欠落した世界を、君と生きる

木下美月

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三章 狂ったコト

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「言わんこっちゃない……ここは大乱闘空域だ」

 停止した僕に追いついたシュウは、呆れ顔で説明してくれた。

「このフライト空間では空を飛ぶだけじゃなく、相手を撃ち落とす戦闘も出来る。他にも飛行技術を魅せるコンテストみたいな事をやってる空域もあるけど、とにかくこの空域では戦闘必至だ。飛び始めたばかりの初心者が来る場所じゃない……まぁ初心者には見えないけど」

 シュウに認められた飛行技術は嬉しいけど、戦闘ゲームなんてやった事ないから、僕は直ぐにここを去ろうと思った。
 しかしこの空域に入れば、そこは戦場。

「ユキ!」

 シュウの声が上から聞こえた。隣にいたはずなのに。
 肩甲骨の辺りが熱い。
 視界が回る。
 回りながら、堕ちて行く。
 気分が悪い。
 現実でもどん底なのに、
 仮想空間でも僕は堕ちなくちゃいけないのか?
 嫌だ。
 ずっと空を飛んでいたい。
 畜生。
 汚い言葉なら幾らでも知っている。
 穢れた僕でも空を飛べたのに。
 クソ。
 僕を墜としたのは誰だ。

「畜生っ!」

 銃弾を浴びた右翼を確認。もう使い物にならない。
 左翼は綺麗だ。しかし片翼では上手く飛べない。もがく様に回るだけだ。
 見切りを付けた僕は、翼をたたむ。
 データウィンドウを思い出す。僕のファンタジックなパフォーマンスを見せてやろう。
 右手に巨大な羽根を創り出す。それは鋼の様に硬い剣。
 上空を確認。
 あいつだ。
 戦闘機を見上げる。中では操縦士が嗤っているに違いない。
 殺してやる。

「ぶっ殺してやる!」

 大きく振りかぶって投げた剣は真っ直ぐ飛び、戦闘機に刺さる。瞬間、それは爆破し、僕の口角は自然に上がる。
 でも、まだだ。
 この空には僕を墜として嗤う奴が沢山いる。
 皆殺しだ。

「ユキ!大丈夫か?」

 地に堕ちる寸前、空の覇者を操る青年に受け止められた。
 格好いいじゃないか。
 青いドラゴンは乗客が増えた事を確認して、再び高度を上げる。

「シュウ、この乱闘に参加しよう」

 一瞬、驚いた様な表情を見せたシュウだけど、

「望むところだ」

 その笑みは今までで一番魅力的だった。


 綺麗な左翼を広げる。ナイフの様に鋭く尖った小さな羽根が、次々に左翼から放たれて行く。それは後方の戦闘機に刺さり、地に堕とす。
 前方ではドラゴンが火を吹いて三機も堕としていた。

「やるじゃん」

「そっちこそ」

 お互いに笑みを深くする。そもそも、現実世界の技術が幻想の魔法に敵うわけがないんだ。しかも手を組んだ僕らは無敵。
 この空域に残ってるのは僕ら以外に、後二機の戦闘機。
 銃弾がドラゴンの鱗に刺さる。しかし、それは大したダメージじゃない。狙い所が悪い。
 シュウはその腕をタクトの様に振るい、ドラゴンに火を吹かせる。そのブレスは一機を追い、もう一機はドラゴンの首に跨ったシュウを撃ち墜とそうと構える。
 勿論シュウもそれを察知し、直ぐ様ドラゴンのブレスをそちらに向ける。
 火から逃れられた一機は僕らの下方にいる。
 それを確認した僕は、データウィンドウを開く。剣の創造から一定時間が経過した為、再び創り出せる。
 これなら勝てる。
 僕はドラゴンの背から飛び降りる。
 シュウが慌てた様にこちらを見ている。
 構わない。
 堕ちる事と降りる事は同義ではない。
 風を浴びながら僕は下方の戦闘機に近付いた。状況確認を怠るから、僕の接近に気付けなかった。それが彼の敗因だ。
 僕は手に創造した羽根型の剣を両手で持ち、下に向けて思い切り振り下ろした。
 しかし。
 甲高い音を立てて壊れたのは僕の剣だった。

「くそっ!何が結界だ!戦闘機にそんな事出来るかよ!」

 直ぐに頭に流れてきた情報により、敵機が張っていた結界に阻まれたのだと理解した。結界は今の一撃で砕かれたが、それは僕の剣も同じ。
 そう、ここは現実じゃない。
 魔法を使えるのは僕らだけじゃない。
 僕はそれをわかっていなかった。
 それが僕の敗因か?
 僕が負けたのか?
 剣は時間が経たなければ創造出来ない。
 左翼の弾丸も同じだ。
 見上げれば、敵機が火に飲まれていた。
 残るはこいつだけ。
 しかし僕に残されたのは、機体にしがみつく飛べない身体のみ。
 振り落とされれば、負ける。
 気に食わない。
 堕ちる事も。
 自分が誰かに殺される事も。
 僕を殺していいのは、僕だけだ。

「あぁ!」

 僕は自分の手で左翼を引きちぎった。熱い。痛みまで再現するVRマシンは意地が悪い。
 だがやはり、この羽根は身体を離れると硬化するらしい。
 右手の拳に括り付けた。
 しっかり握る。
 振りかぶる。
 大きく、
 そして、
 力強く、
 振り下ろした。

 豪快な音を立てて戦闘機の防弾ガラスは砕け散り、操縦席の人間が露わにされる。拳が熱いけど、そんな事は些事。
 彼は一瞬驚いた様だけど、直ぐに機内の武器に手を伸ばす。
 しかし、僕の前で隙を見せたのは愚か。
 僕は迷う事なく、鋼の様に硬い拳を突き出した。
 ヘルメットごと破砕した人間の頭部を見て、僕は少し酔いそうだった。
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