EAR OF YOUTU

チャッピー

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20話

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 グラウンドを駆ける。走るのは嫌いではない。中学生まではサッカーをしていたし、体を動かすことはむしろ好きだった。周りがうまくて、自分が下手だったから、試合には出れなかったけれど。
 外から音は聞こえない。イヤホンのノイズキャンセリング機能が、自分の外にある音を遮断し、ASMR部制作の耳かき音を耳の奥に流し込む。
 代謝を上げ、自分の耳垢を適正量に増やすと共に、擬似的な耳かきを日常に取り入れることで受けがわとしての耐性を上げる歴としたトレーニング、らしい。
 本来はASMRトレーニングは他のトレーニングと併用しないらしい。快感に耐えながら他のトレーニングをするのが難しいのだそうだ。
 しかし、ASMR自体は自分も元から慣れ親しんだ物。膝枕で耳かきされたいという欲求のきっかけはそもそもそれであり、自分にすれば、それはトレーニングにもならない。音圧程度の刺激では、走りのペースは乱れない。
「お前、そこまでやってて耳かき知らなかったの逆にすごいな。」
 と、宮古先輩はドン引きし、
「やっぱり柿人くんは耳かきをするために今までの人生を生きてきたんだよ!」
 と友梨奈先輩に不名誉な生きる理由を設定され、
「柿人くんは、うん。その、相当変わってるね・・・」
 伊織には言葉を選ばれた。

 トレーニングは楽しい。耳かきも楽しい。スポーツが違うとはいえ、サッカーの時のように試合に出れないと言うこともない。けれど、物足りない。
 自分は偶々だ。この世界で耳かきを少しうまくやる才能と知識があり、偶々ASMRで受けの耐性も持っていただけだ。
 それだけでそこそこに戦えてしまっている。何周目かのゴールを過ぎる。速度を落とさず更に周回を重ねる。悩みは頭を、体はグラウンドを回り続ける。

「試合に出れるだけでありがたいはずなのにな。」
 
 物足りなかった。友梨奈先輩の言われるがままに大会に出る。これはいい。出ない理由はない。耳かきは楽しい。スポーツで自分が必要とされるのが嬉しい。けれど。
 伊織のように何がなんでもやりたいと言う情熱や、友梨奈先輩のようにその楽しさが全てを上回るような熱に、あるいは、そんな友梨奈先輩のために最後まで部活にのこる宮古先輩のように。自分になにか、そんな動機があるだろうか。
 汗が流れる。思考もネガティブに流れていく。

「なんだって耳かきでこんなに悩んでるんだ。」
 
 ゴールラインを越えて、立ち止まる。息が上がっている。気づかないうちに周りすぎてしまったらしい。

「おーお疲れ。後輩。ほれ。差し入れ。」
「宮古先輩。どうも。」
 缶ジュースを片手に宮古先輩が後ろから声をかけてくる。放られた1本を受け取り、プルタブを開ける。冷たい感触と缶の弾ける音が心地よい。
「珍しいですね。人の練習に顔出すの。」
 宮古先輩は人のことはよく見てる方だが、友梨奈先輩以外にはあまり関心がないかと思っていた。

「大会出るの決まってから、焦ってるだろ。」
「・・・そりゃ、初めての公式戦ですから、緊張くらいは僕もしますよ。それにスコア自体は問題ないでしょう?」
 自分でも整理がつかないことを、他人に言っても仕方ない。そもそも、この世界の異常さを感じているのも自分だけだ。
「確かにね。タイムはよくなっている。技術点も悪くない。けど、悩みがあるなら、ちゃんと整理した方がいい。私に話せないなら伊織と男同士話してみてもいい。大会出るまでにちゃんと解決しておきな。せっかくの大会を楽しめないのは勿体無いよ。」
「・・・・・・ありがとうございます。考えてみます。」
 宮古先輩は悪くない。悪いのは自分だ。誰が言えるだろう。「自分は大した努力をしていないのに、勝ててしまっていることが、申し訳ない、物足りない」と思ってるなんて。
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