欠落した世界を、君と生きる

木下美月

文字の大きさ
2 / 26
一章 失くしたモノ

しおりを挟む

 アールが言いたい事は大体わかっていた。僕の活動を批判しているんだ。
 いや、批判っていうのは僕の被害妄想か。彼はただ、合理的な活動ではないと教えてくれているんだ。
 僕だってわかっている。
 一昔前のドキュメンタリー作品が未だに人気なのは、感情や心を尊重していた過去の人間の実生活を追っていたからだ。
 合理性を追求し、心を非効率的だと捨て去って行く現代人は、過去の人間の思考と感情にエンターテイメント性を感じたんだ。だから需要がある。
 しかし、だからといって現代人がそれをテーマにした作品は全くウケない。当然だ。過去人のオマージュで作った作品を見るくらいなら、過去人の作品を見る。僕だってそうだ。
 なら、なぜ僕はウケない事をやってるんだろうか。現代の人々が求めているのは、完全無欠なコンピュータが創り上げた作品なのに。

「いらっしゃいませ」

「カプセル二時間使いたい」

 商業ビルの地下にあるヴァーチャルリアリティを提供する喫茶にて、受付にカードを見せてから室内に案内される。
 四畳程度の広さに一人が入れる大きさのカプセル型マシンが横たわっており、クッション性の凹みに身体を埋め、ケータイをマシンに接続する。
 仮想現実空間とはよく名付けたものだ。
 ゴーグルをつけてカプセルを閉じれば、そこには僕が望んだ世界が現れる。
 今日は大自然。映える緑と空の青を写した小川。せせらぎの音と鳥のさえずり。
 美しい、とは思う。
 けどそれだけじゃない。
 予防医学的効果を狙ってこの空間に入ったんだ。
 一昔前は心理学なんて学問が流行ったらしいけど、そのほとんどは現代人には適用されない。心理によって行動する習性が極端に少なくなったからだ。だから廃れ、一部のマニアにしか研究されなくなった。
 今は脳科学的観点から自分を動かすのが主流だ。僕もストレスを和らげる為にここに来たんだから。
 こうやって些細な癒しでも取り入れて行かなければ“反社会的人格障害”に陥ってしまうかもしれない。それこそまさにアールが心配している事だ。いや、彼は心配なんてしない。心が無いんだから。ただ、危惧しているに過ぎない。

『ユキ、気分はどうだ?』

 耳元のスピーカーから聞こえるのはアールの声。ケータイとアールは繋がっているから、アールは僕が仮想現実空間にいる事をわかっていて連絡してきたんだ。

「このまま幻想に閉じ込められていたいよ」

『幻想ではなく仮想だ。あまり物騒な事を言うものではない。昼食を買っておいたから真っ直ぐ帰って来ると良い」

「気が利くじゃん」

 連絡はそこで途絶えた。
 一日の大半を仮想現実空間で過ごす人もいるけど、僕には出来ないだろう。長居するとどうも疲れてしまう。それでもVRセラピーに頼って健康を保とうとしているんだから、テクノロジィの恩恵を享受していると言える。
 そんな中途半端な僕が昔の人間みたいに感情論を歌うから、不愉快だと人は言う。
 仕方がないじゃないか。
 この時代に生まれてしまったのが僕の不運なんだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

処理中です...