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3.天啓
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シアさんを姿が見えなくなるまで見送ってから、見張りをしている警備兵に声をかけて神殿の中へと入る。通路を歩いても誰ともすれ違わずに自室に着いた。まだ夜中だし寝ている人が多いんだろう。
日によっては夜更けに行う祈りの儀もあるが、今日は特に何もない日だ。規則正しい生活をする彼らは、用事もないのに夜に出歩く事は殆どない。
いつもなら、帰りが遅い時は心配して待っていてくれる先輩神官の姿がなかったが、高齢だし待ち疲れて先に寝てしまったかもしれない。朝になったら会いに行こう。
「あ~、疲れた!」
ベッドにごろりと転がって伸びをする。
机や本棚といった家具を置いた部屋の中は狭いが、相部屋が基本である見習いに個室が与えられているだけで待遇はよかったりする。それも稀有な能力を持っていたからであって、今現在は神殿のお荷物。その内、相部屋に移動させられるかもしれないけど。
俺には『天啓』という力がある。いや、あった。
神託を『夢』で視る。『夢』で視たことは、現実でも必ず起こった。
内容は大小さまざま。遠くで起きた火山の噴火や、河の氾濫等の大災害で大勢の人が助かった時は涙ながらに感謝された。
小さなものでも、神様が見せる『夢』として微笑ましく受け取られた。
その力を聞きつけて、俺が当時世話になっていた孤児院から神殿に連れてこられたのは今から4年前。
その頃は「神々しい姿に御力、まさに神の御使いですぞ!」なんて崇められて随分ちやほやされたもんだけど、2年前のある日、すごく可愛い女の子がただ笑っただけだっていう、なんとも中途半端な『夢』を視たっきり新しい神託は俺に降りてこなくなった。
後から思えば天使みたいな綺麗な顔の女の子だったし、これが最後の『夢』だったし。神様が「今まで神託をよく皆に伝えてくれました。お疲れ様」って笑顔でさよならしたのかな、とも思ったりもした。神様が女の子か知らないけどさ。
神から与えられた特別な能力がある、ならきっと神官魔法の優れた使い手になるだろうと期待されていたが、何年修行しようとも神官魔法の初歩の初歩、回復すらまともに習得できなかった。
『天啓』も失われ、神官見習いとしてもお粗末な能力。
もうさ、周囲のあの期待に輝いていた目がどんどん蔑んだものをみるようになる過程はキツかったね・・・・・・期待が大きかった分の反動が倍になって噴出してたよ。俺だって好きでこうなったんじゃねーよ。
今でも毎日の修行は欠かさないし、回復だってほんの少し、ほんの少ーしは上手くはなってるんだよ。親指一つ分の傷が、親指二つ分は治せるようになったぐらいにはさ!
あぁ、ダメだ。思い出したら泣きたくなってきたわ。
――しかし、だ。
目尻を拭い、目を瞑る。
今日あったことを頭の中で反芻する。
今日は朝から先輩神官に頼まれて、神殿と懇意にしている、街中に住んでいる学者の所へ資料を取りにまわった。最後に行った家で、夜も遅いからと家人を付けてもらったのだが――
「昨日の『夢』は、やっぱ天啓なのか・・・・・・?」
そう、不思議な夢を見た。
先輩神官に頼まれて街へ行き、神殿への帰りに家人を付けてもらうまでを。
初めて会った学者の顔も、服装も、話す言葉も、全部『夢』で見た通りだった。
「けど、『天啓』なら結末まで見るはずだし」
今回のことで言えば、俺が男に襲われかけた後シアさんに助けられて神殿に帰るまで。
こんな中途半端な『夢』は、例の笑顔の女の子以外で見たことはなかった。
誰かと一緒に見ているような、頭に直接訴えかけるような、普通に見ている夢と違う感覚。
感覚自体は『天啓』だ。でも――俺は、自分のことを視たことは一度もない。
「・・・・・・・・・・・・神様も何考えてんだろうなぁ」
『夢』を見せたり見せなかったり。
いたいけな少年の人生を掌で転がして、何が楽しいんだろうか。
考えるには材料が足りなすぎるので、この件は誰にも言わずに一旦保留しておこう。
(『天啓』がまた見られるようになったなんて言ったら、ザグルさん、感激のあまり天に召されるんじゃ・・・・・・)
孤児院まで俺を迎えに来、この神殿内でいまだに何くれとなく心を砕いて接してくれる、過保護な先輩神官の顔を思い浮かべた。彼の為にも、もう一度力が戻ればよいなとは思う。俺に関わるせいで、あの人も他の神官から陰口を叩かれてたりするからなぁ。
構わなくても大丈夫だという俺に、心優しい先輩神官は聞く耳をもってくれないのだ。今日もきっと、遅くまで待っていてくれたに違いない。嬉しいけど心苦しい。
「考えても仕方ないし。寝るか」
寝ないと、見られる『夢』も見れないしな。
ベッドの脇のテーブルに置いてある灯りを消し、毛布をかける。
(――・・・・・・そういえば)
シアさんってあの女の子にちょっと似てるかも?
