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第7話
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「この様な立派なお迎えが来るとは意外でした。
しかし、あの館……町長と言うより完全に領主と言う感じですね」
黒髪のメイドは、二頭立てながら立派な箱馬車の窓から見えて来た町長の館に目をやりながら呟いた。
そうなのだ。
ここで滞在し商取引の申請をする為に町役場へ向かおうと酒場の女将に聞いた所、町役場は町長の屋敷が兼ねているとの事だった。メイドが、ならば館まで乗って来た馬車と馬で行くから納屋から出してくれと女将に頼むと、女将はその必要はないと答えた。そして、町長の館への公務ならタダで迎えが来るからここでしばし待てと言ったのだ。
迎えが来たと言うのでメイドが酒場の前に出て見ると、その場にはおよそ似つかわしくない箱馬車が止まっていた。しかも、メイドが店から出て来ると二人乗っていた御者の一人がすっと降りて来て馬車の扉を開けるとうやうやしく頭を下げたのだ。それはまるで主の賓客であるの淑女を出迎える様そのものだった。
「いくら国家公認万能メイドの身とは言えあの様な出迎えを受けると、
慣れぬこと故、何やらこそばゆい気持ちになりますね」
メイドは先ほどの事を想い出してクスリと笑った。
やがてメイドを乗せた馬車は、城塞と言う方がしっくりくるその館の周りに張り巡らされた深い堀を渡る跳ね橋を渡り、高い城壁の中へと入って行った。城壁にある吊り下げ式の厚い扉の下に付けられた鋭い杭がまるで口を開けた巨大な魔物の歯の様にも見えた。
一方、その頃、このメイドの主たる若い商人の方はカードを手に他の客たちと酒場のテーブルに居た。
「まったく、旦那、強いなぁ。
正直、カモにする気でいたのにこっちがカモにされそうだ」
テーブルを囲む男の一人が咥えた葉巻の灰を床に落としながら笑った。
「いやぁ……今日はたまたま運が良いだけですよ」
商人の男は言葉では謙遜しながら、目の前に積まれた銀貨をちらりと見て満足げな表情を浮かべた。
「それにメイドさん連れての行商なんて、
本当に羨ましいですなぁ。
もちろん商売や身の回りのお世話だけでなく、夜の方もでしょうなぁ」
葉巻の男の隣に居た男がそう言って、琥珀色の液体がこぼれんばかりに注がれたショットグラスを一気に煽ってから少し下卑た笑いをその口元に浮かべた。
「メイドと言ってもね、可愛い少女ならまだしも、
あれは結構な年増女ですから。
なんせ僕がちっちゃい頃から僕に仕えていたんですよ。
まあ、その分、今では色んな意味で親密な関係ではありますがね」
商人の男はそう言って意味ありげな笑みを浮かべて答えた。
「じゃあ、あんちゃん、あのメイドさんに手取り足取り、
さらには腰取りで色々教わった訳だ、羨ましいねぇ……。
あっ……一枚チェンジで……」
さらに、もう一人別の男がカードを一枚チャンジしながら、本当に羨ましそうな顔をして言った。
「じゃあ、勝負といこうか?
降りる奴は居ねぇか?」
「俺は降りるぜ」
葉巻を咥えた男がそう場を見回して尋ねると、最後にカードをチェンジした男が悔しげな顔でテーブルにカードを投げ捨てて吐き捨てる様に言った。
「じゃあ、オープンだ!」
男がカードを捨てた後、テーブルを囲む男達をぐるりと見回した後、一呼吸おいて葉巻の男がそう宣言した。同時に、商人の男を含めた残り三人が同時に手札を開く。
「AとKのフルハウス、また僕の勝ちですね」
葉巻の男は2と3のツーペア、もう一人のウイスキーグラスの男はQのスリーカードだった。
「おいおい、今度こそ俺の勝ちだと思ったのによ」
ウイスキーグラスの男があからさまに悔し気な表情を浮かべた。
「うわっ、マジかよ!
あんた、ツキまくりじゃないか!
