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第8話
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「いえ、いえ、本当に今日はツイてるだけですよ。
僕は賭け事は嫌いじゃないですが弱い方でして。
本来ならキルシュの方がこう言う事は得意なのですがね」
「おいおい、本当かそれは。
あのメイドさんがあんちゃんより勝負ごとに強いなんてな。
後でメイドさんも引き込んで金だけじゃなく体の方もなんて、
悪い事考えてたんだが先に聞いてて良かったぞ」
「妄想と股間膨らませて勝負挑んで、
逆に財布をすっからかんにされちまうところだったぜ」
「いやぁ……悪い事は出来ないもんだねぇ……」
男が謙遜気味にそう言うと、男達は笑いながら口々に言った。そう言いながら葉巻の男はテーブルに広がったカードを再びまとめて切り始めた。
そんなテーブルを、カウンターの中から遠めに見ながら女将はその口元ににやりと不気味な笑みを浮かべた。
「では、これで書類上は問題ないと思いますがいかがでしょう?」
まるで貴族の書斎と見まごうばかりに立派な町長の執務室で、ソファーに必要書類を広げながらメイドが尋ねた。
「いやいや、国会公認万能メイドのあなたが作った書類なら、
私が確認するまでもなくまず間違いはないでしょう」
メイドの前にはこの街の町長が人懐っこそうな笑みを浮かべて座っていた。
自身もそう名乗っていいるから町長に間違いないのだろうが、この部屋と言いい、男の着ている服装と言い、町長と言うよりは明らかに一昔前の『領主』と言う方がしっくりくると、メイドは思った。
男はそう言いながらも、素早くメイドの提出した書類に鋭い目を走らせていた。そして、小さく頷くと自身の前に置かれていた書類に、これまた古風な羽根ペンで自身をサインをさらさらと書いた。
「では、これがこの街での商行為許可書となります。
有効期限は一か月ですのでそれを超える場合は、
三日前までにまたこちらで更新手続きをお願いいたしますね」
そう言ってその書類をメイドの方へ差し出しながら、何かを思い出したように続けた。
「おっと、こんな事はあなたなら言わずとも、
もう分かりきった事でしたね」
男はメイドを見て笑った。
メイドは渡された書類に素早く目を通した。書類の形式や文章、そして間違いなく今日の日付が入っている事、さらには町長のサインが事前に確認しておいた物と名も筆跡も同じである事までもこの一瞬でメイドは確認を済ませていた。
「今回は町長様自ら手続きをしていただいて誠にありがとうございます。
その上、素顔を隠したままのご無礼までお許しいただき、
クローバニアの商人『ハロルド=ウェールマン』付きメイド、
『キルシュ=リンハルト』心より町長様に感謝を申し上げます」
メイドは一度ソファーから立ち上がると、片足を後ろへ引きスカートを広げて頭を下げた。
「いやいや、そんな御大層な事は結構ですよ。
ただ、田舎の街ゆえ、キルシュ殿の様な
『国家公認万能メイド』とお会い出来るのは滅多にない機会。
それ故、お時間が許せば少しお話がしたかっただけですから……」
男は笑みを浮かべながら謙遜気味にそう言うとメイドにまたソファーに座る様に促した。メイドもそれを聞いて、もう一度軽く頭を下げると再びソファーに腰をおろした。
「キルシュ殿は国家公認万能メイドであられる上に誠にお美しい。
その上、黒い瞳と黒髪とは本当に珍しい。
話には聞いたことがあったが初めて見ましたよ。
何と言うか、凛と咲く黒百合の様に素敵な方だ」
「それは、お世辞とは言え身に余るお言葉。
しかし、私は他の女性達の様に美しい色の髪や瞳を持たぬ、
カラスの様に卑しい姿の辺境部族の女です。
それに最初にお詫び申し上げた様に私は、
顔に酷い火傷の痕があり、とても他人に素顔を晒す事の出来ぬ醜い女。
しかも、たぶん、町長様が思われているよりかなり年増です」
言葉ではそう言いながらメイドは少し恥じらう様に答えた。
「いやいや、その漆黒の髪と瞳は本当に素晴らしですよ。
例え素顔を晒せぬともそのままで十分私はお美しいと思いますよ。
それに年増などとたいそうなご謙遜を。
どう多く見積もっても二十歳代前半まででしょうに」
