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第五十話
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それは周りに居た生徒達も同じだ。
ここは県下でも有数の進学校にして入試に際して最難関高と言われる葵高なのだ。全国でも必ず名前が上がるほどレベルが高い有名進学校である。生徒は誰もが葵高の生徒である事に誇りを持っている。それを板額がまるで取るに足らない様な言い方をしたのだから仕方ない。
「葵高のレベルは確かに高いよ。
僕は今回の中間考査しか実際には経験してないけど、
あのテストで平均120点を前後ならかなりの物だよ。
でも、生徒同士の争いじゃ天井は知れてる。
その天井を超えるには違うアプローチが必要になるんだよ」
板額はたぶん緑川達が反発するあの様な言い方をしたのだ。僕はこの板額の言葉を聞いてそう思った。そしてそれは板額らしいとも思った。やり方が緑川に自身の本当の気持ちを吐露させたあの時と同じなのだ。このやり方は最初相手に強い反発感をもたらすが、同時にそれが相手の心の奥にあるリミッターを外させるのだ。だから一度その反発が溶けると一気に強い信頼、あるいは依存へと転がり落ちる。あの時の緑川や僕がまさにその通りだったのだ。今回の場合は、相手に自分の言葉と印象をより強く与える効果がある。
今まで僕は、板額が意図してこれをやっていると思っていた。しかし、意外に板額自身はまったく無自覚にこれをやっているのかもしれないと思うようになった。板額にとってはこういう言い方や態度が自然なのだ。最初は意図的に始めたことかもしれないが、いつしか板額にとってはこれが極々自然なやり方になっていたのだろ。
そこまで考えが及んだ時、僕はその事に強い既視感を覚えた。僕はそんな人間を他にも知っている。しかも知っているなんてもん生易しいもんじゃない。そこに気がついた僕は、板額がこういう態度を取るのにはもう一つまったく違う理由があるのではないか、という考えが突然、頭に浮かんだのだ。
そう、板額はあえてそう言う態度をするのは、他の誰に対してではなく、ただ一人、他でもない『僕』に対して見せているのではないか? そして板額はこの僕にとても大事な事を思い出させたいのではないか、と僕はそう思った。突拍子もない事の様に聞こえるだろうけどそう思うと何故か全て引っかかってた事がすっきりする様な気がするのだ。
ただ、そう考えるにはやはり一つ大きな問題があった。
その考えが正しいとするなら、僕と板額は過去に接点がなければならないのだ。しかも短時間の接触じゃない。ある程度長い期間一緒に過ごしていなければならない。しかし、僕は先月の連休明け、そう板額が僕のクラスに転校してくるまで板額をまったく知らないのだ。実際、あれから何度も記憶を掘り起こした。何度も言うが、板額はあれだけの美人だ。例え、幼い姿であろうと誰もが振り返るほど可愛い、それこそお人形の様な美少女だったはずだ。だったと言ったが当然、今も板額は美少女である。そんな女の子を僕の様な男の子が忘れるわけないのだ。アルバムや保存してある画像ファイルを見直してもみたが、やはり板額が転校する以前に僕との接点は見つける事ができ出来なかった。
「じゃあ違うアプローチって何よ?」
僕がそんな事を考えていたら、今度は緑川が少し挑戦的な聞き方でそう尋ねていた。
「賢い君の事だ、もう薄っすらとは分かってるともうよ、巴。
戦う相手が生徒じゃなければ試験で戦う相手は一つしかない。
試験その物じゃないか」
「あはははっ! 板額、それは私が最初に言った事じゃない。
試験に向き合う事は自分自身と戦う事だって」
板額の答えに緑川は少し馬鹿にした様に笑いながらそう答えた。
「違うよ、巴。
じゃあ、問おう。
試験って誰が作ってたっけ?」
「あっ……」
板額がそう言った途端、緑川の表情が変わった。それは僕を含む外野の生徒達もそうだった。
「もう分かっただろう。
これはあくまでテクニックだよ。
でもそれも動員しないとここの定期考査レベルでは満点は無理だ」
「試験を作った教師の癖や性分から答えを導き出す。
いえ、事前に何を私たちの求めて来るのか予想して備えるって事?」
さすが緑川だ、板額の言葉ですぐに回答を導き出した。
「そう、そう言う事。
とてもシンプルな答えだろう」
