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第15話
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呼びもしないのに執務室に現れたエドモンドを見て思い出した。
そういえばあの時、陛下が王妃に言っていたな。『エドモンドに執務を少しずつでもやらせろ。これは命令だ』って。
あの時は盛大に首を横に振っていた王妃だったが、流石に今の状況に危機感を抱いたのだろう。
まぁ、だからと言って勿論、自分は来ない。今、私がやってるのは殆どが王妃の仕事なんだけどね。
さて、突然執務室にやって来た2人の王子だが、そのやる気にはあまりにも大きな差があった。
初日、バーグが2人に書類を渡しそれぞれに決済を求めた。先に終えたのは予想に反して、エドモンドだった。ふとリシャールを見ると、書類を読みながら文官達と身振り手振りしながら何やら話し込んでいる。
バーグは次の書類をエドモンドに渡した。先程の書類より分厚いにも関わらず、先程より早く決済されて戻って来た。
流石に可笑しい。
「エドモンド殿下。そこに何が書かれていました? 私にご教授くださいな」
私が尋ねると分かり易く目が泳ぐ。
「もしや読まれていないのですか?」
するとエドモンドはあり得ない様な言い訳をした。
「僕は文字を読むと頭が痛くなるんだ!」
は? 耳を疑った。
周りの文官達も苦虫を噛み潰したような顔をして、エドモンドを見ている。
「…では今まで私が殿下にお持ちしていた書類の確認は、どうされていたのです?」
それでも相手は王太子だ。私は冷静に問い質す。すると…
「あれはお前達が1度ちゃんと確認したんだろ? だから問題ないと思ってサインした」
そう答える。
「つまり、確認もせずにサインだけして此方へ戻していた…と?」
「…あぁ…」
彼は不貞腐れた様な態度でぶっきらぼうに返事をした。
「僕だってやりたくてやっているんじゃ無い! 父上に押し付けられたんだ!」
エドモンドの言葉には流石に腹が立った。
確かに怪しいとは思っていた。だからやっぱりなとは思う。でも、疑惑の段階と実際に認められるのとは訳が違う。
この国には金が無い。だからと言って陛下に訴えてみても、彼はお前達に任せるとしか言わない。側妃がいた頃とまるで同じ状況なのだ。挙句の果てに陛下は、エドモンドが立太子して王太子と言う存在が出来ると、予算の決済までエドモンドに丸投げしたらしい。
これの何処が王なのか…? そして陛下から任されたエドモンドも実際に一緒に仕事をしてみると、やる気のかけらも見つけられなかった。
私やバーグを初めとする文官達は、限られた予算の中で一つでも多くの民からの要望に答えようと日夜頭を悩ませながら資金繰りをし、必死の思いで決済書類を作っていると言うのに……だ。
文官達も私と同じ気持ちなのだろう。先程とは違い鋭く侮蔑の籠った目で彼を見た。中には血が滲みそうな程拳を強く握り締めている者もいる。
このままエドモンドが此処にいては文官達の志気に関わる。
そう判断した私は、怒りを押し殺し出来るだけ平穏を保ちながらエドモンドに告げた。
「それ程嫌なら此処は私達にお任せ下さいませ。殿下には今まで通り決済だけお願いいたしますわ」
「本当か!?」
エドモンドは私の言葉に満面の笑みを浮かべた。
「では、後は頼んだ」
それでも彼は悪いとは思っているのか、文官達にそう声をかけ、そそくさと立ち去った。
その姿を見て皆、呆れた様にエドモンドが出て行った扉を見つめる。
「あれが王太子とは、この国は大丈夫なのか?」
リシャールがぼそっと呟いた。
「それを言われると耳が痛いわ」
リシャールの言葉に私は答えた。エドモンドが王太子になれたのは、私が嫁ぎ彼が協力な後ろ盾を得たからに他ならない。
「いや…そう言う意味じゃ無いんだ…すまない…」
リシャールはバツが悪そうに何故か謝罪した。
「いえ、私の方こそ…。気にしないで」
私達は何故かそう言って互いに謝り合いながら執務を続けた。
ところがである。これが王妃の逆鱗に触れた様だ。翌日、王妃に呼び出された私は彼女から叱責を受けた。
「あなた、エドモンドを執務室から追い出したらしいわね?」
「いえ、殿下ご自身がやりたく無いと仰ったのでお帰り願ったのです」
「たとえそれが事実だとしても、あの子がやる気を出す様に導くのが妃たる貴方の役目でしょう? あの子は軈てこの国の王になるのですよ? それでは困ります」
勝手な言い分だ。妃の一番の役割である子を産み育てる事を私から奪った貴方が、こんな時だけ私を妃と呼ぶのか…?