身ぐるみ剥いでさらにはあのメイドさんも奪っちまおう
って考えてたのによ」
「あんた、実はあのこうやってメイドを撒き餌にして、
俺たちの様な奴らをカモにするプロじゃねぇのか?」
商人の男が各々の前に積まれた掛け金を、嬉しそうにかき集めるのを見ながら男達が感嘆の声を上げた。
しかし、あの館……町長と言うより完全に領主と言う感じですね」
黒髪のメイドは、二頭立てながら立派な箱馬車の窓から見えて来た町長の館に目をやりながら呟いた。
そうなのだ。
ここで滞在し商取引の申請をする為に町役場へ向かおうと酒場の女将に聞いた所、町役場は町長の屋敷が兼ねているとの事だった。メイドが、ならば館まで乗って来た馬車と馬で行くから納屋から出してくれと女将に頼むと、女将はその必要はないと答えた。そして、町長の館への公務ならタダで迎えが来るからここでしばし待てと言ったのだ。
迎えが来たと言うのでメイドが酒場の前に出て見ると、その場にはおよそ似つかわしくない箱馬車が止まっていた。しかも、メイドが店から出て来ると二人乗っていた御者の一人がすっと降りて来て馬車の扉を開けるとうやうやしく頭を下げたのだ。それはまるで主の賓客であるの淑女を出迎える様そのものだった。
「いくら国家公認万能メイドの身とは言えあの様な出迎えを受けると、
慣れぬこと故、何やらこそばゆい気持ちになりますね」
メイドは先ほどの事を想い出してクスリと笑った。
やがてメイドを乗せた馬車は、城塞と言う方がしっくりくるその館の周りに張り巡らされた深い堀を渡る跳ね橋を渡り、高い城壁の中へと入って行った。城壁にある吊り下げ式の厚い扉の下に付けられた鋭い杭がまるで口を開けた巨大な魔物の歯の様にも見えた。
一方、その頃、このメイドの主たる若い商人の方はカードを手に他の客たちと酒場のテーブルに居た。
「まったく、旦那、強いなぁ。
正直、カモにする気でいたのにこっちがカモにされそうだ」
テーブルを囲む男の一人が咥えた葉巻の灰を床に落としながら笑った。
「いやぁ……今日はたまたま運が良いだけですよ」
商人の男は言葉では謙遜しながら、目の前に積まれた銀貨をちらりと見て満足げな表情を浮かべた。
「それにメイドさん連れての行商なんて、
本当に羨ましいですなぁ。
もちろん商売や身の回りのお世話だけでなく、夜の方もでしょうなぁ」
葉巻の男の隣に居た男がそう言って、琥珀色の液体がこぼれんばかりに注がれたショットグラスを一気に煽ってから少し下卑た笑いをその口元に浮かべた。
「メイドと言ってもね、可愛い少女ならまだしも、
あれは結構な年増女ですから。
なんせ僕がちっちゃい頃から僕に仕えていたんですよ。
まあ、その分、今では色んな意味で親密な関係ではありますがね」
商人の男はそう言って意味ありげな笑みを浮かべて答えた。
「じゃあ、あんちゃん、あのメイドさんに手取り足取り、
さらには腰取りで色々教わった訳だ、羨ましいねぇ……。
あっ……一枚チェンジで……」
さらに、もう一人別の男がカードを一枚チャンジしながら、本当に羨ましそうな顔をして言った。
「じゃあ、勝負といこうか?
降りる奴は居ねぇか?」
「俺は降りるぜ」
葉巻を咥えた男がそう場を見回して尋ねると、最後にカードをチェンジした男が悔しげな顔でテーブルにカードを投げ捨てて吐き捨てる様に言った。
「じゃあ、オープンだ!」
男がカードを捨てた後、テーブルを囲む男達をぐるりと見回した後、一呼吸おいて葉巻の男がそう宣言した。同時に、商人の男を含めた残り三人が同時に手札を開く。
「AとKのフルハウス、また僕の勝ちですね」
葉巻の男は2と3のツーペア、もう一人のウイスキーグラスの男はQのスリーカードだった。
「おいおい、今度こそ俺の勝ちだと思ったのによ」
ウイスキーグラスの男があからさまに悔し気な表情を浮かべた。
「うわっ、マジかよ!
あんた、ツキまくりじゃないか!
身ぐるみ剥いでさらにはあのメイドさんも奪っちまおう
って考えてたのによ」
「あんた、実はあのこうやってメイドを撒き餌にして、
俺たちの様な奴らをカモにするプロじゃねぇのか?」
商人の男が各々の前に積まれた掛け金を、嬉しそうにかき集めるのを見ながら男達が感嘆の声を上げた。
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