EAR OF YOUTU

チャッピー

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21話

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「柿人君は高校に入ってから耳かきをはじめたんだよね?」
 伊織は唐突に聞いてくる。画面にはWIN!!の文字列が点滅し、ハイスコアを示していた。スポーツとして発展した耳かきは当然のように、ゲームセンターにも耳かきゲームが置かれている。備え付けのスティックで汚れをとっていくだけの他愛のないゲームだ。
「ん?ああ。そうだけど。」
「でも、めちゃくちゃ上手いじゃない。」
「ゲーセンと本当の耳かきは違うって。それにそれを言うなら伊織の方が上手いさ。会長とのアレでやったの、僕はできないよ。」
「姉さんの耳は広いからね。広い耳の人相手ならコツを掴めば結構できるよ。それよりも柿人君は使い分けと切り替えの速さが凄いじゃないか。」
 切り替えが少し早いことこそ、誰でもできることのように思えるが、何故かこの耳かきの世界ではそれは一つの才能になるらしい。
 コインをもう一度入れていく。さらに一つ上の難易度をセットする。
「お、ベリーハードもいく?やっぱり物足りなかった?」
「うん。」
「じゃ、僕もやろうかな。」
 伊織もコインを入れると同じ難易度にセットする。
「なあ、伊織。」
「なに?」
「どうして、あの時、耳かき部に入ってくれたんだ?」
 ゲームがスタートする。スティックを動かし、画面の耳かき棒を汚れに合わせていく。
 伊織も画面から目を離すことなく、口だけを動かす。
「僕は姉さんにしてもらったのがきっかけでね。中学に入る頃には男性プロも増えてきてたからさ。耳かき部に入ったんだ。」
「受けの練習しかさせてもらえなかったんだよな?」
「そうさ。それこそ、典型的な耳かき男性蔑視だよ。伝統ある中学だったからかな。古き良き、じゃないけど。耳かきは女性のものだったのさ。」
「会長は耳かき部じゃなかったのか?」
「勉強の方が好きだったんだよ。あの人。変わってるよね。」
 伊織は苦笑する。画面に表示される汚れが消えると、next stageの表示に従い、自分と伊織の汚れが更新される。
「まあ、それで、僕はその時結構ひどい外耳炎になっちゃってさ。耳かきプレイヤーに外耳炎はつきものだけど、僕のは一時期は本当にもう耳かき生命を絶たれるところだった。耳かきを長くやるためには耳かき部を辞めるしか無かったんだ。」
 外耳炎で選手生命が絶たれるって・・・
「姉さんはそれを知って責任を感じちゃったみたいでね。自分が耳かきなんて教えたからだって。でも、関係ないじゃない。こんなに楽しいこと、多分知ったら姉さんが何しようが僕は同じことをしてた。楽しいから、何が何でもやりたくて、それで、ありがたいことにたまたま、ちょっと才能があっただけなんだ。」
 このステージの汚れは手強い。が、口を動かしながらでもまだ全然対応できる。伊織も、顔色は変わらない。
「宮古先輩から聞いたよ。なんか悩んでるの?」
 あの人思ったより口軽いな・・・
「まあ、うん。耳かきは楽しいんだけどさ。俺、友梨奈先輩に流されて、そのままやってさ。」
「嫌なの?」
「嫌じゃないんだ。けど、友梨奈先輩や伊織見たいに何が何でもって情熱があるわけじゃないし、なんかそんな気持ちなのに、そこそこに勝てちゃってるからさ。手加減されただろうけど、プロともそこそこ戦えたし。」
「強い相手がいない?」
「嫌味みたいじゃないか。そんなこと言ったら。」
 伊織は横に降る。ふたりの画面は再びfinal stageの表記とともに一新される。
「いや。試合するなら強い相手とやって勝ちたいのは当たり前じゃないかな。」 
「でも、俺、たまたま何かできてるだけでみんなみたいに努力も出来てないし、それで勝つのがなんか。」
「ズルしてるみたいって?何言ってるんだよ。」
 そうだ。こんなのただの嫌味になってしまう。流石の伊織も機嫌を損ねたのか、むっつりとした表情をしている。
「いいじゃん。才能くらいズルしたって。高校耳かきで見せてやろうよ
。天才男性耳かきプレイヤーと、外耳炎から帰ってきた男性耳かきプレイヤーってさ。女性だけじゃない。耳かきには男性もいるぞ!って。」
「そりゃ伊織の願望でしょ。」
「男性耳かきプレイヤーの願望だよ。」
 画面の BOSSと表記された汚れに慎重に当てていく。
「伊織?」
「羨ましいよ。耳かきを知らなかったけど、才能があって、良い先輩に恵まれて、最高の環境でスタートを切れて。でも、それを君が申し訳なく感じてるのはなんか嫌だからさ。」
 伊織は苦しさすらある声でかたりかける。
「やめてほしくないんだ。やりたくても出来ない耳かき男子はまだ沢山いるから。君みたいな人が主人公みたいに。耳かきでトップをとってほしいんだよ。」
 まだ、わかりそうになかった。耳かきに狂ったこの世界は、自分にとっては底抜けにアホな笑顔をする友梨奈先輩のイメージが強い。
 こんな暗い顔をするような世界には見えない。けれど、この世界で異常なのはいつだって自分の方だ。そして、こんなに必要とされることが、自分にあるだろうか。
「んなこと言ったってさ・・・俺は友梨奈先輩みたいには出来ないよ。やっぱ。」
「そこにいて、勝てば、それだけで色んなものがついてくるよ。耳かきでは男と女はちがうから。君が、そこにいるってことに勇気づけられる人がいるんだ。君自身のモチベーションは上がらないかもしれないけど、僕は君がいることも大きなモチベーションになってるってことを、忘れないでほしいかな。」
 2人の画面は既にclearが表示されており、new recordとともに文字の入力が可能になっていた。
「同点だね。もう一個上もやる?」
「いや、今日はもう良いよ。流石にちょっと疲れた。」
 名前の頭文字を入力し、画面から離れる。
「それもそうだね。柿人君。」
「ん?」
「友梨奈先輩も宮古先輩も、僕も、君が思ってるよりは君が耳かきをしてることに感謝してるんだよ。」
「わかった。」
 まだ、迷いはある。でも、今は市大会で結果を残すことを考えるだけでいい。仲間が必要としてくれているから。
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