腹が立ってつい言い返してしまった。
「ですが子を導くのは母親である王妃様のお役目ではないのですか?」と…。
するとこの日から、王妃の私への嫌がらせが急加速する…。
そういえばあの時、陛下が王妃に言っていたな。『エドモンドに執務を少しずつでもやらせろ。これは命令だ』って。
あの時は盛大に首を横に振っていた王妃だったが、流石に今の状況に危機感を抱いたのだろう。
まぁ、だからと言って勿論、自分は来ない。今、私がやってるのは殆どが王妃の仕事なんだけどね。
さて、突然執務室にやって来た2人の王子だが、そのやる気にはあまりにも大きな差があった。
初日、バーグが2人に書類を渡しそれぞれに決済を求めた。先に終えたのは予想に反して、エドモンドだった。ふとリシャールを見ると、書類を読みながら文官達と身振り手振りしながら何やら話し込んでいる。
バーグは次の書類をエドモンドに渡した。先程の書類より分厚いにも関わらず、先程より早く決済されて戻って来た。
流石に可笑しい。
「エドモンド殿下。そこに何が書かれていました? 私にご教授くださいな」
私が尋ねると分かり易く目が泳ぐ。
「もしや読まれていないのですか?」
するとエドモンドはあり得ない様な言い訳をした。
「僕は文字を読むと頭が痛くなるんだ!」
は? 耳を疑った。
周りの文官達も苦虫を噛み潰したような顔をして、エドモンドを見ている。
「…では今まで私が殿下にお持ちしていた書類の確認は、どうされていたのです?」
それでも相手は王太子だ。私は冷静に問い質す。すると…
「あれはお前達が1度ちゃんと確認したんだろ? だから問題ないと思ってサインした」
そう答える。
「つまり、確認もせずにサインだけして此方へ戻していた…と?」
「…あぁ…」
彼は不貞腐れた様な態度でぶっきらぼうに返事をした。
「僕だってやりたくてやっているんじゃ無い! 父上に押し付けられたんだ!」
エドモンドの言葉には流石に腹が立った。
確かに怪しいとは思っていた。だからやっぱりなとは思う。でも、疑惑の段階と実際に認められるのとは訳が違う。
この国には金が無い。だからと言って陛下に訴えてみても、彼はお前達に任せるとしか言わない。側妃がいた頃とまるで同じ状況なのだ。挙句の果てに陛下は、エドモンドが立太子して王太子と言う存在が出来ると、予算の決済までエドモンドに丸投げしたらしい。
これの何処が王なのか…? そして陛下から任されたエドモンドも実際に一緒に仕事をしてみると、やる気のかけらも見つけられなかった。
私やバーグを初めとする文官達は、限られた予算の中で一つでも多くの民からの要望に答えようと日夜頭を悩ませながら資金繰りをし、必死の思いで決済書類を作っていると言うのに……だ。
文官達も私と同じ気持ちなのだろう。先程とは違い鋭く侮蔑の籠った目で彼を見た。中には血が滲みそうな程拳を強く握り締めている者もいる。
このままエドモンドが此処にいては文官達の志気に関わる。
そう判断した私は、怒りを押し殺し出来るだけ平穏を保ちながらエドモンドに告げた。
「それ程嫌なら此処は私達にお任せ下さいませ。殿下には今まで通り決済だけお願いいたしますわ」
「本当か!?」
エドモンドは私の言葉に満面の笑みを浮かべた。
「では、後は頼んだ」
それでも彼は悪いとは思っているのか、文官達にそう声をかけ、そそくさと立ち去った。
その姿を見て皆、呆れた様にエドモンドが出て行った扉を見つめる。
「あれが王太子とは、この国は大丈夫なのか?」
リシャールがぼそっと呟いた。
「それを言われると耳が痛いわ」
リシャールの言葉に私は答えた。エドモンドが王太子になれたのは、私が嫁ぎ彼が協力な後ろ盾を得たからに他ならない。
「いや…そう言う意味じゃ無いんだ…すまない…」
リシャールはバツが悪そうに何故か謝罪した。
「いえ、私の方こそ…。気にしないで」
私達は何故かそう言って互いに謝り合いながら執務を続けた。
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「あなた、エドモンドを執務室から追い出したらしいわね?」
「いえ、殿下ご自身がやりたく無いと仰ったのでお帰り願ったのです」
「たとえそれが事実だとしても、あの子がやる気を出す様に導くのが妃たる貴方の役目でしょう? あの子は軈てこの国の王になるのですよ? それでは困ります」
勝手な言い分だ。妃の一番の役割である子を産み育てる事を私から奪った貴方が、こんな時だけ私を妃と呼ぶのか…?
腹が立ってつい言い返してしまった。
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