・・んんっ」
宮古先輩は意外と頑固なようだ。とってもとってもまだ残る耳垢のように。
しかし、ステンレスだけにこだわるわけではない。
「じゃあ、次はこれでいきましょう。」
綿棒。飴耳にはいきなり使うことも多いが綿棒は耳垢の形を崩してしまいやすいので、一定以上の大きさがある間は使わない。逆を言えば、形を保てないほど細かい垢にはむしろ積極的に使うべきだ。
「本当に節操がないなお前・・・」
「なんとでも言ってください。」
綿棒をイヤーリムーバーにつけて、外耳道の耳垢を一掃。更に。
「んん!?」
「ああ!?みゃーちゃんが乙女の声を!!」
新たな綿棒を手に取り、耳介のツボを押していく。元いた世界ではリラックスして熟睡するためのツボ。思いの外効果があるらしい。
「リラックスしてきましたね。大物はこれで取りますよ。」
再びステンレスの耳かき。今度は宮古先輩と同じタイプの物。マッサージツボ押しで温まり、リラックスすることでできた壁と大物の隙間に慎重に、しかし容赦なく耳かきを差し込む。
「んんん!?」
「獲った!!」
素早く掻き出し、更に持ち変える。
「後輩、なにを!?」
「仕上げです!」
梵天で一気にくすぐっていく。そしてついでに押せるツボを片っ端から押していく。やばい。クールな先輩が面白いぐらい反応してるのがたのしい。
「あああああ!!」
「そこまでするのね・・・柿人君・・・」
「クッション投げられたの、そんなに根に持ってるのかな・・・」
一通り押し終わり、耳かきを引き抜く。
「はい、おしまいです。どうですか?宮古先輩?たくさん道具使うのもありでしょ?」
「友梨奈、タイム。」
「え?あー。5分10秒だね。仕上げが滅茶苦茶長かったかなーって。思うな?でもリラックスというか、気持ちよさは明らかだから技術点は高くとれるかも。」
「え!?僕、そんなにやってました!?」
耳かきに毒されてる自覚はあるが、時間を忘れられるほどだとは思わなかった。
「お前の技術は認めるし、道具の使い分けやマッサージもよかった。けど、どうも途中で自分本位で耳かきを楽しんじまうみたいだな。技術点はそれでも高まるが必要以上に時間をかけるんじゃ、市大会にでるにはまだきつい。もっと、自分をコントロールする必要がある。」
「そうだね。みゃーちゃんが途中からおしゃべりする余裕がなくなるほど追い詰められる技術はあるけど、それで調子に乗っちゃダメだよねー・・・ヘブッ!」 クッションに友梨奈先輩の顔が埋まり、話は続く。
「なんにせよ、感情のコントロールと、ルールの正確な把握だな。幸い、大会まではまだ2ヶ月くらい時間がある。それまでには仕上がるだろ。」
2ヶ月。市大会という目標。狂ったスポーツである耳かきではあるが、中学時代に戦力外で実質帰宅部だった自分にとって、狂ったスポーツだとわかっていても、大会で上を獲ることに魅力を感じないというのは難しい相談だった。
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