女の子は肩にかかる金糸の髪に、赤みがかった琥珀色の瞳だった。
シアさんが笑う所は想像できないが、彼女を子供にしてみたらいい線いってるかも。
「今度会えたら、家族や親戚に顔が似ている女の子がいないか訊いてみようかな」
『天啓』が現実になるのに2年も空いた事はないが、あの『夢』自体おかしなものだ。
もしかしたら、世界の何処かには、あの女の子は実在しているのかもしれない。
会って、その子の笑顔を見てみたい。
想像して苦笑した。
ほんとに小さな夢だなぁ。
『天啓』がなくなった、最後の『夢』。
あれが意味のある『夢』だったらと願いつつ、つらつら考えている内に知らず眠気がやってきて。
疲れきっていた俺は、夢も見ずに朝を迎えたのだった。
日によっては夜更けに行う祈りの儀もあるが、今日は特に何もない日だ。規則正しい生活をする彼らは、用事もないのに夜に出歩く事は殆どない。
いつもなら、帰りが遅い時は心配して待っていてくれる先輩神官の姿がなかったが、高齢だし待ち疲れて先に寝てしまったかもしれない。朝になったら会いに行こう。
「あ~、疲れた!」
ベッドにごろりと転がって伸びをする。
机や本棚といった家具を置いた部屋の中は狭いが、相部屋が基本である見習いに個室が与えられているだけで待遇はよかったりする。それも稀有な能力を持っていたからであって、今現在は神殿のお荷物。その内、相部屋に移動させられるかもしれないけど。
俺には『天啓』という力がある。いや、あった。
神託を『夢』で視る。『夢』で視たことは、現実でも必ず起こった。
内容は大小さまざま。遠くで起きた火山の噴火や、河の氾濫等の大災害で大勢の人が助かった時は涙ながらに感謝された。
小さなものでも、神様が見せる『夢』として微笑ましく受け取られた。
その力を聞きつけて、俺が当時世話になっていた孤児院から神殿に連れてこられたのは今から4年前。
その頃は「神々しい姿に御力、まさに神の御使いですぞ!」なんて崇められて随分ちやほやされたもんだけど、2年前のある日、すごく可愛い女の子がただ笑っただけだっていう、なんとも中途半端な『夢』を視たっきり新しい神託は俺に降りてこなくなった。
後から思えば天使みたいな綺麗な顔の女の子だったし、これが最後の『夢』だったし。神様が「今まで神託をよく皆に伝えてくれました。お疲れ様」って笑顔でさよならしたのかな、とも思ったりもした。神様が女の子か知らないけどさ。
神から与えられた特別な能力がある、ならきっと神官魔法の優れた使い手になるだろうと期待されていたが、何年修行しようとも神官魔法の初歩の初歩、回復すらまともに習得できなかった。
『天啓』も失われ、神官見習いとしてもお粗末な能力。
もうさ、周囲のあの期待に輝いていた目がどんどん蔑んだものをみるようになる過程はキツかったね・・・・・・期待が大きかった分の反動が倍になって噴出してたよ。俺だって好きでこうなったんじゃねーよ。
今でも毎日の修行は欠かさないし、回復だってほんの少し、ほんの少ーしは上手くはなってるんだよ。親指一つ分の傷が、親指二つ分は治せるようになったぐらいにはさ!
あぁ、ダメだ。思い出したら泣きたくなってきたわ。
――しかし、だ。
目尻を拭い、目を瞑る。
今日あったことを頭の中で反芻する。
今日は朝から先輩神官に頼まれて、神殿と懇意にしている、街中に住んでいる学者の所へ資料を取りにまわった。最後に行った家で、夜も遅いからと家人を付けてもらったのだが――
「昨日の『夢』は、やっぱ天啓なのか・・・・・・?」
そう、不思議な夢を見た。
先輩神官に頼まれて街へ行き、神殿への帰りに家人を付けてもらうまでを。
初めて会った学者の顔も、服装も、話す言葉も、全部『夢』で見た通りだった。
「けど、『天啓』なら結末まで見るはずだし」
今回のことで言えば、俺が男に襲われかけた後シアさんに助けられて神殿に帰るまで。
こんな中途半端な『夢』は、例の笑顔の女の子以外で見たことはなかった。
誰かと一緒に見ているような、頭に直接訴えかけるような、普通に見ている夢と違う感覚。
感覚自体は『天啓』だ。でも――俺は、自分のことを視たことは一度もない。
「・・・・・・・・・・・・神様も何考えてんだろうなぁ」
『夢』を見せたり見せなかったり。
いたいけな少年の人生を掌で転がして、何が楽しいんだろうか。
考えるには材料が足りなすぎるので、この件は誰にも言わずに一旦保留しておこう。
(『天啓』がまた見られるようになったなんて言ったら、ザグルさん、感激のあまり天に召されるんじゃ・・・・・・)
孤児院まで俺を迎えに来、この神殿内でいまだに何くれとなく心を砕いて接してくれる、過保護な先輩神官の顔を思い浮かべた。彼の為にも、もう一度力が戻ればよいなとは思う。俺に関わるせいで、あの人も他の神官から陰口を叩かれてたりするからなぁ。
構わなくても大丈夫だという俺に、心優しい先輩神官は聞く耳をもってくれないのだ。今日もきっと、遅くまで待っていてくれたに違いない。嬉しいけど心苦しい。
「考えても仕方ないし。寝るか」
寝ないと、見られる『夢』も見れないしな。
ベッドの脇のテーブルに置いてある灯りを消し、毛布をかける。
(――・・・・・・そういえば)
シアさんってあの女の子にちょっと似てるかも?
女の子は肩にかかる金糸の髪に、赤みがかった琥珀色の瞳だった。
シアさんが笑う所は想像できないが、彼女を子供にしてみたらいい線いってるかも。
「今度会えたら、家族や親戚に顔が似ている女の子がいないか訊いてみようかな」
『天啓』が現実になるのに2年も空いた事はないが、あの『夢』自体おかしなものだ。
もしかしたら、世界の何処かには、あの女の子は実在しているのかもしれない。
会って、その子の笑顔を見てみたい。
想像して苦笑した。
ほんとに小さな夢だなぁ。
『天啓』がなくなった、最後の『夢』。
あれが意味のある『夢』だったらと願いつつ、つらつら考えている内に知らず眠気がやってきて。
疲れきっていた俺は、夢も見ずに朝を迎えたのだった。
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