男はメイドそう言って微笑んだ。実際、この時、男はその纏う雰囲気と仮面の下から見える顎と口元の感じからメイドの事を二十歳前後と読んでいた。
僕は賭け事は嫌いじゃないですが弱い方でして。
本来ならキルシュの方がこう言う事は得意なのですがね」
「おいおい、本当かそれは。
あのメイドさんがあんちゃんより勝負ごとに強いなんてな。
後でメイドさんも引き込んで金だけじゃなく体の方もなんて、
悪い事考えてたんだが先に聞いてて良かったぞ」
「妄想と股間膨らませて勝負挑んで、
逆に財布をすっからかんにされちまうところだったぜ」
「いやぁ……悪い事は出来ないもんだねぇ……」
男が謙遜気味にそう言うと、男達は笑いながら口々に言った。そう言いながら葉巻の男はテーブルに広がったカードを再びまとめて切り始めた。
そんなテーブルを、カウンターの中から遠めに見ながら女将はその口元ににやりと不気味な笑みを浮かべた。
「では、これで書類上は問題ないと思いますがいかがでしょう?」
まるで貴族の書斎と見まごうばかりに立派な町長の執務室で、ソファーに必要書類を広げながらメイドが尋ねた。
「いやいや、国会公認万能メイドのあなたが作った書類なら、
私が確認するまでもなくまず間違いはないでしょう」
メイドの前にはこの街の町長が人懐っこそうな笑みを浮かべて座っていた。
自身もそう名乗っていいるから町長に間違いないのだろうが、この部屋と言いい、男の着ている服装と言い、町長と言うよりは明らかに一昔前の『領主』と言う方がしっくりくると、メイドは思った。
男はそう言いながらも、素早くメイドの提出した書類に鋭い目を走らせていた。そして、小さく頷くと自身の前に置かれていた書類に、これまた古風な羽根ペンで自身をサインをさらさらと書いた。
「では、これがこの街での商行為許可書となります。
有効期限は一か月ですのでそれを超える場合は、
三日前までにまたこちらで更新手続きをお願いいたしますね」
そう言ってその書類をメイドの方へ差し出しながら、何かを思い出したように続けた。
「おっと、こんな事はあなたなら言わずとも、
もう分かりきった事でしたね」
男はメイドを見て笑った。
メイドは渡された書類に素早く目を通した。書類の形式や文章、そして間違いなく今日の日付が入っている事、さらには町長のサインが事前に確認しておいた物と名も筆跡も同じである事までもこの一瞬でメイドは確認を済ませていた。
「今回は町長様自ら手続きをしていただいて誠にありがとうございます。
その上、素顔を隠したままのご無礼までお許しいただき、
クローバニアの商人『ハロルド=ウェールマン』付きメイド、
『キルシュ=リンハルト』心より町長様に感謝を申し上げます」
メイドは一度ソファーから立ち上がると、片足を後ろへ引きスカートを広げて頭を下げた。
「いやいや、そんな御大層な事は結構ですよ。
ただ、田舎の街ゆえ、キルシュ殿の様な
『国家公認万能メイド』とお会い出来るのは滅多にない機会。
それ故、お時間が許せば少しお話がしたかっただけですから……」
男は笑みを浮かべながら謙遜気味にそう言うとメイドにまたソファーに座る様に促した。メイドもそれを聞いて、もう一度軽く頭を下げると再びソファーに腰をおろした。
「キルシュ殿は国家公認万能メイドであられる上に誠にお美しい。
その上、黒い瞳と黒髪とは本当に珍しい。
話には聞いたことがあったが初めて見ましたよ。
何と言うか、凛と咲く黒百合の様に素敵な方だ」
「それは、お世辞とは言え身に余るお言葉。
しかし、私は他の女性達の様に美しい色の髪や瞳を持たぬ、
カラスの様に卑しい姿の辺境部族の女です。
それに最初にお詫び申し上げた様に私は、
顔に酷い火傷の痕があり、とても他人に素顔を晒す事の出来ぬ醜い女。
しかも、たぶん、町長様が思われているよりかなり年増です」
言葉ではそう言いながらメイドは少し恥じらう様に答えた。
「いやいや、その漆黒の髪と瞳は本当に素晴らしですよ。
例え素顔を晒せぬともそのままで十分私はお美しいと思いますよ。
それに年増などとたいそうなご謙遜を。
どう多く見積もっても二十歳代前半まででしょうに」
男はメイドそう言って微笑んだ。実際、この時、男はその纏う雰囲気と仮面の下から見える顎と口元の感じからメイドの事を二十歳前後と読んでいた。
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