緑川の答えに板額は満足そうな笑みを浮かべながらそう言って頷いた。
ここは県下でも有数の進学校にして入試に際して最難関高と言われる葵高なのだ。全国でも必ず名前が上がるほどレベルが高い有名進学校である。生徒は誰もが葵高の生徒である事に誇りを持っている。それを板額がまるで取るに足らない様な言い方をしたのだから仕方ない。
「葵高のレベルは確かに高いよ。
僕は今回の中間考査しか実際には経験してないけど、
あのテストで平均120点を前後ならかなりの物だよ。
でも、生徒同士の争いじゃ天井は知れてる。
その天井を超えるには違うアプローチが必要になるんだよ」
板額はたぶん緑川達が反発するあの様な言い方をしたのだ。僕はこの板額の言葉を聞いてそう思った。そしてそれは板額らしいとも思った。やり方が緑川に自身の本当の気持ちを吐露させたあの時と同じなのだ。このやり方は最初相手に強い反発感をもたらすが、同時にそれが相手の心の奥にあるリミッターを外させるのだ。だから一度その反発が溶けると一気に強い信頼、あるいは依存へと転がり落ちる。あの時の緑川や僕がまさにその通りだったのだ。今回の場合は、相手に自分の言葉と印象をより強く与える効果がある。
今まで僕は、板額が意図してこれをやっていると思っていた。しかし、意外に板額自身はまったく無自覚にこれをやっているのかもしれないと思うようになった。板額にとってはこういう言い方や態度が自然なのだ。最初は意図的に始めたことかもしれないが、いつしか板額にとってはこれが極々自然なやり方になっていたのだろ。
そこまで考えが及んだ時、僕はその事に強い既視感を覚えた。僕はそんな人間を他にも知っている。しかも知っているなんてもん生易しいもんじゃない。そこに気がついた僕は、板額がこういう態度を取るのにはもう一つまったく違う理由があるのではないか、という考えが突然、頭に浮かんだのだ。
そう、板額はあえてそう言う態度をするのは、他の誰に対してではなく、ただ一人、他でもない『僕』に対して見せているのではないか? そして板額はこの僕にとても大事な事を思い出させたいのではないか、と僕はそう思った。突拍子もない事の様に聞こえるだろうけどそう思うと何故か全て引っかかってた事がすっきりする様な気がするのだ。
ただ、そう考えるにはやはり一つ大きな問題があった。
その考えが正しいとするなら、僕と板額は過去に接点がなければならないのだ。しかも短時間の接触じゃない。ある程度長い期間一緒に過ごしていなければならない。しかし、僕は先月の連休明け、そう板額が僕のクラスに転校してくるまで板額をまったく知らないのだ。実際、あれから何度も記憶を掘り起こした。何度も言うが、板額はあれだけの美人だ。例え、幼い姿であろうと誰もが振り返るほど可愛い、それこそお人形の様な美少女だったはずだ。だったと言ったが当然、今も板額は美少女である。そんな女の子を僕の様な男の子が忘れるわけないのだ。アルバムや保存してある画像ファイルを見直してもみたが、やはり板額が転校する以前に僕との接点は見つける事ができ出来なかった。
「じゃあ違うアプローチって何よ?」
僕がそんな事を考えていたら、今度は緑川が少し挑戦的な聞き方でそう尋ねていた。
「賢い君の事だ、もう薄っすらとは分かってるともうよ、巴。
戦う相手が生徒じゃなければ試験で戦う相手は一つしかない。
試験その物じゃないか」
「あはははっ! 板額、それは私が最初に言った事じゃない。
試験に向き合う事は自分自身と戦う事だって」
板額の答えに緑川は少し馬鹿にした様に笑いながらそう答えた。
「違うよ、巴。
じゃあ、問おう。
試験って誰が作ってたっけ?」
「あっ……」
板額がそう言った途端、緑川の表情が変わった。それは僕を含む外野の生徒達もそうだった。
「もう分かっただろう。
これはあくまでテクニックだよ。
でもそれも動員しないとここの定期考査レベルでは満点は無理だ」
「試験を作った教師の癖や性分から答えを導き出す。
いえ、事前に何を私たちの求めて来るのか予想して備えるって事?」
さすが緑川だ、板額の言葉ですぐに回答を導き出した。
「そう、そう言う事。
とてもシンプルな答えだろう」
緑川の答えに板額は満足そうな笑みを浮かべながらそう言って頷いた。
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