ハンガク!

化野 雫

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第五十六話

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 あっ……ちなみに緑川も好きになっている。緑川の場合は、僕が苦しかった時にそっと傍に居てくれた恩みたいなものもある。板額とはまた違った意味で今は大好きな女の子なのだ。

 そして板額も緑川も、僕にとってはたった一人の家族である母と共にとても大切な人になりつつあった。


 さて、また話がまたあらぬ方向へ流れてしまったので、元にも戻そう。

「板額、お前さ、今の時期、そんなタイツ履いてて暑くないの?」

 ここまで言われた僕はもう覚悟を決めて思ってた事をそのまま板額にぶつけた。

「与一は気になるのかい?」

 板額は小首を傾げてそう聞き返して来た。

「なんか、こんな蒸し暑い時期は蒸れそうでさ」

「与一、それってやっぱり僕のスカートの中の事想像してる?
 いつもの様に触った時に蒸れてるのは嫌って事かな?
 いや、ひょっとしてえっちな与一はそっちの方が好み?」

 僕がそう答えると、けらけら笑いながら板額がからかうように言った。

「違う! 心配してるんだ!
 それに僕はそんなマニアックな性癖は無いぞ!」

 正直に言うとそう言う状態で触った時の事を僕は思わず想像してしてしまっていた。そしてそんな状態の板額に触れてみたいとも思った。出来れば可愛く恥ずかしがってくれれば、なおの事良いって思った。でもそれはこの年頃の男の子なら正常な反応だ。決して僕がおかしいとか変態って事ではないはずだ。誰だってそんな妄想をするに違いない……と思いたい。

 ちなみに、中間考査などがあって板額……まあ緑川ともだけど……キスはたまにしてたけどそれ以上のえっちな事は自粛してたので僕自身はまだ確かめてないのだ。進学校で有名な葵高の生徒たるもの、例え彼女の一人や二人いても、やはり定期考査期間中は勉学優先でなければならない。

「あっ、与一のその反応、絶対に想像してた!」

 僕の反応を見てなおも笑いながら板額はそう言った。まったくこいつはどこまで僕の事を分かってるんだろうか? 下手すると母以上に理解してる様な気すらする。怖い奴だ。でもだからと言って嫌いになれない。むしろここまで理解されてると安心感すらある。

「ああっ、そうですよ!
 どうせ僕はえっちな変態さんだよ……」

 こうなってはどれだけ口で言い訳したって相手が板額じゃ分が悪い。ここは経験上、開き直った方が良いと僕は判断した。

「与一、素直に認めちゃうんだ。
 ちょっと意外」

「お前相手に下手な言い訳は逆にドツボに嵌るわ」

「そう言われると何か嬉しいやら悲しいやら不思議な気分」

 板額はそう言って大げさに『テヘペロ』と言う仕草をした。こんなわざとらしい仕草でもこいつはやっぱり可愛いんだよな、と僕はやっぱり反射的に思ってしまう。僕の前ではかなり素直になった緑川でもここまではない。と言うかやっぱり緑川のそれと板額のは、表向きは似てても根っこの部分が全く違う様な気がしてならないのだ。でもそれが何かとはなかなか言葉で言い表せないもどかしさがある。 

「でもさ、考えてみたら女子のタイツって、
 男子の長ズボンとタイツって同じ様な物だよね。
 布地の厚み考えたらズボンの方が夏服でも厚い。
 それならあんまり変わらないって気もしてきた。
 むしろスカートなんか下が解放されてる分涼しいじゃないか?」

 ここで僕はあえて冷静かつ論理的分析を披露して自身の立場の回復を狙うのであった。

「確かにそう思えるよね。
 僕もスカート履く前はそう思ってた事もあるよ。
 でもスカートって最初はすかすかして頼りないけど、
 ミニならいざ知らず僕くらいの長さだと夏場は結構暑いんだよ。
 だって上は閉まっていて暑い空気が溜まっちゃうからね。
 それに肌にぴったりしてるタイツやパンストは生地は薄くても、
 見た目より通気性が悪くてかなり暑くて蒸れて大変なんだよ。
 だから夏場は巴みたいに生足が一番!」

「じゃあ、お前もそうすりゃ良いのに」

「って与一は僕の生足が見たいって事?」

「馬鹿野郎! そう言う事じゃない!」

 まあ、見たくないと言えば嘘になる。いや実際は積極的に板額の生足を見てみたい。そう言えば僕はまだ板額の生足を見た事はないのだ。

 いや、今、板額は何か気になる言い方しなかったか? 僕は今の板額の言葉に妙な違和感を感じた。

「だから僕だって見かけは同じでもちゃんと夏仕様になってるよ。
 じゃあ、えっちな与一に見せてあげよう」

 ところが、次に言った板額の言葉で、僕はその違和感を考える事をあっさりと放棄してしまった。
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